最高値更新に沸く日経平均。この熱狂の陰には、見過ごしてはならない四つの懸念材料があります。
一時4万4,888円、日経平均最高値
先週の日経平均株価は1週間で1,749円(4.1%)の大幅上昇で、4万4,768円となりました。最高値を更新し、12日には一時4万4,888円をつけました。
<日経平均週足:2024年1月4日~2025年9月12日>

以下、四つの好材料が上昇に寄与しました。
【1】9月4日、日米関税合意に基づく大統領令にトランプ大統領が署名、自動車関税が9月16日までに15%に引き下げられる見通しに。
【2】5日発表の8月米雇用統計が弱く、9月17日の米利下げはほぼ確実に。
【3】7日石破茂首相が辞任を発表、新首相への期待が先行。
【4】米国株でAIブーム継続。AI関連株の構成比率が高いナスダック総合指数が先週1週間で2.0%上昇して最高値を更新。その流れを受けて、日本でもAI関連株・半導体関連株の上昇が目立ちました。 ソフトバンクグループ(9984) が先週17%、 アドバンテスト(6857) は22%上昇して、日経平均株価の上昇をけん引しました。
四つの懸念材料
ただし、楽観ばかりできるわけではありません。今、株を上昇させている四つの強材料にそれぞれ不安があります。
【1】日米関税合意、対米5,500億ドル投資に不安
私が一番心配しているのは、日米関税合意に含まれる、対米5,500億ドル(約80兆円)投資の進め方です。
米国側にあまりに有利な内容で、このままの条件では、米国政府が指示する投資案件への投資が困難となる可能性もあります。トランプ大統領が指示する案件への投資を日本が拒否する場合、米国は日本への関税を引き上げる、と明記されているので、先行きの不安材料として残ります。
【2】米景気が冷え込むリスクに注意
関税ショックがあるにもかかわらず、米景気は足元堅調です。ただし、雇用が悪化してきていることに表れている通り、想定以上に米景気が弱くなるリスクがあることに注意が必要です。
【3】ポスト石破政権の不安
後継首相への期待で株価が上昇しています。特に、野党の要求を入れて、財政拡張・景気刺激策が取られることに対する期待で盛り上がっています。
ただし、実際に後継首相が決まってから、期待通りに景気刺激策が取られるかどうかは分かりません。後継首相が決まった後、内閣支持率があまり上昇しないようだと、株式市場にとってネガティブになる可能性もあります。
【4】AIラリー
生成AIを活用したビジネスの革新が世界中で一斉に進み始めたことが好感されています。ただし、それにしても足元のAI関連株の上昇ピッチは、米国も日本も速すぎると思います。AI関連株にやや過熱感が出ていることに注意が必要と思います。
対米投資の進め方に大きな問題
9月4日にトランプ大統領が署名した大統領令で、日本政府が約束した対米5,500億ドル投資について、「歴史的に重要な合意」「米国政府が投資分野を決定する」と書かれています。
対米投資の進め方について、日米両国政府が署名した合意の「覚書」に詳しく記載されています。米国側に著しく有利な条件で、先々問題が起こる可能性もあります。
<日米合意覚書のうち、米国企業に有利と考えられる部分>

覚書を読むと、事業に必要な資金に日本の政策投資銀行などの融資を使うが、事業主体は米国企業が想定されている、と考えられます。日本企業が技術を有する分野について、日本企業は事業に必要な技術や材料などを提供するベンダーやサプライヤーとして入るだけと思われます。
ラトニック商務長官はメディアのインタビューで「日本からの投資は、日本企業が行う投資ではない」とはっきり言っています。日本政府も、日本からの投資は、「政府系金融機関を通じた投融資」と述べています。その意味では、説明は一致しています。
失敗するリスクが大きくて、米国の民間企業がちゅうちょする投資案件について、日本の政府系金融機関がリスクを取って資金をつけて実行させるのが、トランプ政権の狙いと考えられます。投資が成功すれば、回収されるキャッシュフローの半分を使って、日本政府系金融機関の融資は返済されます。投資が失敗に終わる時は、日本政府系金融機関に巨額の損失が発生するリスクがあります。
日本株の投資判断
日米株価にやや過熱感があります。株価の上昇分を少し利益確定売りするのも良いと思います。
日本株の長期的な見方は変わりません。日本株は割安で、長期的な上昇余地は大きいと考えています。これからも、急落・急騰を繰り返しながら、上昇していくと思います。
日本株の保有がほとんどない方は、少しずつ、時間分散しながら割安な日本株に投資していくことが長期の資産形成に寄与すると思います。
日本株をたくさんお持ちの方は、値上がりした部分を、少し利益確定するのも良いと思います。売る場合は、一度に多く売り過ぎず、時間分散しながら少しずつ売るなど、値上がりによって増えた分を利益確定するイメージで良いと思います。
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(窪田 真之)