株主優待が目的の投資であっても、最低限のリスク管理は必要です。今回のクイズでは、破綻直前と再生後の日本航空(JAL)のバランスシートを比較し、財務不安のある企業の見分け方を解説します。

「難しい分析は苦手」という方のために、シンプルな損切りルールも紹介します。


【クイズ】財務危機銘柄の見分け方:優待投資家も必見の「損切り...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 人気の株主優待銘柄でも損切りは必要?財務をチェック【クイズでわかる!資産形成】 」


今日のクイズ

<クイズ>破綻直前のバランスシートはどっち?


 以下のA社・B社は、どちらもJALのバランスシートです。一方は、2010年1月に会社更生法を申請する直前の2009年3月期末、他方は再生後の2025年3月期末のものです。このうち、2009年3月期末のバランスシートはどちらでしょうか?


<A社・B社のバランスシート> 
【クイズ】財務危機銘柄の見分け方:優待投資家も必見の「損切りルール」を学ぶ
出所:日本航空2009年3月期有価証券報告書、同2025年3月期有価証券報告書より筆者作成。総資産を100とした比率で表示。純資産=自己資本として表示

バランスシートとは

「バランスシートって何?」という人のために、簡単に説明します。


 バランスシート(貸借対照表)は、「資産、負債、資本の目録」です。企業の資産残高を左側に、負債と資本の残高を右側に記載されており、企業の財務状況が一目で分かります。バランスシートでは、事業に使う資産を得るための資金を「どう調達したか」が示されています。


バランスシートの例
【クイズ】財務危機銘柄の見分け方:優待投資家も必見の「損切りルール」を学ぶ
出所:筆者作成

 上の例では、資産100億円を、負債(借金など)60億円+資本(株主の出資金など)40億円で調達したことが分かります。


 この会社は、自己資本比率(資本÷総資産)が40%です。この程度の自己資本比率であれば、財務内容は良好と言えます。返済義務のないお金(資本)の比率が低すぎると、財務に不安が生じます。


 なお、今回のクイズに登場するバランスシート中の用語も説明します。流動資産、流動負債、固定資産、固定負債の意味は、以下の通りです。


【流動資産】=1年以内にキャッシュ化できる資産
【流動負債】=1年以内に返済期限が来る負債
【固定資産】=現金化するのに1年以上かかる資産
【固定負債】=返済期限が1年以上先の負債


正解

 破綻前、2009年3月末の日本航空のバランスシートはB社です。


【1】B社の財務に二つの問題


 自己資本比率(純資産比率)が11.2%しかありません。金融機関であればこの程度の自己資本比率でも問題ありませんが、普通の事業会社としては低すぎる印象です。


 もう一つ、問題があります。流動負債(1年以内に返済期限が来る負債)が、流動資産(1年以内にキャッシュ化できる資産)より大きいので、資金繰りに苦労することが想像できます。


 流動比率は100%以上であることが普通で、200%以上が理想的です。


【流動比率】=【流動資産】÷【流動負債】×100(%)
【B社流動比率】=27.8÷37.1×100=74.9%


 B社は財務的にゆとりがありません。


【2】A社(2025年3月末のJAL)は財務に問題ありません


 A社は自己資本比率が32.2%あり、流動資産が流動負債よりも大きいので問題ありません。


 A社流動比率=39.9÷35.9×100=111.1%


 ただし、流動比率は111.1%にとどまります。200%あるわけではないので、「財務優良」とは言えません。


 2010年に破綻したJALは、構造改革によって財務や収益力を改善して復活しました。

2021年3月期と2022年3月期には、新型コロナ禍による航空需要の落ち込みで2期連続の赤字となりました。しかし、コロナの影響が減少した2023年3月期から黒字に戻っています。


 収益力も財務も改善した今のJALは、配当利回りが高め(10月14日時点で3.2%)の人気優待株として、長期投資する価値があります。


破綻前のJAL投資の教訓

 破綻前のJALのようなバランスシートの会社には、投資してはいけません。当時、私が所属していた投資顧問会社では「財務に問題あり」という理由で、買い付け禁止リストに入っていました。


 バランスシートを見れば、買うべきでないことは明らかでした。この時のJALには3,315億円の退職給付債務の積み立て不足がありました。退職給付債務とは、従業員に将来支払うことを約束している年金や退職金に備えるための積立金です。


 この時の自己資本(純資産)は1,968億円しかありませんでしたから、実質的には自己資本がマイナス(債務超過)でした。


 当時も今も、株主優待を狙う個人投資家の間でJALは人気銘柄です。破綻前の2009年当時、財務不安で株価が下がっていくJALを個人投資家がどんどん買っていました。しかし、株価が下げ続ける銘柄は買うべきでありません。


株価が2割下がったら「売る」を徹底すべき

 バランスシートを見て、財務分析できない個人投資家は、どうしたら良いのでしょうか? 答えは簡単です。どんなに大好きな銘柄でも、買ってから2割下がったら、とにかく売るべきです。

優待目的の投資であっても同様です。


 優待を楽しみながら、長期投資するのは、とても良いことですが、株式投資の最低限のリスク管理として、「2割下がったら問答無用の売り」を徹底した方が良いと思います。


 ところで、皆さまは現在、日本株で買ってから2割以上、下がった銘柄を保有していますか? 14日の日経平均株価は大きく下落しましたが、それでも、史上最高値に近い水準です。


 これほど日経平均が強い時に、2割も下がっている株は、何か構造的な問題を抱えている可能性があります。損切りした方が良いでしょう。


テクニカル・ファンダメンタルズ分析を詳しく勉強したい方へ

 最後に、株式投資を書籍でしっかり勉強したい方に、私の著書を紹介します。ダイヤモンド社より、株価チャートの読み方をトレーニングする「株トレ」(黄色の本)と、決算書の見方などを学ぶ「株トレ ファンダメンタルズ編」(水色の本)が出版されています。どちらも一問一答形式で株式投資の基礎を学ぶ内容です。


「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ 」


「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編 」


【クイズ】財務危機銘柄の見分け方:優待投資家も必見の「損切りルール」を学ぶ
「株トレ」 シリーズ2点の書影

(窪田 真之)

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