日中関係緊迫化や景気悪化懸念、高市政権の財政悪化懸念などの要因により円安一本調子が続いておりましたが、少し環境に変化の兆しが見られます。三つの環境要因が今後の為替市場にどう影響するか、詳しく解説します。


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一本調子の円安トレンドに三つの環境変化

 日中関係緊迫化による日本の景気悪化懸念や高市政権の総合経済対策21.3兆円を受けた財政悪化懸念による円安要因から、ドル/円は158円手前まで円安が進みましたが、これまでの一本調子の円安環境が少し変わってきたようです。


 その環境変化とは、(1)円安けん制姿勢、(2)日本銀行の利上げ期待、(3)米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待です。


1.強まった円安けん制姿勢

 片山さつき財務相は18日の閣議後会見で、為替動向は一方的で急激だとし、「憂慮している」との認識を示しました。為替について「憂慮」との表現を用いたのは初めてであり、木原稔官房長官も20日の記者会見で、円安進行を受けて「急激な動きを憂慮している」と話しました。


 そして21日、片山財務相は閣議後記者会見で、「足元の動きは非常に一方的で、急激だと憂慮している」との認識を改めて示した上で、「投機的な動向を含め、過度な変動や無秩序な動きは、日米財務相共同声明を踏まえ、必要に応じて適切な対応を取る」と述べました。為替介入は選択肢として「当然、考えられる」と明言しました。


 9月の日米財務相共同声明は「為替レートは市場で決定されるべきで、過度な変動や無秩序な動きは経済や金融の安定に悪影響を与え得る」として、為替介入は過度な変動に限るとの見解を示しています。


 今回の「一方的で急激」な円安を受けて、「日米財務相共同声明」に言及しており、為替介入は選択肢として「当然、考えられる」と述べたことは、これまでとは違う一歩踏み込んだ、従来よりもトーンが強まった円安けん制発言といえます。


 また、先週末23日には、高市早苗首相の経済ブレーンである日本成長戦略会議のメンバーの会田卓司氏が、政府はこれまでよりも為替介入を積極的にやり、「円安の副作用を軽減していくということになると思う」と述べており、介入への警戒感を高める発言となりました。


 そして今週に入っても、城内実成長戦略相が25日の閣議後会見で「為替相場は投機的動向を含め高い緊張感を持って見極めており、引き続き注視する」と述べるなど政府を挙げて円安警戒を発信しているようです。市場はこれらの一段上がったトーンの変化を敏感に感じ取り、介入警戒感が高まってきたことがドル/円の上値を抑え始めてきたようです。


2.日銀の早期利上げ期待浮上

 日銀の利上げについては、高市首相は金融緩和継続を望んでいるため早期の利上げは難しいだろうと思われていましたが、18日の高市首相と日銀の植田和男総裁との初会談では、植田総裁は、金融緩和の調整過程にあるとの説明に対して首相は了解していたとの認識を示すとともに、「首相から政策で要望は特になかった」と述べています。


 会談では緩和要請とか利上げ拒否といった強い内容がなかったことや、21日に発表された10月消費者物価指数(CPI)が前年比+3.0%と前月を上回ったこと、また、日銀の増一行審議委員が早期利上げに前向きな見解を示したことから、高市政権下での早期の利上げは困難との見方が後退し、12月(18~19日)利上げ観測が浮上してきたようです。


 このこともドル/円の円安進行を鈍らせる要因の一つになっているようです。


3.高まったFRBの利下げ期待

 FRBの利下げについては、19日に公表された10月28~29日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨で多くの委員が12月利下げに否定的な姿勢だったことが示されていたことや、20日に発表された9月雇用統計が強弱入り混じった内容であったため、12月利下げ期待が後退しました。


 米雇用統計後のフェドウオッチによる12月利下げ確率は4割程度だったのですが、21日のニューヨーク連邦準備銀行ウィリアムズ総裁の、近いうちに再び利下げを行う余地があるとの発言や、24日のウォラー理事の12月利下げ支持発言によって12月利下げ確率が8割以上に上昇し、市場の利下げ期待が一気に高まりました。


 ただ、10月分の米雇用統計と米CPIは11月の発表が中止となりました。雇用統計については、12月16日に11月雇用統計と合わせて10月分の雇用者数のみ公表予定で失業率は発表されないとのことです。また、CPIについては、10月分は一部の品目のみを11月CPIと合わせて12月18日に公表予定とのことです。


 このような状態だと12月9~10日のFOMCでは、データ不足のまま臨むことになります。FOMC内で意見が分かれている状態で正確な判断ができるのかどうか疑問が残りますが、雇用統計やCPI以外の経済指標があまり強くないことから市場の利下げ期待は持続することが予想され、ドルの上値を抑えることになりそうです。


 注意したいのは、この利下げ期待によって先週後半から米株は上昇していますが、もし、意見が分かれたまま据え置きとなった場合には、失望から株が下落することが予想されます。株の下落度合いによっては、ドルは利下げの時よりも下落するかもしれません。


 以上のようにこれらの変化を受けて、円安進行も鈍りそうな気配です。ただ、円安進行が鈍っても、円高転換するためには、実際にFRBが12月に利下げをするとか、日銀が12月に利上げを行うとかが明らかにならない限り、大きな動きはないかもしれません。


 今週27日(木)は米国のサンクスギビング(感謝祭)でいよいよクリスマスシーズンが始まります。重要指標の発表が遅れていることから、今年はFOMCの前に早めに手じまいしてクリスマス・年末相場に入るのか、それとも日米の金融政策の結果を見てからクリスマス・年末相場になるのかどうか注目したいと思います。


(ハッサク)

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