2025年年初から中国の主力ハイテク株の上昇が目立つ。1月のDeepSeek公開、AI半導体の増産計画によって、AIとAI半導体を両輪とした成長が期待できよう。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 中国のハイテク株(AIとAI半導体の両輪で成長する中国ハイテク産業) 」
毎週月曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:アリババ・グループ・ホールディング( 09988(香港) 、 BABA(NYSE) )、バイドゥ( 09888(香港) 、 BIDU(NASDAQ) )、 テンセント・ホールディングス(00700、香港) 、 SMIC(00981、香港) 、 シャオミ(01810、香港)
1.中国ハイテク株のパフォーマンスが良好。
今回は中国ハイテク産業、特にAIとAI半導体の今後の可能性を分析します。
グラフ1は世界の主要株式指数の年初からの動きを見たものです。2025年年初を100として国際比較したものです。2月のトランプ暴落(米国のトランプ大統領が関税の大幅引き上げを発表したことに伴う暴落)からの戻りの過程では米国株、日本株が大きなパフォーマンスを上げていますが、年初からの動きを見ると香港ハンセン指数の動きが際立っています。
チャートを見ると以下の如くです。
また、中国株に投資するETF、中国の有力なハイテク企業を見ても、年初から順調に株価が上昇している銘柄が出ています。
例えば、上場投資信託(ETF)では香港上場の、「 グローバルX MSCI 中国 ETF (Global X MSCI China ETF)」(香港、ストックコード:03040) です。中国のあらゆる産業の主要企業約560社に投資するETFです。年初からのパフォーマンスは43%(分配金再投資後の基準価額の騰落率)になります。私がこのETFに注目する理由は、組み入れ銘柄数が約560銘柄と多いことです。中国におけるAIとAI半導体の普及は様々な産業を大きく変える可能性を持っていると思われますが、どの産業にどの程度の寄与があるのか、まだはっきりしません。その場合、極めて幅広い銘柄に投資するETFは重要と思われます。
2つ目は、 「グローバルX チャイナテック ETF」(東証、380A) です。6月20日に設定された後に東証に上場した新しいETFですが、すでに32%のパフォーマンスを上げています。香港市場の主要なハイテク分野の上場企業30銘柄で構成されるハンセンテックインデックスをベンチマークにしたETFで、これら30銘柄に投資しています。
個別株では、私が8月からレポートを書いた銘柄、テンセント、アリババ、バイドゥ、シャオミ、そして今回取り上げたSMICの過去1年間のチャートが以下の通りです。
特に個別株のチャートを見ると、過去3カ月間で押し目らしい押し目がなく順調に上がるか、急騰していることがわかります。世界の機関投資家、ヘッジファンド、大口の個人投資家で、中国株にまとまったポジションを持っていない投資家が多いためではないかと思われます。上値に大した売り物がないために買えば素直に上がる構図ではないかということです。
もしそうであるならば、中国株の相場はまだまだ続くと思われます。今後予想される中国のハイテク分野での大変化、特にAIの普及とAI半導体の増産によるハイテク経済の大変化を予想した投資が続くと思われるからです。
グラフ1 主要株価指数の2025年年初からの変化

グラフ2 香港ハンセン指数

グラフ3 グローバルX MSCI中国ETF

グラフ4 グローバルX チャイナテックETF

グラフ5 テンセント・ホールディングス

グラフ6 アリババ・グループ・ホールディング

グラフ7 バイドゥ

グラフ8 SMIC

グラフ9 シャオミ

2.AIとAI半導体の両輪で中国ハイテク産業の成長が始まった。
中国株の良好なパフォーマンスの背景にあるのが以下の動きです。
1)DeepSeekが中国ハイテク株の株価上昇の発端になった。
まず、今年1月下旬に公開された「DeepSeek-R1」によって、中国のAIとソフトウェアの開発水準の高さが認識されました。AI半導体の使用を節約する効率化されたプログラミング、エヌビディアのAI開発用ソフトウェアのシリーズで業界標準となっている「CUDA(クーダ)」を回避して開発したことなど、自由世界の生成AIにないユニークな中身が評価されました。
また、「DeepSeek-R1」がオープンソースであることも重要です。ソースコード、モデルアーキテクチャだけでなく、学習済みモデル(ウェイト、パラメータ)、学習データセット、学習プロセス、論文とも公開されています。これらを丸パクリして付加価値を付けた生成AIがいくつも中国で出ています。その結果、DeepSeekのユーザー数は3月をピークにして減少している模様ですが、中国全体の生成AI開発水準の底上げにDeepSeekは大いに寄与したと思われます。特に、開発コスト、運用コストが米国の生成AIよりも安い模様であることは、エヌビディア製のような高性能AI半導体を使わなくとも、中国製AI半導体と中国製生成AIを使ったシステムが米国の人口3.3億人をはるかに上回る14億人の人口を擁する中国でちゃんと動くであろうことを示すものです。
2)中国独自のAI半導体の開発、生産が活発になってきた。
2024年から中国のハイテク大手のファーウェイがAI半導体の開発、生産を活発化させています。ファーウェイが昨年開発して発売したAI半導体「Ascend910B」は、TSMCなどの海外企業から重要部品を輸入したものであり、完成度の低いものでした。今年に入って発売したAI半導体「Ascend910C」も、性能は向上している模様ですが、TSMC製の「ダイ」(半導体チップをダイという)とサムスン電子、SKハイニックス製「HBM2e」を搭載している模様です。
最近の報道では、ファーウェイは「Ascend910C」の生産数量を2026年に約2倍にする計画ということです。また、中国のDRAM大手「CXMT」(2024年からHBMの初期段階のスペック「HBM2」を量産開始したと言われる)とNAND大手の「YMTC」が、HBMの開発、生産で提携すると報じられています。CXMTはすでに「HBM3」のサンプル出荷を開始したと言われています。
さらに、AI半導体はダイが大きいことが特徴です。ダイが大きな半導体は生産しにくく検査しにくいため、エヌビディア、AMD、ブロードコム等自由世界のAI半導体は現在のところ全て大きなダイの生産に長けたTSMCで生産されています。もし、ファーウェイが設計した半導体(スマートフォンのチップセットやAI半導体の一部)を長年生産してきたSMICがある程度ダイの大きな半導体を生産することができるようになったのであれば、中国のAI半導体生産は相当程度自立することになると思われます。
ファーウェイに続き、バイドゥ、アリババ、スタートアップ数社で、独自のAI半導体を開発する動きがあります。ファーウェイは現在深セン市に大型半導体工場を建設中ですが、ここではスマートフォン用チップセットとともにAI半導体を生産すると言われています。ただし、高度な生産技術が必要なAI半導体の量産の場合は、SMICの協力が不可欠になると思われます。
このような、AIとAI半導体の動きに対して、中国のハイテク産業を再評価する動きがあります。
なお、AI半導体の中国国内での生産については、中国の半導体製造装置メーカーに大きなプラスの影響があると思われます。例えば、中国トップの前工程装置メーカーのナウラ・テクノロジー・グループ(深センA株)は、一桁ナノ台の生産が可能な製造装置への進出を強めており、中国国内の市場シェアが上昇しています。これは、一桁ナノ台の生産が可能な製造装置、EUV露光装置やそれ以外の前工程装置は米国、日本、欧州から輸入できないからです。
ただし、後工程は今のところ規制がありませんので、中国がAI半導体の大幅増産を行うときは、日本のアドバンテスト(SoCテスタ)の中国向けが増加する可能性があります。
3)ここ数年間、世界の投資家は中国株投資を避けてきた。その結果、中国株は割安になった。
米国の対中国半導体輸出規制、対中国半導体製造装置輸出規制によって、中国のハイテク産業の成長が大きく躓いたという基本認識が世界にあったと思われます。また、中国国内の景気が思わしくなかったことも加わり、過去数年間は中国株投資を避ける傾向があったと思われます。
ところが、中国の主要企業は、人口14億人の経済を背景に一定の成長を実現してきました。その結果、中国のハイテク企業の株価は割安になりました。これは、米国や日本の主要ハイテク企業の株価が比較的割高になってきているため、目立つものになっています。
3.中国主要ハイテク企業の業績動向と目標株価。
アリババ・グループ・ホールディング、バイドゥ、テンセント・ホールディングスの今後6~12カ月間の目標株価を以下のように引き上げます。前回のレポートでは、楽天証券の来期予想1株当たり利益(EPS)に今の評価である株価収益率(PER)20~25倍を当てはめましたが、今回はより高い評価である想定PER25~30倍を当てはめました。
米国のGAFAMの評価が中国の大手IT企業の評価より高いものになっていること、AI半導体を1個生産し、データセンターに導入することによる収益寄与は、データセンター投資がすでに巨大化している米国企業よりも中国企業のほうが大きいと思われることを重視しました。
また、シャオミは前回の74香港ドルを維持します。新型EVの販売が好調に伸びていますが、自動車メーカーとしては販売台数がまだ少ないため、株式市場での評価がまだ確立していないと思われます。
SMICの今後6~12カ月間の目標株価は115香港ドルとします(レポートは別稿)。
テンセント・ホールディングス:前回740香港ドル→今回850香港ドル
アリババ・グループ・ホールディング:前回190香港ドル→今回240香港ドル
バイドゥ:前回145香港ドル→今回180香港ドル
シャオミ:前回74香港ドルを維持
SMIC:新規115香港ドル
表1 テンセント・ホールディングスの業績

表2 アリババ・グループ・ホールディングの業績

表3 バイドゥの業績

表4 シャオミの業績

表5 SMICの業績

本レポートに掲載した銘柄:アリババ・グループ・ホールディング( 09988(香港) 、 BABA(NYSE) )、バイドゥ( 09888(香港) 、 BIDU(NASDAQ) )、 テンセント・ホールディングス(00700、香港) 、 SMIC(00981、香港) 、 シャオミ(01810、香港)
(今中 能夫)