長らくドル/円相場を動かしてきた「日米金利差」の法則が、今、揺らいでいます。先行きFRBの利下げと日銀の利上げが見込まれる中、円高が進みにくくなっています。
ドル/円を動かす要因、「日米金利差」だけではない
為替を動かす要因は無数にありますが、一番重要なものは「日米金利差」です。
日米金利差が拡大すると円安(ドル高)が進み、日米金利差が縮小すると円高(ドル安)が進む傾向が、過去20年以上にわたり顕著に見られてきました。
ところが、2024年以降、日米金利差と為替の動きに、異変が出ています。日米金利差は縮小しているのにもかかわらず、円高が進みにくくなっています。
<ドル/円為替レートと、日米2年金利差の推移:2020年1月~2025年9月(29日)>

2024年以降、米国FRB(連邦準備制度理事会)は利下げの方向へ転じ、日本銀行(日銀)は利上げを行ってきました。その結果、日米金利差が縮小しつつあります。これは円高(ドル安)要因です。しかしながら、為替市場で円高が進みにくくなっています。
FRBは9月に0.25%の利下げを実施しました。年内さらに利下げを行うと見られています。一方、日銀は利上げタイミングを計っています。
にもかかわらず、ドル/円為替レートは最近落ち着いています。投機筋に円高を仕掛ける動きはあまり見られません。日米金利差が円高要因となりそうである一方、別の要因が円安要因として働いているからです。
私は、以下の、二つの要因が円安圧力として働いていると考えています。
【1】日本の貿易収支が構造的赤字に。トランプ関税によりさらに赤字拡大の可能性。
【2】対米直接投資の拡大により、金融収支赤字がさらに拡大する可能性。
以下、この二つの要因についてさらに詳しく説明します。
トランプ関税によって貿易収支・金融収支の赤字拡大の可能性
トランプ関税がもたらす変化は、一時的ではなく構造的と考えられます。つまり米国は高関税国に転換し、今後も元に戻ることはないと考えられます。
米国は巨額の関税収入を得たことにより、財政が一時的に黒字となりました。
日本にとって大きな構造変化をもたらします。まず、近年の日本の国際収支の変化をご覧ください。
<日本の国際収支(暦年ベース)、主要項目抜粋:2020年~2024年>

【1】日本の貿易収支が構造的赤字に。トランプ関税によりさらに赤字拡大の可能性。
日本は、戦後、巨額の貿易黒字を稼ぎ続けてきた国でした。1964年と1980年に一時的に貿易赤字になったことはありますが、それ以外は黒字でした。
ところが、近年は貿易赤字が定着しています。対米では貿易黒字を稼いでいるものの、原油ガスの輸入により、対中東で貿易赤字が続いているからです。今後、トランプ関税の影響によって対米黒字が減少すると、トータルで貿易赤字が拡大する可能性があります。
日本の貿易収支が構造的な赤字体質に変わったのは2011年以降です。
2015年には原油ガス価格の大幅下落によって、貿易黒字に戻りました。ただし、2022年にロシアによるウクライナ侵攻によって原油価格が大幅に上昇すると、また貿易赤字になりました。足元、原油価格の下落で赤字が縮小していますが、トランプ関税という新たな材料が加わり、赤字が長期化する可能性もあります。
【2】対米直接投資の拡大により、金融収支赤字がさらに拡大する可能性
対外純資産が世界で2番目に多い日本は、海外からの利息・配当金によって、毎年巨額の所得収支黒字を稼いでいます。ただし、その大半が、そのまま海外への直接投資に使われ、国内には還流していませんでした。
今後、トランプ関税の影響で、日本企業は対米投資をさらに増やす必要が生じる可能性があります。日本政府がトランプ政権に対して5,500億ドル(約80兆円)の対米投資を約束した影響も出てくるでしょう。所得収支を上回る直接投資が必要になることも考えられます。
当面のドル/円見通し
私はメインシナリオで、米景気ソフトランディングを予想しています。トランプ関税の影響で景気減速が見込まれるものの、景気後退は回避されると見ています。
トランプ関税の影響が、構造的な円安要因として働いています。日米金利差の縮小が円高要因となるものの、トランプ関税が円安要因となり、ドル/円は上下双方とも大きな動きが発生しにくい展開が続くと考えられます。
(窪田 真之)