10月最終週となった今週の日経平均は、ついに5万円の大台を突破しました。4月の底値から半年ちょっとで1万9,000円も上昇した一方で、予想PERが19倍を超え、「割高」との警戒感も強まっています。

このPERの高さをどう見るべきか。PERの基本をおさらいしながら、「実績」や「予想」という二つの側面とその見方を整理します。


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著者の土信田雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 知っていそうで知らない「PER」のホントの見方 」


5万円を超えてきた日経平均のPERは?

 10月最終週となった今週の株式市場ですが、週初の27日(月)の取引で、日経平均株価がついに5万円台に乗せました。


 2025年の日経平均は4月7日に底打ちして以降、急ピッチな株価上昇ペースを続けてきましたが、底打ちした4月7日の終値が3万1,136円、そして10月27日の終値が5万0,512円ですので、わずか半年ほどの間に1万9,000円以上も上昇したことになります。


 こうした足元の状況を受けて、今後の日経平均の先行きに対して「まだまだ上昇できる」という強気な見方と、「さすがに上げ過ぎでは」という慎重な見方で意見が交わされていますが、後者の見方をとる理由の一つとして、「株価収益率(PER)が高水準で、割高感がある」という点が挙げられます。


 実際に、27日(月)時点における国内株市場のPERを見ると、以下のようになっています。


2025年10月27日時点の国内株市場のPERの状況


項目名 前期基準 予想 日経平均225銘柄 18.05倍 19.28倍 東証プライム市場 17.65倍 18.50倍 東証スタンダード市場 16.67倍 15.55倍 東証グロース市場 145.31倍 37.93倍 出所:日本経済新聞掲載データを基に作成

 上の表で日経平均に注目すると、前期基準で18.05倍、予想ベースで19.28倍となっています。


「そもそも、PERの前期基準とか予想ベースって何?」という疑問を持たれる方もいるかもしれませんが、その説明は後ほど行います。まずは予想ベースのPERの推移を時系列のグラフで確認してみたいと思います。


<図1>日経平均とPER(予想ベース)の推移(2025年10月27日時点)


日本株はもう割高?「PER」のホントの使い方
出所:MARKETSPEED IIおよび 日経平均プロフィル データを基に作成

 上の図1でも分かる通り、PERが株価に併走する格好で上昇しているほか、直近で最も高かった2024年5月の17.74倍を大きく上回っているため、確かに、過去の推移と比べると割高という判断もできそうです。


 では、「PERから見た日経平均は本当に割高なのか?」を判断するにあたって、意外に「知っていそうで知らない」PERの見方について整理したいと思います。


PERは株価を企業の「稼ぐチカラ」で測る指標

 PERの基本的な概要については、以前のコラムでも触れていますが、一言でPERを説明すると、「企業の稼ぐチカラと株価を比べたもの」です。


2025年2月19日: PERとPBRの目安は何倍?「稼ぐ力」と「割安水準」で銘柄選び


 株価はその時々のムードや景気の影響を受けて推移しますが、理屈の上では「企業の価値が反映されたもの」です。そして、その企業の価値は、「資産価値」と「事業価値(稼ぐチカラ)」の二つに大きく分けられます。


 従って、事業価値から見た株価の割高度を示すのがPER、資産価値から見たものが株価純資産倍率(PBR)です。


 また、PERとPBRの値は簡単な割り算で求めることができます。


<PERの計算式>
株価÷1株当たり純利益
※もしくは、時価総額÷純利益


<PBRの計算式>
株価÷1株当たり純資産
※もしくは、時価総額÷純資産


 なお、PER・PBRともに単位が「倍」で表されます。また、PER・PBRの数値が変化する要因は、株価の上下と1株当たりの純利益・純資産の増減です。


 これに加えて、企業の稼ぐチカラの効率性を示す自己資本利益率(ROE)との関係をまとめたものが下の図2になりますが、PERとPBR、そしてROEは3点セットで理解すると良いでしょう。


<図2>PER、PBR、ROEの関係


日本株はもう割高?「PER」のホントの使い方
出所:筆者作成

 ここで再び話をPERに戻しますが、稼ぐチカラは企業や業種によってさまざまです。そのため、銘柄ごとにPERの値もバラバラです。


 そのため、PERには明確な基準がなく、今のPERの水準が過去の推移や同業他社と比べてどうなのかといった具合に相対的に判断する必要があります。


 また、稼ぐチカラが強ければPERの値が高くなる傾向があります。


 例えば、東証グロース市場などの新興株市場にはPERが100倍を超える銘柄が多く存在しています。新興株市場の銘柄は会社の規模が大きくなくても、育ち盛りの途中で利益が毎年倍以上、もしくはそれ以上のペースで成長する企業も珍しくありません。


    よって、高いPERは割高というよりも成長期待の大きさが反映されている側面があり、足元で相場をけん引しているAI関連銘柄のPERが高いのも同様の理由す。


実績PERと予想PERについて

 PERの概要を把握したところで、ここでは前ページの表でも触れたPERの「前期基準」と「予想ベース」の違いについても見ていきたいと思います。


 前期基準のPERは、一般的に「実績ベースのPER」と呼ばれることが多いのですが、両者の違いは、計算の元になる「1株当たり利益(EPS)」をどの時点のものを使うかの違いです。


【実績ベースのPER】
 EPSをすでに確定している「直近の会計年度(前期)」の実績の利益に基づいて計算します。過去の実績に基づくため数値の信頼性は高いものの、企業の将来の成長性は反映されません。


【予想ベースのPER】
 企業が発表する今期の業績予想や、複数の証券会社のアナリストによる業績予想の平均値(コンセンサス予想)など、将来の利益予想に基づいて計算します。


 株式投資は「その企業の将来性」を見据えながら行うため、一般的に投資判断の材料として使われるのは予想PERです。金融情報サイトや証券会社のツールなどで単に「PER」と書かれている場合は、予想PERを指していることが多いです。


 足元では、日米で企業決算が本格化していますが、業績見通しが上方修正された場合は、EPSが増加する分、PERが低下するため、株価が上昇しやすく、下方修正となった場合にはEPSが減少するため、一気に割高感が強まって株価が下落しやすくなります。


実績PERはどんな時に使われる?

 では、「実績ベースのPERは使えないのか?」というと、そうではなく、「現在の予想PERが信頼できるか?」という検証や、「過去と比べて割安か?」という歴史の分析(ヒストリカル分析)などに使われます。


 具体的には以下のように使われます。


【予想PERと実績PERとの比較】
 極端な例ですが、実績PERが50倍なのに、予想PERが15倍と大きく差が生じた場合、株価があまり変わっていなければ、この企業の業績(利益)が前回の実績よりも3倍以上にV字回復すると見込まれていることを示します。


 もし、予想PERだけを見て「15倍だから割安だ」と飛びつくと、その強気の見通しが外れた時に株価が急落するリスクを負うことになります。実績PERと比較することによって、「本当にそんな急回復ができるのか?」と立ち止まって考えることができます。


【過去の株価水準との比較(ヒストリカル分析)】
 企業業績が市場の予想よりも上振れることもあれば、下振れることも日常茶飯事です。そのため、過去の予想ベースのPERを比較するのは、過去の「予想」が正しかったかどうか分からないため、不確かな分析になってしまいます。そのため、「確定した利益」に基づいて計算される実績ベースのPERを比較に使うことが多くあります。


【スクリーニング(銘柄の絞り込み)】
 例えば、証券会社のツールで「PER15倍以下の銘柄」を探す(スクリーニングする)際、実績PERと予想PERのどちらを基準にするかで結果が変わります。


 楽天証券の『スーパースクリーナー』でも、実績PERと予想PERを選択可能です。


※検索項目選択画面で、実績ベースは「財務」、予想ベースは「コンセンサス情報」の項目にあります。


 予想PERでスクリーニングをかけると、将来の成長期待が「過度に楽観的」な銘柄が混じる可能性がありますが、実績PERならばより手堅い銘柄リストを作ることができます。


結局、日経平均は割高なのか?

 最後に、これまで見てきたことを踏まえ、冒頭の日経平均の予想PERが割高かどうかについて考えていきたいと思います。


 27日(月)時点の予想ベースのPERは19.28倍となっていましたが、確かに、過去からの推移を見るとかなり割高に見えます。さらに、実績ベースのPERが18.05倍であることにも注目する必要があります。


 27日(月)の日経平均終値が5万0,512円でしたので、PERを逆算してEPSを求めると、予想ベースが2,620円、実績ベースが2,798円です。実は前期の利益を基準にした実績ベースの方が高くなっています。


 つまり、前期の実績から減益が見込まれている中でつけている、現在の19.28倍の予想PERは「かなり割高である」と判断できそうです。


 とはいえ、日経平均がそれでも5万円台に乗せたのは、来期以降の業績への期待が高まっていることが考えられます。3月から4月にかけての株価急落局面で、今期の減益をすでに織り込み、現在の市場はその先を見ている可能性があります。


 市場が織り込んだと思われる減益要因としては、例えば、米トランプ政権の関税政策や米中対立などの影響が挙げられます。これらが一時的な要因にとどまるのであれば、来期以降に企業業績がV字回復することが期待されます。現在の株式市場は「来期ベースで見れば割高ではない」と判断して上昇しているのかもしれません。


 あくまでもPER面からの視点ではありますが、もし、市場が期待する「来期以降のV字回復」シナリオが崩れた場合、高いPERを支えるものがなくなり、株価が急激に調整(下落)するリスクをはらんでいます。また、来期の業績の状況が見えてくるまでにはまだ時間があるため、どこかのタイミングで株価の下落を伴う調整が訪れる可能性も意識しておく必要がありそうです。


(土信田 雅之)

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