中国の建国記念日に当たる国慶節の前夜祭で、習近平国家主席が毎年恒例の談話を発表し、乾杯の音頭を取りました。その談話からは、中国という巨大国家がどこへ、どのように向かおうとしているのかの一端が見えてきます。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 国慶節の前夜祭で習近平氏が語った「中国のいまとこれから」 」
国慶節前夜に習近平国家主席が恒例の談話を発表
10月1日は、中国の国慶節(建国記念日)に当たります。これから8日までの8日間、中国では長期休暇ということで、旅行に行かれる方、帰省する方を含め、「民族大移動」が起きますから、空港や鉄道の駅はごった返しになるでしょう。
引き続き迷走する景気動向という観点からすれば、この8日間におけるヒト、モノ、カネのダイナミックな移動によって、どれだけの経済効果が生まれるかが注目です。10月の景気指標がどう出てくるか、しっかりフォローしたいと思います。
また、この国慶節休暇で日本に観光に来る中国人民も少なくないはずです。各地において、いつもより多くの中国人観光客を見かけることになるかもしれません。「中国国慶節の日本の内需や治安への影響」という視点も持ちながら観察すると、見えてくるものがあるかもしれません。
中国では毎年、国慶節の前夜祭として、9月30日の夜に、国務院(政府)が主催するレセプションが行われ、最高指導者が乾杯の音頭を取り、あいさつをします。建国76周年に当たる今年も、習近平国家主席が談話を発表しました。
中華人民共和国を象徴する赤色のネクタイを身に着けた習近平氏が談話の中で発したメッセージは、中国語で千字以内と比較的短い内容でした。
以下、習近平氏の国慶節談話から中国の現在地と行き先を読み解いていきます。
五つのポイントから読み解く「習近平談話」
談話には五つのポイントが含まれていたように思います。以下、習氏の肉声を私が翻訳したものを引用しつつ、それらが中国の現在地と行き先を占う上で何を意味し、示唆するのかを解説していきたいと思います。
「今年に入って以来、複雑な情勢に向き合う中、われわれはより一層包括的に改革を深化させ、質の高い発展を着実に推し進め、国民生活を保障、改善すべく尽力してきた。全面的に厳しく党を治めることを推進し、党と国家を巡る各事業は新たな進展と成果を得た」
示唆:「複雑な情勢」は第2次トランプ政権の発足を主に指しているものと思われます。国内外の情勢が複雑に絡み合い、変化する中でも、中国共産党がリーダーシップを発揮し、経済活動や国民生活の発展や保障に尽力してきた、決して簡単な道のりではなかったという、問題解決を巡る「複雑性」と「困難性」を匂わせていると解釈しました。
「来月、わが党は第20期中央委員会第4回全体会議(四中全会)を開催し、『第15次5カ年計画』に関する提言を研究し、制定する。われわれは新たな時代の新たな旅路における党の中心的任務に基づき、『第15次5カ年計画』が掲げる発展の目標と任務、戦略的措置をしっかりと計画、実施することで、社会主義現代化の基本的実現が決定的な進展を収められるように保証していくべきだ」
示唆:日本メディアでも最近よく報じられていますが、四中全会という5年に1度しか行われない極めて重要な共産党の会議が10月20~23日に北京で開催されます。そこでのメインテーマが、2026~2030年に向けた第15次5カ年計画の策定になります。
2030年に向けて、中国がどのように成長していくのか、そのために何が必要で、何が足りていないのかに関する、共産党指導部の現状認識や課題意識が見えてくると思います。四中全会閉幕後、本連載でもレビューしたいと思います。
「新たな旅路において、われわれは『一国二制度』の方針を断固として実行し、香港とマカオが国家全体の発展により良く融合し、より良い経済的成果を上げ、人民の福祉を向上させることを支援すべきである。われわれは両岸の交流と協力を深化させ、『台湾独立』という分裂活動や外部勢力からの干渉に断固として反対し、中国の主権と領土の一体性を断固として守らなければならない」
示唆:香港で「一国二制度」がきちんと実行されるかに関しては、この期間も物議を醸してきましたが、少なくとも言えるのは、香港という国際金融センター、アジアのビジネスハブの在り方というのは、これまでよりも「中国的」「中国式」になっていくことが必至だと思います。「中国あっての香港」という流れが不可避であることをこの段落は物語っています。
台湾問題に関しては、とにかく「台湾独立」やそれを企てる人間や動きに断固反対していくこと、「外部勢力」(米国や日本を指す)による内政干渉を許さないこと、という従来の主張や立場が示されています。
今回の国慶節談話が、昨年以前と比べて一層強硬になったというわけではありませんが、習近平氏率いる中国共産党、人民解放軍が、独自のスタイルとタイムテーブルで「台湾統一」という悲願を達成すべく着実に動いてくるのは必至だと思われます。
「100年に1度の変局が加速、推移する国際情勢に向き合う中で、われわれは全人類にとって共通の価値観を大々的に掲げ、真の多国間主義を実践し、グローバル発展イニシアチブ、グローバル安全保障イニシアチブ、グローバル文明イニシアチブ、グローバル・ガバナンス・イニシアチブを実践することで、各国と手を携えて人類運命共同体を構築していく」
示唆:この段落は、中国の国際社会における野心を如実に物語っています。習近平氏としては、ここに掲げられた複数のイニシアチブを主導し、中国こそが多様性に満ちたこの世界で真の普遍的価値観を普及させ、「人類運命共同体」という習近平新時代の産物を実現できるのだという壮大な構想が示されています。
実際にそのプロセスがどこまで成功するのか、国際社会で受け入れられるのかに関しては不確実ですし、私も懐疑的にみています。一つ言えるのは、米国に対するライバル心がむき出しになっているという点です。米中対立は長期化するでしょう。
「中華民族の偉大なる復興は誰も達成したことのない偉大な事業である。憧れと挑戦は、われわれに一刻を争う努力と決して怠らない奮闘精神を奮い立たせる。
示唆:2012年秋に発足した習近平政権は「中華民族の偉大なる復興」=「中国の夢」を常に大々的に掲げてきました。その後、「中国式現代化」という概念を提起することになっています。
現代化、近代化というのは、産業革命以来、人類が普遍的に掲げてきた目標であり、発展モデルですが、特に習近平政権以降の中国は、単なる現代化ではなく、「中国式」の現代化を追求すると公式にうたっているわけです。要するに、政治体制、経済成長、社会構造などを含め、中国の現代化プロセスは、西側諸国や日本とは質的に異なるプロセスになるということです。
我々もそれを前提に、「中国も自由化、民主化すべきだ」といった希望的観測や幻想を抱くことなく、「中国は中国」「我々は我々」と割り切って、その上で強かに、実利ベースで、辛抱強く付き合っていくくらいのドライさが求められるのかもしれません。
(加藤 嘉一)