アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は現在のAIブームを「良いバブル」と評しました。巨額のAI投資も未来への価値ある遺産になるという見方です。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 それでも株価の上昇は続く? 米AI相場の「バブル論」を検証 」
ジェフ・ベゾス氏の言う「良いバブル」とは?
2025年10月3日、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が現在の人工知能(AI)ブームを「良いバブル」と評したことが話題を呼びました。
これは、最近の株式市場でAIをテーマにした半導体関連株やテック株が上昇を続けている状況に対する発言なのですが、そもそも「バブル」とは、株価が本来の企業価値から大きく乖離(かいり)して高騰していく相場局面を指し、バブルが崩壊すれば株価が急落してしまう危うい状態とも言えます。
ベゾス氏の発言からは現在の状況がバブルであることを半ば認めつつも、あえて「良い」という形容詞を付けたわけです。
こうした発言の裏にあるベゾス氏の真意としては、今回のAIブームを単なる投機的な「金融バブル」ではなく、社会の礎を築く「産業バブル」と捉えている点にあると思われます。
かつてのバブルと言えば、1990年代後半の「ドットコムバブル」が思い出されます。当時も熱狂的な株価上昇が崩壊したことで、多くのIT企業の倒産と投資家の損失という痛みを伴いましたが、結果的に世界中に光ファイバー網という現代に不可欠なインフラを残したほか、生き残った企業のいくつかは、大手テック企業として現在も輝きを放っています。
当時の株式市場の熱狂がなければ、これほど大規模で急速なインフラ整備は実現しなかったかもしれません。
現在のAIブームもこの視点から捉えることができそうです。
「現在のAIへの巨額投資が、将来のAI社会に欠かせない価値ある遺産を前倒しで構築している」というのがベゾス氏の見解と思われます。
現在はAIバブルか否か?
ベゾス氏の発言はいったん脇に置いておいて、「足元のAI株の上昇はバブルか否か?」という問いについては、現在も相場参加者の間で意見が割れている状況です。
「バブル派」の根拠としては、一部の巨大テック企業の株価が株価収益率(PER)などの面でITバブル時のピーク時に迫る歴史的な水準にあることをはじめ、少数の銘柄に集中する格好で株価が上昇していること、そして、AIインフラを提供する企業は巨額の利益を上げているものの、そのAIインフラを使ってサービスを展開する多くの企業が、投資に見合うだけの利益を将来にわたって生み出せるのかがまだ不透明であることなどが挙げられます。
<図1>「ハイプ・サイクル」

また、上の図1は、「ハイプ・サイクル」というモデルを示したものです。
ハイプ・サイクルとは、IT調査会社のガートナーが提唱している、新しい技術やイノベーションが世に登場してから定着するまでの過程を、期待度と時間を軸にして可視化したグラフです。
「黎明期」から始まり、「過度な期待のピーク期」を迎え、期待が行き過ぎたところで、現実とのギャップを埋め合わせしていく「幻滅期」へと入り、イノベーションによる現実的な利点や限界が理解され始め、社会的な認識が深まる「啓発期」を経て、イノベーションや技術が広く利用されてビジネスへの貢献が安定していく「生産性の安定期」へと至っていきます。
あらためて、AIをこれに当てはめて考えていくと、現在のAIはそろそろ「過度な期待のピーク期」の天井に近づき、現実的な課題に直面する「幻滅期」に差し掛かっている可能性があります。連日でメディアをにぎわす報道や、「AI」という言葉がつくだけで株価が上がるような状況は、期待が先行している証左と言えます。
その一方で、「非バブル派」については、エヌビディアなどに代表されるテック企業がきちんと収益や利益成長を生み出しており、かつて赤字企業が中心となっていたITバブル時代の構図とは異なり、AIブームは「実需」に支えられている面があります。
そのため、実態を伴わない熱狂ではなく、AI相場をけん引している大手テック企業の財務基盤も健全なのでバブルではないという見方です。
こうした議論は、株価の急ピッチな上昇を金融現象として見るか、産業革命として見るかの視点の違いに起因していますが、現時点では、「確かな技術革新を土台としながらも、投資家の期待がやや先行し過ぎて、バブル的な側面も併せ持っている」状態と判断するのが妥当なところかもしれません。大きい泡の「バブル」ではなく、小さい泡の「フロス」という見方もあります。
とはいえ、どれだけ「良い」とされたバブルだとしても、歴史を振り返れば、いつかは終わりを迎えます。ベゾス氏率いるアマゾンもITバブル崩壊時には株価が90%以上暴落した過去があるため、今後もバブルを巡る議論は続くことになります。
AIの将来性は変わらないが、リスク要因も
バブルであるかどうかにかかわらず、AIが描く将来を先取りして上昇してきた株式市場は、ひとまず行き過ぎた相場の過熱感を冷やす、調整局面が訪れることになりそうです。ただ、「その時期がいつになるのか?」「いざ株価が調整局面に入った際に、そこが買い場になるのか?」が気になるところです。
まずは、来週から本格化していく企業決算を見極めていくことになります。足元のAIブームを支えるだけの業績や見通しを示せるかが焦点になり、市場の期待に応える内容となれば、相場が一段高していくと予想される半面、期待に届かない、もしくは材料出尽くしとなった場合には調整局面入りする可能性があります。
仮に、決算をきっかけに調整局面が訪れた場合、買いの好機になるのかについても考えていきます。
AIがもたらす生産性の向上や技術革新のスピードアップは、あらゆる企業にとって不可欠な課題です。コスト削減や新サービスの開発など、AIを活用しなければ競争から取り残されるという認識が企業のAI投資を強力に後押ししています。
また、米中間の技術覇権争いに見られるように、AIは国家の競争力そのものを左右する戦略的技術となっており、国家レベルでの投資も今後ますます活発になると思われます。
そのため、AIへの投資意欲は今後も続くと考えられ、基本的に株価の調整局面は買いの好機になると思われます。ただし、過去のレポートでも述べたように、PEGレシオなど、株価の割高度によって銘柄の選別が進むかもしれません。
▼2025年9月25日のレポート
息を吹き返した米AI相場「買われ過ぎで割高」銘柄に注意(土信田雅之)
<図2>【参考】米主要銘柄の「PEGレシオ」(2025年10月8日時点)

AI関連銘柄はここ数年間の間に大きく上昇し、先ほども述べたように、PER面で割高となっているものが多くなっています。
PEGレシオは「PER÷利益成長率」で計算されますが、その背景には、「PERが割高でも、利益の成長率もそれに合わせて伸びていれば適正」という考え方があります。例えばPERが50倍でも利益成長率が50%ならば、PEGレシオは1倍となり、成長性に見合った適正水準となります。
図2では、2025年10月8日時点での米国主要銘柄のPEGレシオを示していますが、かなりバラツキがあることが分かります。株価が下落した際、適正水準の銘柄は下値で買いが入りやすく、割高な銘柄については売り込まれる可能性があります。
このほか、AI投資の行方は必ずしも順調とは限りません。先ほどのハイプ・サイクルでも見てきたように、AIに対する期待度の変化に注意しておく必要があるほか、以下のような「向かい風」が吹いてくることも想定しておく必要があります。
【向かい風になりそうな要因】
■マクロ経済の不確実性
米国では今もなお、インフレ警戒が根強く残っています。インフレの高止まりや高金利は、株式市場全体にとって重荷になり、AIのような成長株は金利の影響を受けやすく、景気が減速すれば企業のIT投資意欲が減退し、AI需要が落ち込む可能性があります。
■物理的な制約
AIインフラは電気と水を大量に使用します。すでに一部地域では、データセンターの建設ラッシュに電力供給が追いつかないという深刻な問題が発生しています。こうした物理的な制約が、AIの成長ペースにブレーキをかけるかもしれません。
■供給過剰リスク
各社が競ってデータセンターを建設した結果、数年後にAIインフラが供給過剰に陥り、クラウドサービスの価格競争(値下げ合戦)が激化して収益性が悪化するリスクも指摘されています。
AI企業の巨額の投資は報われるのか?
また、現在のAI相場に対する懐疑的な見方の一つに、「大手テック企業が投じている年間数十兆円という巨額の規模の投資は報われるのか?」という視点があります。
これについても、今後の決算で見極めていくことになりますが、マイクロソフト、アマゾン、アルファベットといった巨大プラットフォーム企業がAIインフラへの投資を積極的に進めている理由とは何でしょうか。
例えば、マイクロソフトが提供する「Copilot」など、自社で開発するAIアプリサービスは、高い利益率が見込まれており、こうしたサービスを支える基盤としてAIインフラへの投資が必要となるほか、拡充したデータセンターやクラウドサービスなどのインフラを企業に貸し出すことで、さらなる収益が見込めます。
このように、巨大プラットフォーム企業にとってAIインフラへの投資は、「自社サービスでもうける」ことと、「他社にインフラを貸してもうける」という二つの収益サイクルを生み出す、必要不可欠な戦略投資と言えます。
その一方で、これらの巨大インフラ投資が報われるかどうかは、今後、多種多様なAI活用ビジネスがどれだけ花開くかにかかっています。
現在は、いわばAIインフラという壮大な「劇場」を建設している段階ですが、重要なのはその舞台上でどのような「演目(=AIを活用したビジネス)」が生まれるかです。もし魅力的なビジネスが育たなければ、巨大なインフラ投資は回収できず、市場は大きな「幻滅期」を迎えることになります。
これまでのインフラ投資額の規模と比べて、足元のAI活用ビジネス全体の規模はまだ小さい状況です。このギャップが、株式市場の「期待先行」や「バブル」と指摘されるゆえんでもありますが、時間の経過とともに、AIがもたらす「社会全体の生産性向上の総量」が、この巨額の投資額を上回れるかどうかで、投資の成否が判断されることになります。
ある意味、壮大な社会実験を行っている状況であり、最終的な審判が下されるまでにはまだ時間が掛かりそうです。
(土信田 雅之)