FIREというと、40代で早期リタイアする人もいますが、今は70歳まで働く人も多い時代です。そのため、55歳から60歳でのリタイアも社会的にはもはや早期リタイアといえます。
個人投資家の夢「FIRE」は実現困難だが、諦めたらそこで終了ですよ
個人投資家なら誰もが憧れるFIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的独立と早期リタイア)ですが、実現はなかなか困難です。
FIREのベーシックなモデルでは、25年分の生活費を資産形成することで、その4%の収益を確保し取り崩せば、資産は減らさずに暮らしていけると説明されます。
日本では区切りがいいこともあって、「年400万円の生活費×25年=1億円」と目標設定されることが多いのですが、現実問題として40代で1億円の資産形成を実現することは容易ではありません。
1億円の資産形成に成功した人を「億り人」と敬意を込めて呼ぶのも、実現が簡単ではないからです。しかし、最初から諦めてしまってはゲーム終了です。FIREについて、いくつか前提を変えながら可能性を高める方法がないか考えてみましょう。
拠出額の倍増、あるいは期待リターンの倍増、両方実行しても40代でのFIRE実現は難しい
FIREを短期で実現しようと思ったら、「早期の資産形成スタート」がもっとも重要です。また、「毎月の拠出額を高く設定する」ことも必要です。そして「期待リターンを高める」ことが資産形成の速度を速めます。
一般的な資産形成として、以下の三つを条件に行ったとします。
- 25歳スタート(45歳まで20年間)
- 毎月3万円
- 年4.0%のリターン
そうすると、45歳の時点での資産形成額は金融庁のシミュレーターによると約1,100万円となります。これでは1億円のFIREには遠く及びません。
では、毎月積立額を月10万円までアップして、以下の条件で行うとどうなるでしょうか。
- 25歳スタート(45歳まで20年間)
- 毎月10万円
- 年4.0%のリターン
この場合、45歳時点での資産形成額が約3,668万円となり、目標に少し近づいてきました。ただし、25歳の時点で月10万円の積み立てをするならば、かなり目の前の生活を削ることになります。1億円をこの条件で達成したいのであれば、だいたい月28万円の積み立てが必要です。
積立額は据え置き、年利を倍にした以下の条件だとどうなるでしょうか。
- 25歳スタート(45歳まで20年間)
- 毎月3万円
- 年8.0%のリターン
年8%のリターンは、近年の株価上昇でいえばありえなくもない数字です。ただ、投資資金のほとんどを株式投資などに回すことになります。試算としては約1,767万円となるので、ずいぶん資産の成長が実現しますが、やはり足りません。
年8%の条件はそのままに、毎月の積立額を増やしていけば資産形成は早まります。月18万円の積み立てであれば45歳で1億円になります。しかし、20年間ずっと年率8%の成績が続くというのは、かなり幸運のあった結果でしょう。少なくとも一度くらいは大暴落と回復の期間が生じる可能性があり、資産形成の足踏みが生じるかもしれません。
一方で、この15年のように、想定以上の高利回りが続く可能性もゼロではありません。
先ほどの20年という条件でも年15%という望外の期間に遭遇することができれば、月7万円の積み立てで1億円を実現することができます(途中、一度も出金せず投資継続できた場合ですが)。
55歳、60歳をターゲットにもう一度計画してみよう
「やっぱり、FIREは無理か…」とガッカリする必要はありません。40代でのFIREの難易度が高いとしても、FIREチャレンジをしている人の資産形成は絶対にムダにならないからです。
私は、55歳から60歳でのリタイアを「リトルFIRE」と提案しています。社会全般としては65歳定年への移行が進み、70歳までの継続雇用も増えるなど、高齢期雇用の進展があり、実際多くの人が60代後半も働いています。男性に限れば、6割以上が60代後半も働いている現状があります。
リトルFIREのメリットとしては、会社員の場合、退職金がほぼ満額に近づいていること(しかも55歳以上だと自己都合退職しても減らされないことが多い)、厚生年金額もそれなりの水準に達していることが挙げられます。これは、退職金受け取り額も少なく、公的年金水準も低くなってしまう40代FIREとの大きな違いです。
準備額も1億円に設定する必要はありません。例えば、60歳リタイアであれば、65歳までの5年間の生活費と、65歳以降、公的年金で不足する分を準備するだけで済みます。運用収益にずっと依存し続ける計画にしなくても大丈夫です。
55歳リタイアの場合、10年分の生活費が必要ですが、40代FIREと比べて積立期間も10年ほど増えることから、年15%のような幸運がなくても十分に実現可能性が生まれてきます。
※ 60代後半男性就業率 高齢社会白書
リトルFIREは条件がそろえば十分に可能
リタイア後に年400万円を使い、老後に2,000万円+1,000万円を別途確保すると考えた場合、以下のように仮定します。(ここでは55歳、60歳を例にあげます)
- 60歳リタイア:5年分の2,000万円+老後資金3,000万円で合計5,000万円
- 55歳リタイア:10年分の4,000万円+老後資金3,000万円で合計7,000万円
退職金は各社各様ですが、ここでは仮に1,000万円と置くと、資産形成で目標とすべき金額はそれぞれ4,000万円、6,000万円となります。
そうすると、以下のイメージになります。
- 60歳リタイア(目標4,000万円):25歳から35年、月4.5万円、年利4.0%で達成
- 55歳リタイア(目標6,000万円):25歳から30年間、月9万円の積み立て、年利4.0%でおおむね達成
これだけ長期に及ぶ資産形成においては、8%あるいは15%のような年利獲得は難しいと考えられます。そのためここでは試算はしませんが、望外の高利回りが実現すれば、さらなる早期リタイア、あるいは豊かなリタイアを実現できるでしょう。
55歳リタイアは現実的でなかったとしても、個人投資家が努力をしていたなら60歳リタイアは十分に可能ではないかと考えられるのです。
リトルFIREでも十分に早期リタイアを楽しめる!
「55歳から60歳のリタイアなんてFIREじゃない!」と思われるかもしれませんが、55歳から60歳は十分に体力も気力も残っており、リタイア生活を楽しむことができると思います。
また、同窓の友人あるいは同僚たちが65歳あるいはそれ以上働いているのを尻目に、早々にリタイア生活に入るのは十分に楽しいことだと思います。しかもお金の不安は解消されているため、のんびりとリタイア生活に入れます。
これに対し、標準的なFIREを行い、40代でリタイア生活をスタートすると、資産運用のかじ取りは難しくなります。新規の入金がなく、定期的な引き落としが確定している難しいマネジメントとなるからです。
特に株価急落時のかじ取りは苦労します。これも55歳から60歳のリトルFIREであれば、リスクを落として安定運用と割り切る戦略も取れ、精神的負担を軽くすることができます。
現在、運用が順調に推移している人は、「65歳まで働く」「65歳以降も働く」ことと「60歳リタイアあるいはもっと早いリタイア」をてんびんにかけて検討してみてはどうでしょうか。
(山崎 俊輔)