日銀は予想通り利上げをするも慎重姿勢、高市政権の積極財政への警戒もあり円安が継続しています。この円安地合いは来年も続いていくのでしょうか。

今年の出来事を振り返りながら、2026年のドル/円相場を見通すための四つの相場材料に注目していきたいと思います。


日銀会合後の円安は2026年も続く?ドル/円を見通す四つの相...の画像はこちら >>

円安地合いは来年も続くのか。今年の振り返りと2026年の見通し

 12月18~19日の日本銀行金融政策決定会合では、予想通り0.25%の利上げとなりました。政策金利は現行の0.50%程度から0.75%程度に引き上げられ、1995年以来、約30年ぶりの高水準となりました。今年1月に政策金利を0.25%引き上げた後は6会合連続で据え置かれ、今回12月に利上げ決定となりました。


 植田和男総裁は会合後の記者会見で、現在はまだ金融緩和の調整段階で、「経済・物価情勢の改善に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と述べ、利上げ継続の意向を示しましたが、具体的な追加利上げの時期やペースについては「今後の経済・物価・金融情勢次第」と述べただけで、言及しませんでした。


 また、中立金利については、「下限の1%にはまだ少し距離がある」との内容にとどめました。これらの発言から、利上げ決定後はやや円高に動きましたが、記者会見後は追加利上げについて踏み込んだ発言がなかったことから円安に動きました。


 利上げに伴って新発10年物国債の利回りも上昇し、週明け22日には2.1%と27年ぶりの上昇となりました。積極財政を掲げる高市政権の国債増発への警戒感も長期金利上昇の大きな要因になっているようです。


 高市政権の積極財政への警戒感が長期金利を上昇させ、円安要因となっていることに加え、日米金融当局も来年の政策変更に慎重姿勢を示したことが円安に拍車をかけたのですが、この円安地合いは来年も続くのでしょうか。来年の相場を考える前に、まずは今年を振り返ってみたいと思います。


 今年前半は、第2次トランプ政権の高関税政策による米景気悪化懸念や、中国との貿易摩擦激化懸念が高まり、ドル売りが進みました。そして4月には、パウエル議長の解任検討との報道によって米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性が脅かされることへの懸念が高まり、一時トリプル安(株安、債券安〈金利高〉、ドル安)になって、ドル/円は140円割れとなりました。


 その後は、ベッセント財務長官が火消しに回り、市場は落ち着きを取り戻したことや、中国との対立も緩和されたことから、ドル/円相場は日米の金融政策によって動きました。しかし、日米とも政策変更には慎重姿勢を取ったため、ドル/円は緩やかな円安が進行しました。


 さらに、9月に入ると日本の政局が動き、10月の自民党総裁選で金融緩和と積極財政を掲げている高市氏が選出されると、一気に円安が進み、11月には158円手前まで円安が進みました。その後、日銀の利上げ観測から154円台の動きがみられましたが、12月会合では追加利上げについて慎重姿勢だったため、再び円安地合いが強まっている状況となっています。


 来年もこの地合いを引き継いで円安相場が続きそうです。相場材料としては、


  • 米国金融政策と次期FRB議長人事
  • 日銀金融政策と為替介入
  • 日本の財政拡大懸念
  • 米国中間選挙と米中関係
  • に注目します。


    1.米国金融政策と次期FRB議長人事

     FRBは9月、10月、12月と3カ月連続で0.25%の利下げを行い、パウエル議長は直近3回の会合で計0.75%の利下げについて、「政策金利の追加調整の程度や時期を適切に判断できる体制が整った」と述べ、今後の追加利下げに慎重な姿勢を示しました。


     また、来年の金利見通しは年末3.4%と年1回の利下げ見通しとなっています。米連邦公開市場委員会(FOMC)内の意見も分かれていることから、来年の利下げは予防的利下げとして、年前半に1回あるかどうかと見ています。


     雇用市場が崩れなければ、年内利下げがないことも予想されます。


     米中間選挙に向けて景気好調が続き、株が上昇すれば、利下げ打ち止めから利上げ観測が出始めてきている欧州やオーストラリアのように米国も、と市場の見方がガラッと変わるシナリオにも注意する必要があるかもしれません。


     FOMC後に発表された11月雇用統計で失業率が上昇し、11月消費者物価指数(CPI)が予想より弱めの結果でしたが、収集データが不十分との分析から1月利下げ期待を高める内容とはなりませんでした。1月発表の12月米雇用統計(1月9日)、12月米CPI(1月13日)の結果次第では、1月27~28日のFOMCで利下げ期待が高まることが予想されます。


     しかし、パウエル議長は12月に慎重姿勢を示したばかりであり、FOMC内の意見も分かれていることから1月は見送りの可能性が高そうです。


     23日、7-9月期GDPが約2カ月遅れて発表されましたが予想3.2%を上回る4.3%と強い数字となりました。10月1日からの政府機関閉鎖の影響は10-12月期GDPに反映されますが、景気が好調であれば、パウエル議長の任期中には利下げはないかもしれません。


     パウエル議長は2026年5月に任期満了(FRB理事としての任期は2028年1月)になることから、議長としてのFOMCは、1月、3月、4月の3回となるため、よっぽど雇用市場の下降リスクが高まらない限り、3回とも見送る可能性がありそうです。


     次期議長人事は年始早々に発表されるとのことです。誰がなってもトランプ大統領の意向を意識して就任前にもハト派色の強い発信がされることが予想されますが、利下げ環境が整わない限り、発言だけでは相場の動きも一時的となりそうです。


     新議長の初FOMCは6月16~17日であり、年前半の利下げがあるとすれば、このタイミングか7月が予想されます。11月の中間選挙を考慮すると(トランプ大統領の意向を忖度(そんたく)すると)9月、10月のFOMCでは1回目の利下げとしてはタイミングが遅すぎると思われます。


     注視したいのは、12月に見られたようなAI業界の変調が来年も起こるのかどうかです。米国経済をけん引してきたAIバブル(?)が弾け、株急落や景気後退を引き起こすようであれば、時期を選ばず複数回の利下げの可能性が想定されます。


    2.日銀金融政策と為替介入

     植田総裁は12月会合後の記者会見で、現在はまだ金融緩和の調整段階で、「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と利上げ継続の意向を示しましたが、時期やタイミングには明言を避けました。


     また、中立金利については、下限1.0%まで「まだ距離がある」との発言にとどめました。下限引き上げや下限を突破しても現在の推計1.0~2.5%の範囲内であれば利上げ余地があるといった踏み込んだ発言はありませんでした。


     これらの発言から、来年も経済・物価が見通し通りになっても植田総裁の慎重姿勢は変わらないことが予想されるため、来年も半年に1回もしくは年1回の利上げペースが予想されます。この程度のペースであれば、利上げによる円高はあまり期待できないかもしれません。


     また、物価高対策を掲げる高市政権は円安によるインフレ阻止のため、これ以上の円安に対しては、為替介入してくる可能性が予想されます。片山さつき財務相は今の動きは「投機」であると断じ、「断固たる措置を取る」と一歩踏み込んだ発言をしたことは警戒する必要がありそうです。


     介入の水準については、160円を超える前にも、今年1月の158.90円近辺、11月の157.90円近辺を超えてくると、市場の介入警戒感が高まることが予想されるため注意したいと思います。


    3.日本の財政拡大懸念

     高市政権は「責任ある積極財政」を唱えていますが、26日に閣議決定される2026年度予算は122.3兆円と前年度の115兆円より規模が膨らむことが予想されます。


     これまで補正にしか積まれていなかった予算を当初予算に盛り込んだ結果だということですが、成長戦略が示され、予算と戦略が経済成長に寄与すると市場がみなすまでは、財政拡大懸念が続き、円売り地合いが続くことが予想されます。


     また、一部報道では、国債費の長期金利の想定を3%で調整とのことであり、もし、そうなればその水準を目指して金利が上昇する可能性もある点には留意する必要があります。ドル/円もその動きにつれて円安が進むことが予想されます。


    4.米中間選挙と米中関係

     今年11月の米国地方選挙の結果は、トランプ政権にとって厳しい結果となりました。ニュージャージー州・バージニア州知事選、ニューヨーク市長選では、いずれも民主党が勝利しました。

    経済や物価高が争点になったようです。


     トランプ関税の最高裁判断やエプスタイン文書公開問題など難問山積みとなっているところに、景気も悪いとなると、米中間選挙の結果を待たずにレイムダック化してくることも予想されるため、トランプ大統領は金利を大幅に引き下げて景気が後退しないように、利下げ圧力を強めてくることが予想されます。


     また、米中関係も政治的対立よりも経済優先を取る可能性があるため、来年の相互訪問となる米中首脳会談の動向に注目です(2026年4月のトランプ大統領の訪中と、同年後半の習近平主席の国賓としての訪米を11月に合意)。高市政権にとって対中関係が悪化した台湾問題も議論される可能性があるといわれており、注視したいと思います。


     以上の材料をまとめますと、


    • 日銀は利上げ継続を示していますが、具体的な時期やペースなどには言及せず慎重姿勢を示す一方、FRBの利下げペースは2026年以降に減速する可能性があり、日米金利差が急速には縮小しないとの見方から、ドル/円は円安に緩やかに進行していくことが予想されます。
      ただ、米国のAI業界動向は注視する必要があります。
    • 高市政権の「責任ある積極財政」は結果が見えない限り、財政拡大懸念が続き、円売り地合いが続くことが予想されます。
    • 160円近辺は介入警戒感が強まることから160円超はかなり抑制的な動きになることが予想されます。ただ、為替介入は一時的な効果しかなく、円安構造が変わらなければ、ドル/円の円安更新が予想されます。来年のドル/円は145~165円を中心レンジとして予想されますが、円売りに勢いがつけば、170円も視野に入るかもしれません。

    (ハッサク)

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