大盛況の元、終了した大阪・関西万博。異色のパビリオンとして注目を集めた「いのちの未来」をプロデュースした、大阪大学・石黒浩教授に「AI技術を使えば映画やアニメで描かれている世界はどこまで実現可能か?」という質問をぶつけてみた。

「ほとんどは実現可能。ただし技術を使いこなすためには高い倫理観が必要」そう語る石黒教授の真意は?


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大阪大学・石黒浩教授


「支配」ではなく「共存」。今、人間は、アンドロイドに試されているのかもしれない【大阪大学・石黒浩教授インタビュー】
1991年、大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。2009年より大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。2017年から大阪大学栄誉教授。研究対象は、人と関わるロボットやアンドロイドサイエンス。多数の論文を主要な科学雑誌や国際会議で発表。また、ロボビー、リプリー、ジェミノイド、テレノイド、エルフォイドといった、人と関わるヒューマノイドやアンドロイドを開発。人間酷似型ロボット研究の第一人者。2007年、英Synectics社の「世界の100人の生きている天才」で日本人最高位の26位に選ばれる。2011年、大阪文化賞受賞。2015年、文部科学大臣表彰科学技術賞受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。2020年、立石賞特別賞受賞。2024年、市村学術賞功績賞受賞。2025年のEXPO 2025 大阪・関西万博にて、シグニチャーパビリオン「いのちの未来」をプロデュース。

人間が人間であるために必要な条件は?

 ゴールデンウイーク中、待ちに待った大阪・関西万博にワクワク来場した遠藤裕子さん(仮名)。第一希望はヨルダン館やフランス館などの華やかでエンタメ性の高いパビリオンだったが、当然のごとく激戦で予約は取れずじまい。予約が取れたのはシグニチャーパビリオン「いのちの未来」だった。


 人気パビリオンの一つで、「内容が素晴らしい」「他のパビリオンとは格が違う」などの前評判は聞いてはいたものの、「期待値はさほど大きくはありませんでした」と裕子さんは言う。


 黒い外壁を水が流れる美しい建物に入る時も、「お勉強系のパビリオンだろうな…。難しい技術の話についていけるかな…」という不安があった。しかし約1時間滞在し、パビリオンを出てきたとき、裕子さんはろくに口もきけないほど感動…いや、動揺していた、という。


 ロボットやアンドロイドの歴史から始まり、リアルなアンドロイドたちや最先端技術の展示が続く。導かれるままに奥へ進んだ裕子さんの足が止まったのは、50年後の世界を描いたストーリー映像の前だ。


 病気で長く生きられないかもしれない、という老婦人に、最愛の孫が語り掛ける。「あの人も、あの人も、アンドロイドなんだよ? アンドロイドになれば、もっと長生きできるよ?」


 そう説得する孫を前に、老婦人は自分に問いかける。「アンドロイドになった私…。

でもそれは私なのかしら…」


 自分ならどうするだろうか。アンドロイドになって生き続けるという選択をするだろうか? 孫が成長して自分をそれほど必要としなくなった時、また、最悪、孫を見送る立場になった時、自分はその選択を後悔しないだろうか?


 パビリオンを出て初夏の日差しを浴び、2025年の世界に戻ってきたときも、裕子さんの疑問は頭を離れず、数日間はずっとそのことばかりを考えて過ごした、という。


「死生観…というか、人生観がひっくり返されました。お祭りイベントをめいっぱい楽しむつもりの万博で、こんなことが起こるとは思っていなかった…」


「支配」ではなく「共存」。今、人間は、アンドロイドに試されているのかもしれない【大阪大学・石黒浩教授インタビュー】
構想から製作まで3年以上かけたパビリオン「 いのちの未来 」。予約が取れない人気パビリオンとして話題を集めていた。「いのちの未来」の展示物の一部、レガシーは京都府とATRに引き継がれ、今後京都府をはじめさまざまな地域での公開を予定している。

 大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。8人のテーマ事業プロデューサーがそれぞれの視点でそのテーマを探究・表現する「シグネチャーパビリオン」の一つが、アンドロイド研究の第一人者、大阪大学の石黒浩教授がプロデュースする「いのちの未来」だ。


 2025年、ビジネスもエンタテインメントも、話題は「人工知能(AI)」一択だった。簡単な質問は全てチャットボットが回答してくれる。日々の仕事でもOpenAI社の「ChatGPT」やマイクロソフトの「Copilot」など身近なAIツールが人間の仕事や生活をサポートし始めた。話題先行だった「AI」は、このように使うのだ、ということが腑に落ちた人も多いだろう。


 投資の世界でも注目はAI関連銘柄に集中し、AI用半導体を独占供給する米国企業「エヌビディア」の株価は、この2年で約7倍に値上がりした。同社に半導体製造装置を提供する「東京エレクトロン」など、AIセクターの銘柄が株価上昇をけん引し、日経平均株価は5万円を超えた。


 AIは世界を、未来を、経済をどう変えるのか。

どの企業がリーディングカンパニーとしてトップに君臨するのか。皆が固唾(かたず)をのんでその行方を見守っている状況と言える。


 今回トウシルは、「今の技術を使えば、SF映画や近未来を描いたアニメーションは、どこまで再現可能なのか」、という問いを石黒教授にぶつけてみようと思った。


 自分そっくりのアンドロイドを開発し、学習させ、実現可能な未来を技術に疎い人々にも分かるように描いて見せている石黒教授なら、どうしても話題性が先行しがちなAI技術をどう使うのが正解なのか、を語ってくれるのではないかと考えたからだ。


「支配」ではなく「共存」。今、人間は、アンドロイドに試されているのかもしれない【大阪大学・石黒浩教授インタビュー】
ご自身そっくりの「ジェミノイド」の試作品がある石黒教授の研究室。撮影中、石黒教授に話しかけると「彼」が反応して返事をしてしまうという現象が多発。人の代わりが十分にできるということをまざまざと理解できた撮影現場となった。

 取材依頼をした後、石黒教授が題材としてピックアップしてくれたのは、「ブレードランナー」「アンドリューNDR114」「攻殻機動隊」の三つの作品だ。3作品とも、アンドロイドやAIが人間の社会に存在する世界観を描いた作品である。


家事ロボット「アンドリュー」が個性を持ち始めた

 まずは1999年公開、クリス・コロンバス監督/ロビン・ウィリアムズ主演の「アンドリューNDR114」。ヒト型家事ロボット「NDR114」が大量生産され、家事や育児などをサポートするのが当たり前になった世界を描いている。


 二人の娘と妻を持つ夫のリチャードが、家事サポートを目的に「NDR114」を購入、次女のアマンダが「アンドロイド」を「アンドリュー」と聞き間違えたことで、リチャード一家の「NDR114」は「アンドリュー」という名前を与えられる。大量生産された「NDR114」だが、リチャード家の「アンドリュー」はいつしか「喜び」「慕情」などの「感情」が芽生え始める。


 自分を購入したリチャード一家が次々と寿命を迎え、人生を終えるのを見送った後、アンドリューは自分と同じNDR型ロボットを探す旅に出る。自分と同じ「感情というバグ」が発生したアンドロイドがいるのかどうかを確かめるためだ。


 旅の途中で自身の原型の開発・研究者ルパートと出会ったアンドリューは、自身の体の内部を人工臓器と入れ替え、人間と同じように「老いてゆく」ことを望むようになる。

旅の途中で出会った、愛する女性とともに生き、ともに老いることを求めるようになったのだ。


「支配」ではなく「共存」。今、人間は、アンドロイドに試されているのかもしれない【大阪大学・石黒浩教授インタビュー】
『アンドリューNDR114』1999年製作。監督:クリス・コロンバス、主演:ロビン・ウィリアムズ。近未来のある一家に、大量生産された家事全般ロボット「NDR114」がやってくる。淡々と役割を果たすうち、いつしか機械が持つはずのない感受性や創造性を見せるようになっていく。

「いのちの未来」でわれわれに問いかけた「人間であることの意味」に最も近い世界観を持つ映画だが、トウシルは一つの疑問を石黒教授にぶつけてみた。「アンドロイドが、[恐怖]や[恋情]という[感情]を持つことは可能なのか?」という点だ。


 これに対し、石黒教授は「実現可能である」と即答した。


「本当の意味での、人間と同じレベルの感情は、やはり人間の体にしか宿らないかもしれませんが、可能性はゼロではありません。アンドロイドは分子の塊ですが、同様に人間も分子の集合体。実現不可能ではない。本物の感情ではなくとも、うれしい問いかけに笑顔をつくる、同意できない接触に「不快」「悲しみ」という反応を返すことは、今の技術を使えばプログラミング次第でいかようにも再現できる。実際、痛覚や味覚などは現在の技術でもう完成しています。ただ人間の体に搭載できるサイズにコンパクト化できていないだけの話です」


 笑顔や悲しみなどの表情をつくる、という技術は、すでに石黒教授そっくりのアンドロイド「ジェミノイド」で実現している。研究室で会った石黒先生そっくりの「彼」は、トウシルを歓迎し、われわれがいる方向を検知して笑顔を向け、手を振り返し、少し複雑な問いかけにも明晰(めいせき)な回答をしてくれた。


 映画の中でアンドリューは愛する女性との結婚を望み、人類法廷は彼がアンドロイドであるがために法的な結婚を認めなかった。

粘り強く「自分が人間である」ということを主張し続けたアンドリューは、最後、生命維持装置を停止することで愛する女性とともに[死ぬ]ことを選んだ。


「死ぬことが、人間であることの証明なのか?」というトウシルの問いに、石黒教授は少し考え、首を振った。


「愛する人と一緒に死ぬことを選んだ、という点が重要だと私は思う。映画の中で、アンドリューは次々にチャレンジをしているが、それは人間に近づくためのチャレンジだった。結末はいかようにも取れるが、最後は[ともに死ぬ]という非常に人間的な判断をしたという点が重要なんだと思います」


 石黒教授のパビリオン内では、この映画とは逆に「人間がアンドロイドになるかどうか」の選択を迫られる。人工子宮を使って諦めていた子供を持てた夫婦、病を克服して孫の成長を見守る老婦人、いずれも「人間として生きるため」に技術を使った例だ。


 それはおそらく、アンドリューと同じ「チャレンジ」と捉えることができるだろう。ただ、自分の選択に責任を持ち、必要な場合、自分の手で終止符を打つ決断や勇気は、ひたすら人間臭いところに委ねられている。


「支配」ではなく「共存」。今、人間は、アンドロイドに試されているのかもしれない【大阪大学・石黒浩教授インタビュー】
アンドロイド技術を追求する、というより、「人間とは何か」に近い、哲学的な思想も生まれる研究室。大阪大学自体が難関大学だが、石黒ゼミに入るために受験する学生も多数いると聞く

『ブレードランナー』で学ぶ「人の下層としてアンドロイドを作ってはいけない」

 次に、題材に上げていただいたのは1982年、リドリー・スコット監督/ハリソン・フォード主演の映画『ブレードランナー』だ。原作は1968年に発表されたフィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』だが、ハリウッド流に大きく内容は改変されている。


 2019年のロサンゼルスが舞台となるこの作品の中では、人間とほぼ同等の強度の肉体を持つレプリカント(アンドロイド)が、人間の下層として製造され、過酷な労働に使用されていた。安全装置として「4年」という寿命を与えられたことに恐怖や反感を感じ、高い知性を持つレプリカントが人間に反逆し始める。


 脱走したレプリカントを捕獲し破壊するのが「ブレードランナー」という捜査官であるデッカード(ハリソン・フォード)の役割だ。

レプリカントを取り締まるはずのデッカードは、いつしかレンプリカントの一人であるレイチェルに恋情を抱くようになり、レイチェルもデッカードへの恋情を募らせていく。


「支配」ではなく「共存」。今、人間は、アンドロイドに試されているのかもしれない【大阪大学・石黒浩教授インタビュー】
『ブレードランナー』1982年製作。監督:リドリー・スコット。主演:ハリソン・フォード。遺伝子工学技術の進歩により、レプリカントと呼ばれるアンドロイドを発明した人類だが、人類に反逆するレプリカントが現れる。彼らを解任(抹殺)する任務を担う警察の専門捜査官「ブレードランナー」の一人がハリソン・フォード演じるデッカード捜査官。レプリカントを追ううち、デッカードはレプリカントの一人、レイチェルに慕情を抱くようになる。原作はフィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

 石黒教授はこの『ブレードランナー』のストーリーには非常に否定的だ。ハリウッド映画にありがちな、都合の良い差別感やゆがんだ世界観が、ストーリーの裏に明白に読み取れるからだという。


「レプリカントが人間の[奴隷]的存在として描かれている点が耐え難い。あの欧米人独特の価値観は、どうにも私には受け入れられないですね」


 類似したテーマを描いた映画『ターミネーター』で、人間が開発したコンピューターの「スカイネット」が人間に悪意を持って反逆するというストーリーに恐怖した世代も少なくないだろう。それに対しても石黒教授は否定的だ。


「今、人殺しをし合っているのは紛れもなく人間同士。まだ生まれたばかりのアンドロイドからすると、[まだ何も殺していない自分たち(アンドロイド)に対して、何を言っているんだ?]という感想を持つかもしれないですよ。階級差をつくろうとし、支配する側に回ろうとするから、思考がゆがむ。上も下もない。最初からアンドロイドも人間も混ぜちゃえばいい。逆に、アンドロイドの方が先に人間よりいい社会をつくって[人間はこっちの世界に混ぜてやらないよ]とはじかれる可能性もありますよ」


 人間なんて、スマホやパソコンがなければ仕事一つできないくせに…とすでにアンドロイドに思われているかもしれませんよ、と石黒教授は苦笑し、スマホを手放せず、原稿の校閲や議事録作成にCopilotを活用しているトウシルはギクリと肩をすくめた。

原稿執筆時、AIチェックを通すも思うような結果が返ってこなかった場合、自分のいい加減なコマンドを棚に上げて舌打ちすらする始末だ。知らず知らずのうちに、すでに「支配者側の思想」が入り込み始めているのかもしれない。


アンドロイドの技術をどう使うかで、人間の価値が問われる

「アンドロイドの技術を使えば、今課題になっていることの多くは解決できる」というのが石黒教授の総意だ。


 トウシルが内心、(最も実現が困難なのでは?)と思っていたアニメーション作品『攻殻機動隊』は、「もうすでに実現は可能だし、一部、医療面で実用化している」と石黒教授は一言で片づけた。1989年に漫画家・士郎正宗が連載開始したSFマンガの『攻殻機動隊』は、全身義体(サイボーグ)の割合も増えた人類が、脳神経細胞とコンピューターを結合させ、脳と外部世界を直接接続する技術が実現している世界で展開される、サイエンスフィクションだ。


 会話や情報共有が、脳で考えただけで直接相手に伝わり、可視化されたネットワーク間も自在に行き来できる。われわれが現在、パソコンを通じて行っている集団チャットやダイレクトメールが、機器を使わずして直接やり取りできる独特の近未来観を描いた作品だ。


「支配」ではなく「共存」。今、人間は、アンドロイドに試されているのかもしれない【大阪大学・石黒浩教授インタビュー】
『攻殻機動隊』1989年から1990年にかけてヤングマガジン海賊版で連載された、士郎正宗氏による漫画。科学技術が進み、脳の神経ネットにデバイスを直接接続する「電脳化技術」や、サイボーグ(義体化)技術が普及し、人間が危機を使わず「電脳」経由でインターネットに直接アクセスできる時代を描いている。内務省直属の攻性公安警察組織「公安9課」(通称「攻殻機動隊」)の活動を描く。

「もともと脳神経に微弱な電流が流れることで、全身に体を動かす命令をしているのが人間の体の構造。あれの大規模版だと思えばいいんです。頭蓋骨をガポっと外して、基盤を埋め込んで、戻して、インターネットとつなぐだけ。実際、『攻殻機動隊』には、義体(サイボーグ化)してない登場人物も、電脳で会話しているシーンが多々出ていますよね。あれは今すぐにでもできます。実際、阪大ではてんかんの患者さんへの電流治療に応用しています」


 アンドロイドの技術を使えば、人間の社会がかなり楽になる、ということを日々、体験し始めているわれわれだ。今後、アンドロイド技術を使うことで実現可能な世界を石黒教授に聞いてみた。


「日本の人口ってどんどん減ってますよね。人が人に対するサービスの多くはアンドロイドに入れ替え可能です」


 ホテルのロビーの受付が、人を介さずスマホ一つでできたり、配膳ロボットが料理を運んでくるレストランがあるのもわれわれは体験済みだ。


「そうそう、そういうこと。無医村の医者や、交番なんかもアンドロイドに置き換わる社会がすぐに来ると思いますよ。顔認証で犯罪者を特定して居場所を人間に知らせるのもアンドロイドの得意分野。犯罪者を追いかけるならドローンのほうがよっぽど人間より速い。人間じゃないとできないことって案外少ない」


 逆に技術を使ってやってはいけないことは何か。この問いに、石黒教授の顔が少し引き締まる。


「犯罪と軍需。進んだ技術を使う時には、高い倫理観が必要になります。階級社会をつくりたがったり、情報弱者から金銭を巻き上げたり、人間の民度って本当に昔から成長していないんです。だから、私は、アンドロイド技術をサービスに落とし込むなら日本が最適な国だと思います」


「欧米の技術力に後れをとりがちな日本に、できるでしょうか?」


「いや、逆に、日本でないとダメです。戦争に参加しないと明言している。さらに明確な支配層がないに等しい日本がまず、[AI技術ってこんな風に使うんだよ]ということを使って見せて、世界の見本にならないといけない。地下資源がほとんどないにもかかわらず、高い国内総生産(GDP)を維持してる国なんて日本ぐらいしかないでしょう?」


「支配」ではなく「共存」。今、人間は、アンドロイドに試されているのかもしれない【大阪大学・石黒浩教授インタビュー】
資金力のある海外に技術力で劣っていると感じていたのだが石黒教授はそれを一蹴。「日本人のいいところでもあるんですが、外国のいいところばかりを見て自分を卑下しがち。民度的にも能力的にも、もっと誇りをもって世界の見本になればいい」

「地面を掘って拾ったエネルギー資源など、地球の共有財産にしてしまえば戦争などなくなる。地下資源を奪い合うために戦争をする国。自国の生産性を上げる努力をせずに貿易摩擦で国力を維持しようとする国。彼らと比較すると、なんと日本人は勤勉で生産性が高いことか…」と石黒教授は言う。


「[人間]という資源が圧倒的に強いのが日本です。日本はマーケットが小さいし、グローバリゼーションがあまり得意じゃないから、一見、遅れを取っているように見える。それに、一緒に働くのは得意なのに、人を支配して働かせるのが不得意。だけどそれは最大の日本人の美点。日本が誇りをもって、アンドロイドやAIの最適解を見せていく責任があると思う」


 184日間の「大阪・関西万博」が閉幕して数カ月がたつ。が、冒頭の裕子さんの結論はまだ出ない。


 結婚して間もない裕子さんはまだ20代だ。これから子供を産み、両親が年老い、自分も老いていくだろう。家族があつい病にかかる可能性もある。ライフステージが変わるにつれ、彼女の選択肢は揺れ動き、変わるだろう。


 裕子さんは今日もAIを使って仕事をし、家族と笑って一日を終える。パビリオンを通じて石黒教授が裕子さんに投げかけた宿題は、一生答えが出ないかもしれない。ただ、その答えに迷いながら生きるのが、人間が人間であるゆえんである。


 人間が迷いながら出した答えをAIやアンドロイドにサポートしてもらいながら生きるのが、石黒教授が言う「人間とアンドロイドの共存社会」なのだろう。


企画/取材/編集/執筆 金井雪子    


(トウシル編集チーム)

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