12月の金融政策決定会合で利上げが確実視される中、市場の関心は記者会見で植田総裁が中立金利について何を語るかに集まっています。中立金利は日銀がどこまで利上げするかの道しるべですが、日銀がそれを発信することにはリスクやデメリットがあります。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の愛宕 伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 植田総裁は中立金利について何を語るのか~12月MPMの注目点~ 」
植田総裁が12月金融政策決定会合で中立金利を説明する意味
12月18~19日に日本銀行の金融政策決定会合(MPM)が開催されます。12月1日に名古屋で行われた講演で、植田和男総裁が「利上げの是非について、適切に判断したい」と述べたこともあり、市場は12月利上げをほぼ織り込んだ状況です。
市場の関心は会合後の記者会見で植田総裁が中立金利について何を語るかに移っています。中立金利とは、経済を過熱も冷ましもしない政策金利のことで、日銀がどこまで利上げするかの目安とみられています。後述するように、日銀はこれまで「1.0%から2.5%」と幅を持たせた曖昧な言い方をしてきました。
上述した講演後の記者会見で、植田総裁は「(中立金利について)もう少しはっきりと明示させていただければと思います」と述べたことから(下記参照)、市場は利上げの最終到達点(ターミナルレート)が示唆されるのではと期待しているわけですが、本当に植田総裁は中立金利が特定できるようなヒントを出すでしょうか。
現在の金利水準は、基本的には中立金利より低いというふうに考えています。ただ、どれくらい距離があるのかという点に関しては、最近のMPMの会見の中でお答えしたのと同じ答えになりますけれども、次回利上げをすることがあれば、そのときにその時点での考えをもう少しはっきりと明示させて頂ければと思います。
出所:日本銀行
言うまでもありませんが、中立金利とターミナルレートは違います。
しかし、日銀の場合、後述するように政策金利は中立金利より随分低く、植田総裁が昨年4月にMPM後の記者会見で述べたとおり、物価安定目標が持続的・安定的に実現する段階で政策金利がほぼ中立金利の近辺にあることを展望しているのであれば、ターミナルレートは中立金利と一致することになります。
従って、市場にとって、日銀がどこまで利上げするのかを意味する中立金利の値は喉から手が出るほど欲しい情報です。為替や長期金利はそれを織り込みに行くと予想され、それ次第では相場が大きく変動する可能性のある、とても重い情報ということになります。
そもそも日銀が中立金利の特定につながる情報発信をするのは厳しい
このように、とても重い情報を、植田総裁は利上げが想定される12月MPMで説明しようとしているわけですから、市場の注目が集まらないわけがありません。説明の仕方次第では市場が大きく振れるリスクがあります。
これまでの中立金利に対する日銀の説明はこうです。デフレ期以降25年間の日本経済と金融政策について検証した「金融政策の多角的レビュー」の第1回ワークショップ(2023年12月)で、日銀は中立金利の実質概念である自然利子率(均衡実質金利)を「マイナス1.0%からプラス0.5%の範囲内」と説明しました。
図表1は、その後日銀が公表したデータをグラフにしたものです。詳しい説明は割愛しますが、6種類の推計方法による自然利子率の最大値と最小値の範囲が、近年、おおむねマイナス1.0%からプラス0.5%になっていることから、上述のような説明となっています。
<図表1 日本の自然利子率の推計結果>
従って、政策金利と同じ名目概念の中立金利にするには、この自然利子率に物価安定目標と整合的なインフレ期待2%を足せば良いわけですから、日銀は中立金利を「1.0%から2.5%」とみているということになります。
しかし、これでは幅が広すぎて、現在の政策金利の水準がどの程度中立金利から低いのか距離感がつかみづらいということで、冒頭で紹介した12月1日の植田総裁発言が出たわけですが、植田総裁はその説明上の幅をある程度縮小させることを考えている可能性があります。
最も素直なやり方は、2023年1-3月期の結果までしか公開されていない図表1の推計を、直近まで延ばすことです。
いずれにせよ、仮に「1.0%から2.5%」と日銀が説明してきた中立金利が「1.25%から2.5%」になったと、植田総裁が12月MPMで説明したとしましょう。そのとき市場はどう反応するでしょうか。12月利上げで政策金利は0.75%になりますので、ターミナルレートの最低値まで利上げがあと2回ということになります。為替市場では安心感から円安が進行するかもしれません。
もし、「1.25%から2.5%」ではなく、もっと高い、例えば「1.75%から2.5%」になったと植田総裁が説明したとしましょう。その場合、債券市場が日銀は最低でもあと4回利上げするつもりなのかと受け止め、長期金利が跳ね上がるかもしれません。
このように、そもそも日銀が中立金利を特定できるような情報発信を行うのは、金融政策運営の実務上、非常に難しいことなのです。
中立金利の情報発信を巡るパウエルFRB議長の苦労
日銀として中立金利が特定できるような情報発信が難しいのなら、「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)の経済見通しのように、各政策委員の見通しとして公表する方法はどうでしょう。しかし、それで苦労しているのが、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長です。
FRBでは年8回ある米連邦公開市場委員会(FOMC)のうち4回(3月、6月、9月、12月)、経済見通し(Summary of Economic Projections)を公表し、その中でFOMCメンバーによる政策金利の見通し(ドットチャート)を公開しています。
その政策金利の見通しでは、先行き4年間(2025年9月の経済見通しであれば、2025年から2028年まで)の各年末の政策金利見通しに加え、長期(Longer-run)の見通しとしてFOMCメンバーが考える中立金利(名目)も掲載しています。
見通しをまとめた集計表には、それぞれの見通しの中央値だけでなく、大勢見通し(Central Tendency)や範囲(Range)も掲載されていますが、市場が注目するのはどうしても中央値ということになり、記者会見ではそれと現在の政策金利との距離感などについて、頻繁に質問が出ています。
その都度、パウエル議長は、政策金利見通しの中央値はFRBが機関決定したものでもなければ計画でもないこと(例えば2021年6月FOMCの記者会見)、中立金利は概念的な理論値で観察できないものであり、実際には経済に及ぼす影響を確認しながら見つけていくしかないこと(例えば、2024年6月FOMCの記者会見)などを丁寧に説明し、金融政策運営の機動性や柔軟性が失われないよう配慮し続けています。
具体的にFRBが公表している中立金利がどういうものか確認するため、上のカッコ内で紹介した2021年6月と2024年6月のFOMC、さらには直近の2025年9月FOMCで公表された長期の政策金利見通し(中立金利)を、ドットチャート形式でまとめました(図表2)。
<図表2 FRBの長期の政策金利(中立金利)見通し>
これを見ると、(1)FOMCメンバーによって中立金利の見通しに相当なばらつきがあること、(2)従って中央値をFOMCメンバーのコンセンサスとみるのはかなり厳しいこと、(3)中立金利は変化すること、などが確認できます。
FRBでは、こうした特徴や、それによるデメリットを認識した上で、透明性の高さや市場の織り込みを進めるメリットを優先して、ドットチャートの公表を続けていると推察されますが、一方で随分以前からドットチャートの廃止論がFRBの中であるのも事実です。
数字にこだわる傾向の強い日本では、単に政策委員の見通しを集約したものとはいえ、展望レポートで中立金利の見通しを出すことによる金融政策の機動性や柔軟性を失わせるリスクは相応に高いと思われ、FRBのような発信スタイルは日銀にはそぐわないと筆者は考えています。
というわけで、植田総裁が中立金利に関してどんな発言をするのか、考えれば考えるほど謎が深まるばかりですが、12月利上げ後の日銀の政策スタンスに注目が集まる中で、それに関する情報発信によって市場が振れるリスクがあることには、注意を払っておく必要がありそうです。
(愛宕 伸康)

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