3割勝てばOK。「負けない」米国株投資術とは？ロジャーパパさんインタビュー（後編）

　前編では、日本株での大失敗と、外資系企業で20年間働いた経験から「米国株が最強」に至った投資哲学に迫りました。ロジャーパパさんの投資スタイルは、資産を明確に分けて管理する「コア・サテライト戦略」です。

　後編では、FIREを達成したポートフォリオの中身と、誰でもまねできる「コア・サテライト戦略」のルールについて話を聞きました。

守りの「コア」と攻めの「サテライト」規律ある投資で成功をつかむ

トウシル：前編でご紹介いただいた「コア・サテライト戦略」ですが、まず、これがどういう考え方なのかを改めて教えていただけますか？

ロジャーパパさん：「コア・サテライト戦略」とは、自分の総資産を「守りながら着実に増やすコア（核）部分」と、「積極的にリターンを狙うサテライト（衛星）部分」に明確に分けて投資する手法です。僕の場合、投資資産の9割を「コア」、残りの1割を「サテライト」に配分しています。

　コア資産は長期的な視点でどっしりと構え、S＆P500種指数の投信積立のように相場が上がろうが下がろうが何も変えずに買い続ける、資産形成の土台です。

　一方のサテライト資産は、そのコアが守ってくれているという安心感の下、短期的なトレードなどで楽しみながら少しリスクを取って高いリターンを目指すための資産です。この二つをしっかり分けることで、精神的な安定を保ちながら、規律ある投資を続けることができるんです。

絶対に離さない！資産の心臓部となる「コア資産」

トウシル：総資産の9割を占める「コア」の部分が非常に重要になるわけですね。その内訳はどのようになっていますか？

ロジャーパパさん：コア資産のうち、7割をインデックスファンドと個別株、残りの2割を金（ゴールド）、1割を仮想通貨や不動産で構成しています。

　コアはS＆P500とナスダック100のインデックスファンドを中心にしつつ、最近ブラックロックとコラボした上場投資信託（ETF）の「 iS  NASDAQ トップ30（392A） 」も保有しています。これらはNISA成長投資枠も活用しながら、相場状況にかかわらず定期的に買い付けを続ける、絶対に動かしてはいけない資産形成の心臓部です。

トウシル：米国の個別株もコアとして保有されているとのことですが、どのような銘柄でしょうか？

ロジャーパパさん：例えば マイクロソフト（MSFT） 。この会社は、過去20年前から、世界の時価総額トップ3に入っていた唯一の銘柄です。時代が移り変わっても常にトップに君臨し続け、今もオープンAI（人工知能（AI）を開発する米国企業。2025年時点で未上場）への投資でAIブームをけん引しています。

　あとは、私自身が9年間働いていた アマゾン・ドット・コム（AMZN） ですね。成長性と企業文化の底力を身をもって体験しているので、社員時代に受け取った株も含め、ずっと売らずに持ち続けています。個別株をコアに据えるなら「この会社が50%暴落しても、自分は買い続けられるか？」と自問できるほど、深い理解と信頼が持てる銘柄に絞るべきです。

トウシル：出口戦略も見据えた銘柄はありますか？

ロジャーパパさん：僕も50歳が近づき、資産を使うフェーズも意識し始めています。重要になるのが、 プロクター・アンド・ギャンブル（PG） のような連続増配株ですね。P＆Gは60年以上も増配を続けていて、長く持っているだけで取得価格に対する利回りがどんどん上がっています。

　10年も持てば利回りが7～8%になっているので、「売る理由」がないんです。将来、じぶん年金のように配当を受け取るための選択肢として、コアに組み入れています。

なぜ今「金（ゴールド）」を持つべきなのか

トウシル：コア資産の2割を金が占めているのも特徴的ですね。以前から重視されていたのですか？

ロジャーパパさん：実はYouTubeを始めた2020年から、金の重要性についてはずっと発信してきました。当時はあまり視聴されませんでしたが（笑）、僕にとって金は「暴落への保険」なんです。資産が億単位になってくると、株が半分になっただけで数千万円が吹き飛びます。

　実際にコロナショックの時、株価は34%下落しましたが、金は最大でも9%しか下がりませんでした。その後、株価より早くV字回復して、その年の8月には最高値を更新しています。このように、株と違う値動きをする資産をポートフォリオに組み込むことで、資産全体の値動きをマイルドにすることができるんです。

トウシル：金は今、史上最高値圏にありますが、ここから買っても大丈夫でしょうか？

ロジャーパパさん：長期的な視点で見れば、全く問題ないと考えています。金は「世界最古の通貨」であり、その価値は各国が発行する通貨の量と反比例します。

　コロナ禍以降、世界中で大量の現金が刷られましたが、金の価格はまだその上昇に追いついていません。また、世界の中央銀行がドルへの依存を減らして金を買い増している流れも、金の価値を支えています。コア資産として積み立てで買っていくなら、価格が下がった時こそ「やっと安く買える！」と喜ぶべきタイミングです。

　ETFの SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト（GLDM） や、楽天証券のNISAの成長投資枠で買える投資信託「 ステート・ストリート・ゴールド・オープン（為替ヘッジなし） 」などが投資しやすいと思います。

トウシル：分散投資の観点から全世界型投資信託（オール・カントリー）を選ぶ人も多いですが、どう思われますか？

ロジャーパパさん：正直に言うと……僕はオール・カントリー型投資信託の安易な選択には大反対です。その理由は「不調な国や地域だけを切り離すことができないから」に尽きます。

トウシル：なるほど……とはいえ、世界中に分散できる安心感は魅力ではないでしょうか？

ロジャーパパさん：いやいや。そもそもの話として、S＆P500に投資するだけで、十分に世界分散はできているんですよ。S＆P500採用企業の売上の約3割は米国外からもたらされており、これはオール・カントリー型投資信託の海外比率とほぼ同じです。 アップル（AAPL） や テスラ（TSLA） のような米国企業が、われわれの代わりにインドや中国の経済成長を取りに行ってくれているわけです。

トウシル：なるほど。米国株が世界経済をほぼ包括しているとお考えなんですね。

ロジャーパパさん：考えてみてほしいんですが、あなたは、中国共産党の政策リスクを信じて中国株に投資しますか？　今は調子がよくても、またIT規制の一声でテンセント（中国の大手IT企業）の株価が暴落するかもしれません。

　そのリスクを自分で取るよりも、アップルのティム・クックたち世界最高の経営者たちが率いる米国企業の判断に任せた方が、効率的でリスクも低いんじゃないでしょうか。

　それでもなお米国以外に分散投資したいなら、その国の株や投資信託を買うほうがいいでしょう。インドに投資したいなら、インドに絞った投資信託を自分で買うべきです。そうすればインドの市況を自分で判断して売却できますからね。

勝率3割でOK！楽しく利益を狙う「サテライト戦略」の極意

トウシル：総資産の1割を占める「サテライト」について教えてください。

ロジャーパパさん：サテライトは、コアとは全く違うゲームです。損をしたとしても楽しくリスクを取りにいける銘柄を含んでいて、短期売買と長期保有に分けて取引しています。

トウシル：サテライトでは、長期と短期、投資に対するスパンを変えているのでしょうか？

ロジャーパパさん：はい。重視しているのは「損切り」です。下がった銘柄を全て保有しっぱなしにすると、資金効率が悪くなって勝てなくなってしまうので。その上で、短期銘柄は、ルールを設けた機械的なトレードを徹底しています。

　僕が参考にしているウィリアム・オニールの「CAN-SLIM（キャン・スリム）投資法」に倣い、7%下がったら機械的に損切り、20%上がったら利確というルールに従い、逆指値注文を使って取引しています。ここには感情は全く込めません。

　これを繰り返せば、また極端な話ですが、勝率がわずか30%でもトータルで負けない取引ができるんです。10回トレードして、3回勝てば、利益はプラス60%。残りの7回が全敗だったとしても、損失はマイナス49%。差し引きでプラスのリターンが残ります。

トウシル：長期保有側はどのような考え方をしているのですか？

ロジャーパパ：いずれ売却することを前提に、ある程度下落してもじっくりと持ち続けるようにしています。例えば エヌビディア（NVDA） が一時的に7%を超えて下がったとしても、世界最大の時価総額を誇る企業価値を信じて持ち続けます。かといってコアほど強固に握り続けるつもりはないので、30～40%下がったら損切りするかもしれません。

　エヌビディアの株であっても「こうしたら正解」という持ち方はありませんので、市場の動きを見ながら柔軟に売買する対象として捉えています。

投資するよりされる側になれ！ロジャーパパ流金融教育

トウシル：明確な投資理論をお持ちであることは伝わってきました。その投資に対する姿勢や考え方は、お子さんに伝えているのでしょうか。どんな金融教育をされているのか気になります。

ロジャーパパさん：実は投資教育といえるようなことは特にしていないんですよ。お年玉を、ジュニアNISAから続けている子供名義の口座で運用していますが、子供本人は「なんとなく増えているらしい」くらいしか理解していないと思います。

　投資教育以上に伝えているのは「投資にはお金が必要である」ことと、「投資してもらえるような人間になれ」ということです。

トウシル：投資される側の人間、ですか。

ロジャーパパさん：そうです。

「勉強が嫌だ…」とこぼすときがあるんですが、私は「みんな、漢字が書けたり計算ができたりする人と仕事したいはずだよね。将来、パパみたいに人に使われないで暮らすには、まずは自分が［人に投資してもらえる人間］にならないとダメだよね」と話しています。

トウシル：給料のためにあくせく稼ぐのではなく、人やお金が寄ってくるだけの人間になれ、と…。素晴らしい教育方針ですね！

ロジャーパパさん：旅行に行くときも、子供は「ビジネスクラスに乗りたい」なんて言いますが、エコノミーにしか乗せませんよ（笑）。「ビジネスクラスに乗るには、お年玉じゃ全然足りないね。自分で稼げるようになってからだよ」と、欲しいものを手に入れるにはお金が必要であるという現実を教えています。

　今の日本は投資をしたい人であふれていますので「やりたいことにお金を出してもらうためには何をすればいいのか」というマインドセットをしてあげたいと思います。だから、「もし面白い企画を考え付いたら、パパが出資してあげるよ」と約束をしています。

自分自身に投資してもらえるような人間を目指すことが、トータルの勝利につながる

トウシル：NISAの整備や好調な市場に後押しされ、投資にチャレンジしようという方が増えつつあります。最後に、これから資産形成を始める読者へメッセージをお願いします。

ロジャーパパさん：多くの日本人は「受験失敗」「就職失敗」のように、一度の失敗が許されない教育を受けてきました。その価値観で「失敗を避けたい。上がる銘柄しか買いたくない」と捉えてしまうので、少しの下落にも耐えられずにすぐに手放してしまいます。

　投資は短期の勝ち負けだけでみるのではなく、トータルで勝てばいいことを学んでほしいですね。長い歴史の中で市場は右肩上がりを続けていますので、長期的に保有できる銘柄をがっちりと握りながら、チャレンジングな取引も楽しんでもらいたいと思います。

トウシル：勇気が出るお言葉です！

ロジャーパパさん：一方で、逆説的になりますが、若いうちは資産運用を考えずに、自分自身にどんどん投資してほしいと思います。節約して自己投資もせず、たまったお金をオール・カントリー型投資信託に積み立てるような生活は、長い目で見れば大きな損失につながります。若いうちは失敗のコストが低いのですから、転職でも起業でもどんどん挑戦してほしいですね。

　息子たちに伝えているように「投資してもらえるような人間になる」ための行動こそが、将来何より大きなリターンを生み出す最高の投資になりますから。

トウシル：米国株の話をお伺いするつもりでしたが、最後は人生哲学を教えていただきました。学びながら投資し続けることが、大きな成功につながる近道なのかもしれません。今回は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました！

日本株で1,500万円を失った投資家は、なぜ米国株に全てを賭けたのか？ロジャーパパさんインタビュー（前編）

（トウシル編集チーム）