年末にかけて株価が上昇するさまを表現した「掉尾の一振」。非常に有名なアノマリーですが、実際のパフォーマンスはどうなのでしょうか。

米国の有名な「Sell in May」も含めて過去のデータを用いて検証します。


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二大アノマリー「掉尾の一振」と「Sell in May」

 皆さん、「掉尾の一振(とうびのいっしん)」というアノマリー(株式市場の経験則)をご存じでしょうか。株式市場で見られる「年末に向けて株価が上昇する」傾向が、捕らえられた魚が最後の力を振り絞って尾を振る様子に例えられています。想像するとなにやら縁起が悪そうですね。


 この「掉尾の一振」がアノマリーなのか、相場格言(1700年代にスタートした米相場の時代から伝わっているものや、過去の相場師たちの経験からつくられたものなど)なのかの議論は置いておきますが、12月に入るとさまざまなメディアで目にする用語であるのは間違いありません。


 一方、米国市場でよく用いられる「Sell in May(5月に売れ)」は、日本市場でも浸透しており、4~5月ごろの市場解説でたびたび登場します。日米株式市場が密接な関係であることが背景にあります。


 今回は、日米二大アノマリーである「掉尾の一振」と「Sell in May」は実際当てはまるのかどうか、ダウ工業株30種平均と日経平均株価のデータを用いて検証します。


過去75年間のNYダウと日経平均で、アノマリーを検証

 1950年1月から2024年12月までのNYダウと日経平均株価の月間騰落率を見てみます。まずNYダウの月間騰落率を確認すると、上昇率が高い「トップ3」の月は、11月、4月、12月。「ワースト3」は、9月、6月、8月でした。一方、日経平均株価の「トップ3」は1月、11月、4月。「ワースト3」は9月、7月、8月(5月も同率)がそれぞれランクインしています。


「Sell in May」の5月のNYダウはマイナス0.01%、「掉尾の一振」の12月の日経平均株価は+1.3%ですので、データを見る限り、アノマリー通りのトレードを行えば売買のパフォーマンスは悪くなさそうです。


日米株式市場の月次騰落率(1950~2024年)
明治HD、日本ハム、キリンHD…出遅れ日本株5選、「年末高シナリオ」に期待
岐阜信用金庫作成

 日経平均株価の推移を、3カ月を1本とする「四半期足」(1-3月、4-6月、7-9月、10-12月)で見ますと、第4四半期は2010年以降、2024年の15年間で計12回陽線を残していますので、「年末の日経平均株価は上がりやすい」と言えそうです。


 このような月次効果や四半期効果は、経済における景気循環や市場における相場循環も関係しているとみられます。


 経済には長期的な循環・サイクルが存在します。代表的なのは、「コンドラチェフ循環(長期波動)」や「ジュグラー循環(中期波動)」などの「景気循環」です。この景気循環は、需要と供給のタイムラグから発生します。


 例えば、ある商品の需要が増加すれば、価格は上昇します。そこで、生産者は供給を増やそうとしますが、増産には一定の時間がかかります。設備投資が進み、新たな供給が出てくれば、価格は下落に転じます。そして、価格下落は供給能力が削減されるまで続くこととなります。こうした流れが景気循環を生み出します。


 一方、市場では、景気と債券、株式、商品先物などの価格変動を基に、「金融相場」→「業績相場」→「逆金融相場」→「逆業績相場」という「相場循環」が存在します。それぞれの相場局面で、物色される「主役」の業種や企業は次々と交代します。


 強気局面の金融相場では、金融関連株、財政投融資関連株、公共関連株などが相場のけん引役となります。同じく強気局面の業績相場では、まずは素材産業などの大型株が上昇し、その後は加工産業や消費関連などの中小型株に波及していきます。


 景気循環、相場循環ともに数年から十数年と長期的な循環・サイクルですが、比較的短期な季節性の変動もあります。毎年同じ時期に繰り返される価格変動のパターンが「季節性(アノマリー)」を生み出すと考えられています。


年末高シナリオに期待、出遅れ感の強い小売り・食品関連の日本株5選

 AIにはこうしたアノマリーも組み込まれているでしょうから、機械に頼ったアルゴリズムトレードが全盛となっている今、アノマリーはまったく無視してはいけない存在と考えます。


 つまり「掉尾の一振」の明確な要因は分かりませんが、「無視しない方がいい」というのが結論です。日に日に緊張感が増す日中関係など懸念材料はありますが、アノマリーに身を委ねて年末高のシナリオに乗ってみてはいかがでしょうか。


 今回は、息を吹き返しつつあるAI・半導体関連や、11月に取り上げた12月の優待・配当権利取り企業ではなく、出遅れ感の強い小売・食品関連に注目します。


 物価高などによる個人消費の伸び悩みがこうした業種の重しとなっていましたが、各社の月次動向などを見るとようやく光が差してきたように感じます。まだ上場来高値に届かない銘柄も多くありますので、「掉尾の一振」に乗って出遅れ修正といきたいところです。


銘柄名 証券コード 株価(円)
(12月9日終値) 特色 マルハニチロ 1333 3,709 海外事業の改善で経常利益は高進捗 明治HD 2269 3,338 下期に構造改革の成果が顕在化へ 日本ハム 2282 6,637 加工食品・食肉事業好調で上場来高値更新を意識 キリンHD 2503 2,341.5 ビール販売数量で特需発生の公算大きい 青山商事 8219 2,389 ビジネスウエア多様化で商品改革を推進

マルハニチロ(1333)

 水産最大手の一角で、冷凍食品・加工食品にも強い総合食品企業。世界的な漁獲・原材料価格の変動に左右されやすいですが、グローバルな調達網に強みを持っています。


 2025年4-9月期(第2四半期累計)連結経常利益は前年同期比16.8%増の183億円と増益。通期計画290億円に対しての進捗(しんちょく)率は63.2%と、過去5年平均を上回る好調な決算でした。


 純利益は前年に特別利益を計上した反動で減益でしたが、北米ユニットの収益が大幅に改善するなど海外事業の改善が収益を大きく押し上げています。今期各利益見通しが前年比減益のため、株価は2018年の上場来高値4,580円に届かない水準です。ただ、高い進捗率などを材料とした出遅れ修正の動きに期待します。


明治HD(2269)

 乳製品、菓子、栄養食品を主力とする国内最大級の食品メーカーで、ブランド力が極めて強く、ヨーグルト・チョコレート市場で高いシェアを持っています。2025年4-9月期(第2四半期累計)売上高は前年並みを維持しましたが、営業利益・経常利益は減益でした。


 主力の食品事業では堅調に売上を伸ばしましたが、医薬品セグメントなど非食品部門のパフォーマンスが振るわなかったことが減益要因です。


 一方、通期業績は前期比で増収増益を予想しています。2025年10月-2026年3月期に構造改革の成果が出始めることが見込まれているためです。まずは5月の年初来高値3,628円の更新に期待です。


日本ハム(2282)

 ハム・ソーセージ最大手で、加工食品から総菜・外食まで幅広く展開する中、海外事業も拡大しており、為替や飼料価格の影響を受けつつも利益改善が進んでいます。2025年4-9月期(第2四半期累計)は事業利益が363億円と第2四半期累計では過去最高益を達成しました。


 また、加工食品・食肉事業を中心に安定的な増収増益を確保できていることなどから、通期業績見通しも上方修正しました。好調な業績見通しですが、株価はまだ2017年につけた上場来高値7,320円を奪還できていませんので、再評価される展開に期待しています。


キリンHD(2503)

 ビールや清涼飲料に加え、医薬・ヘルスサイエンスにも注力する多角化企業で、主力のビール事業はブランド再構築で回復基調にあります。2025年1-9月期売上収益および事業利益は、飲料、医薬、食品事業などが好調に推移したことや、コスト管理が奏功し営業利益率が大幅に改善したことなどから前年同期比で増加しました。


 9月末、競合である アサヒグループホールディングス(2502) で生じたサイバー攻撃の影響で、同社のビール販売数量は一時的に需要が拡大したと推測。通期業績見通しの上振れの可能性はあると考え、上場来高値3,199円水準を意識した展開を期待します。


青山商事(8219)

 紳士服「洋服の青山」で国内トップ級のシェアを持っています。カジュアルなビジネスウエアの需要拡大や働き方多様化に対応した商品改革を進め、非アパレル(複合店・サービス事業)も展開しています。


 通期売上高見通しは下方修正しましたが、売上総利益率の改善と販管費効率化を進め、各利益は据え置きましたので、前年同期比では増収増益予想を維持しています。株価は2022年ごろからじりじりとした上昇が継続。1993年の上場来高値8,870円は少々遠いかもしれませんが、オフィス回帰の流れなどを追い風に緩やかな上昇基調は続くと考えます。


(田代 昌之)

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