日銀が利上げを決めたにもかかわらず、セオリーに反して為替市場では円安が進行しました。背景には、日銀の慎重姿勢に加えて、財政不安からくる国債の売りがあります。
利上げ決定も、期待に反して円安進行。1ドル=157円台に
日本銀行は、12月18日、19日に行われた2025年最後の金融政策決定会合で、政策金利を0.50%から0.75%へ引き上げました。この会合で日本の政策金利は1995年以来30年ぶりの高水準になりました。日銀が金融政策の「正常化路線」を再スタートさせたという意味でも重要な決定でした。
日銀の利上げに対して、ドル/円はどのように反応したでしょうか?
高い金利の通貨は高くなるというセオリーがあるにもかかわらず、(それを日銀も期待していたはずですが)実際のマーケットは真逆に動きました。
日銀会合前のドル/円は、おおよそ154.50円から156円のレンジで推移していました。ところが日銀が利上げを発表した直後に156円を超え、さらに植田和男日銀総裁の記者会見後の海外市場では157.77円まで一気に円安が進みました。
ドル/円 12月
日銀の慎重姿勢に市場が失望
日銀が利上げをしたのに、なぜドル/円は円高ではなく、円安に動いたのでしょうか。
一言でいえば、日銀の慎重過ぎる姿勢に、市場が失望したからです。市場はすでに、日銀が半年に1回のペースで利上げを続け、2027年までに政策金利を1.5%まで引き上げることを織り込んでいました。市場の投資家は、それ以上の政策を日銀から聞きたかったのです。
日銀は「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」考えを示しましたが、「いつまでに、どこまで金利を引き上げるか」については曖昧なままでした。
日銀は金融政策の正常化路線を再スタートしましたが「加速」をする考えはないようです。しかし、0.25%の利上げでは今起きているインフレ対策や円安対策に効果がないことは明らかです。この程度金利を上げたところで経済活動にもそれほど影響があるとは思えません。しかも半年に1回のペースだとすれば、次は来年7月という遠い先になります。
なぜ日銀はそれほど慎重なのか。日銀の政策スピードの鈍さが市場には失望と映り、円安につながったということです。
じわり進む悪い円安、「債券自警団」が警告か
さらに懸念されるのは、円の信認低下という「悪い円安」がじわじわと進んでいることです。
2025年10月に発足した高市政権は、強い経済の実現を掲げて21.3兆円規模の総合経済対策を打ち出しました。財源を国債の大量発行に頼るため、財政規律への懸念があるものの、この積極財政政策によって、日本の実質国内総生産(GDP)成長率は0.5ポイント程度押し上げられることが期待されていました。これが高市政権の目指す「成長による財政健全化」です。
ところが、日中関係悪化による訪日中国人の減少というマイナス要因が発生し、成長の押し上げ効果が半減する見込みです。成長のあてがはずれれば、後に残るのは国債の大量発行による財政悪化です。2025年時点で、日本の国の借金はGDPの2倍以上に膨らんでいるのに、さらに負担だけが増すことになります。
このような財政への不安は、債券市場に表れます。下のグラフは、2024年12月からの日米の10年債利回りの推移を示しています。米国の長期金利(紫のライン)と比較して、日本の長期金利(ピンクのライン)が急上昇していることが分かります。
これは、投資家が日本の国債を保有するリスクが高まったと判断し、国債が売られていることを示しています。国債が売られ、価格が下落すると自動的に利回りは上昇します。
ここで注目したいのが、「債券自警団(Bond Vigilantes)」という存在です。これは、政府の無謀な財政政策が高インフレを招く、あるいは、財政が破綻すると考えられるとき、警告を発するために国債を売却し、金利を上昇させる債券投資家のことを指します。債券市場が金利上昇という形で、政府や中央銀行に懲罰を与えるのです。
財政が悪化すれば、債券自警団による国債の売り圧力と利回り上昇が進み、円の信認低下という「悪い円安」につながる連鎖が起こりやすくなります。
日米10年債利回り
止まらない円安、政府・日銀に残された手段は?
ドル/円の動きを見ると、10月の高市内閣誕生後から継続して円安が進んでいる状況が分かります。下のチャートは、10月末から現在までのドル/円の動きを示しています。特に注目したいのは、総合経済対策が閣議決定された11月21日に、円安が一段ギアアップして157.90円まで進んだことです。
これは、高市政権の経済成長をFX市場が評価しなかったということを意味しています。この時は財務省の「口先介入」もあって、154円近くまでドル/円は下落しましたが、円安の流れは止まりませんでした。
ドル/円 10~12月
先週の日銀会合後に再び158円に迫る水準まで戻ってきましたが、片山さつき財務相が22日に「過度な為替変動には断固たる措置を取る」と発言したことで、いったん円安の勢いは止まったように見えます。158円という水準は、政府にとって「これ以上は譲れない一線(Line in the sand)」であるようです。
ただし、今の市場は介入を恐れて退散したというよりも、ドル/円をもっと良い水準で買おうと、一歩引いて待ち構えているだけのように見えます。この状況が、「実弾介入」の実施を難しくさせているのではないでしょうか。
もし日銀が利上げして、さらに為替介入しても効果が出なかった場合、政府・日銀にはもはや円安を止める有効な手段が残されていないことになります。むしろ、介入が逆に急激な円安を発生させるリスクすらあるのです。日本の金融政策は、極めて難しい局面を迎えています。
(荒地 潤)

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