2026年のドル/円相場はどうなるのか。昨年後半から日本の財政リスクが意識され、日米金利差が縮小しているにもかかわらず円安が進行している。
日米金利差を無視するドル円相場
毎年、年始になると新年会などでエコノミスト仲間や市場関係者と話す機会があるわけですが、今年は「結構ボラ(volatility)がつくかもねぇ」なんて声が多く聞かれたような気がします。それだけ不確実性の高い年だということなのでしょうけれども、それを表す典型的なグラフが図表1かもしれません。
<図表1 日米金利差とドル円相場>
昨年の今ごろ、2025年の為替相場について、「日銀は利上げ、FRBは利下げ、トランプ関税で米景気も怪しいし、日米金利差は縮小するだろうから円高だ」と話していたことを思い出します。なぜ高市政権の誕生を予想できなかったのかと思わなくもありませんが、昨年の初めにそれを言っていたらビックリ予想と思われたに違いありません。
図表1を見ると、確かに2024年までは日米金利差とドル円相場がきれいにリンクしており、実際、2025年の4月ごろまでは日米金利差の縮小とともに円高に振れていました。ところが、その後は日米金利差が縮小を続けたにもかかわらず円安が進み、結局、昨年末は年始とほぼ同じ水準で引けるという、まさに「行って来い」の相場展開になりました。
しかし、図表1をじっと見てください。ドル円相場と日米金利差がここまで乖離してくると、今年もこのまま日米金利差が縮小していけば、いつかはドル円が円高方向に大きく振れるのではないかと思ってしまうのは私だけでしょうか。
さすがに、そろそろ円高になりそうな感じがするわけですが、この「さすがに」、「そろそろ」がだめなのです。
移り気な為替相場の注目するテーマは今年も財政リスク?
移り気な為替相場は、注目するテーマによって大きく振れます。昨年後半以降のテーマは財政リスクだとみています。
夏の参院選での与党敗退と減税を掲げた野党の躍進、10月の「責任ある積極財政」を標榜する高市政権誕生を受け、長期金利の急上昇とともに進んだ円安は、財政リスク・プレミアムの拡大を映しているというのが筆者の見立てです。そう考えれば、日米金利差が縮小しているにもかかわらず円安が進んでいることも理解できます。
であれば、高市政権が変わらない限り、あるいは高市政権のポリティカルパワーが高まれば高まるほど、円安の流れが続くことになります。1月9日に読売新聞が報じた「高市首相が衆院解散を検討、23日通常国会の冒頭に」の記事で円安が進んだことも、それを表しています。
とはいえ、一年を通して同じ方向に一本調子で動いたことがないのがドル円相場(図表2)。何かのきっかけで大きく円高に振れることはないのでしょうか。
<図表2 年別のドル円相場>
そのきっかけが予想できれば苦労はないわけですが、ただ一つ言えることは、市場の注目するテーマが財政リスクから金融政策や景気に戻れば、ドル円相場と日米金利差との連動性は回復するということです。
今できることは、その可能性もにらみながら、日米の金利動向、具体的には日米中央銀行の金融政策や日米の景気・物価の先行きを見通しておくことでしょう。以下では、それらを簡単に整理します。
ドル円相場を見るとき、米国の金利と日本の金利のどちらが重要?
と、その前に、日米金利差といっても、ドル円相場を見るときにそもそも日本の金利と米国の金利のどちらが重要なのかという点に簡単に触れておきたいと思います。というのも、ドル円相場の変化を見ると、米国の景気動向にやたら反応するとか、日銀の金融政策にやたら反応するというように、局面によって反応する相手や度合いが大きく変わるからです。
それが、先ほど「移り気な為替相場は、注目するテーマによって大きく振れる」と書いたことでもあるわけですが、参考までに、米国の長期金利と日本の長期金利のどちらがドル円相場を大きく変動させているのか、相関係数を比べてみました(図表3)。
<図表3 相関係数:ドル円相場と米国の10年金利、ドル円相場と日本の10年金利>
相関係数とは、2つのデータの間の「関係の強さ」と「方向」を示す指標です。+1に近いほど「強い正の相関」(一方が増えるともう一方も増える)があると言い、-1に近いほど「強い負の相関」(一方が増えるともう一方が減る)と言い、0に近いほど「相関がない(無相関)」と言います。
図表3の赤い点線で囲みを付けた最近の動きに注目すると、その前半はドル円相場と米国の10年金利は強い正の相関(米国の10年金利が上昇すると日米金利差が拡大して円安)が、一方でドル円相場と日本の10年金利には負の相関(日本の10年金利が上昇すると日米金利差が縮小して円高)があったことが分かります。
それがだんだんと、ドル円相場と米国の10年金利との相関がなくなり、逆にドル円相場と日本の10年金利が急激に正の相関(日本の10年金利が上昇すると円安になる)を強めていることが確認できます。普通は、日本の長期金利が上昇すると日米金利差が縮小して円高に振れるのですが、今は長期金利の上昇と円安が同時に起きています(図表1の囲みの部分と整合的です)。
しかも、米国の10年金利にはほとんど反応しなくなっていますので、今はドル円相場の先行きを考えるに当たって日本の長期金利が重要な局面であり、したがって市場が注目する日本の財政リスクがポイントになるということが、相関係数からも示唆されます。
今年の米国経済は堅調を持続、FRBは利下げに慎重姿勢
それでは米国経済から見ておきましょう。まず昨年を振り返ると、前半はトランプ関税の影響を背景とする景気後退懸念が強まり、エコノミストの成長率見通しも相当下振れました。
しかし、新型コロナ禍での現金給付で生じた過剰貯蓄が消費を下支えするもとで(図表4)、2024年後半以降の米連邦準備理事会(FRB)による利下げの効果もあって、株価が上昇基調を回復していきました。
<図表4 新型コロナ前のトレンドが切り上がった米家計の貯蓄残高>
それに伴う個人金融資産の拡大が年後半にかけての高成長につながり(図表5)、エコノミストの見通しも強気化しました。そのムードは今も続いており、ブルームバーグが集計する現地エコノミストの2026年実質GDP見通しは中央値で前年比2.1%(2026年1月9日現在)となっています。
ちなみに、アトランタ連銀のGDPナウは、2025年10~12月期の実質GDPを前期比年率5.1%と予測しています(2026年1月9日現在)。今後下方修正されていくとは思いますが、10~12月期の成長率が高ければ、翌年へのベース効果が強まるため、エコノミストの2026年の見通し2.1%は上振れる可能性があります。
<図表5 拡大する米家計金融資産に占める株式の割合>
このように、米国経済は2026年も堅調が見込まれる中、米連邦準備理事会(FRB)は、次回利下げ判断を慎重に見極める方針です。
FRBは、昨年9月から3回続けて予防的利下げを実施しましたが、その3回目の利下げを行った昨年12月FOMC後の記者会見でパウエル議長は、「現在の政策金利は、中立金利の幅広い推定値の範囲に入っており、経済がどのように進展するか立ち止まって見定める良い位置にいる」と述べました。
これは、現在の政策金利(3.5~3.75%)が、FOMCメンバー19人の想定する中立金利(2.6~3.9%)に重なってきており、インフレ・リスクが強い中で緩和状態に転換しているリスクが高まっていることを示しているため、経済・物価の動きをより注意深く点検し、利下げの判断をこれまで以上に慎重にしなければならないとのメッセージを発したと理解できます。
このことから、FRBの次回利下げはパウエル議長が退任した後の年央以降になるかもしれないとみています。ちなみに、金利先物が織り込む利下げ確率(米CMEのFEDウオッチ)も、1月FOMCは現状維持が95.6%、3月も現状維持71.3%、4月の現状維持58.0%となっています(2026年1月9日現在)。
日銀は利上げ継続、中立金利の説明には後ろ向き~12月MPMの「主な意見」~
一方の日本経済ですが、今年も高インフレが続くものの、名目賃金の高い伸びが消費の下支えとなって、緩やかな景気拡大が続くとみています。ちなみに、雇用環境がタイトかつ名目賃金が上昇している局面で日本が景気後退になったことは、少なくとも2000年以降を見る限りありません(図表6)。
<図表6 日本の名目・実質賃金と失業率>
昨年12月に0.75%への利上げを行った日本銀行は、今年も半年に1回ペースの緩やかな利上げを続けると見ています。仮に、今年6月と12月に0.25%ずつ利上げし、政策金利が1.25%に到達すれば、長期金利(10年)は2%台後半になる可能性があります。
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以上をまとめると、日米金融政策や景気はこれまでの流れから大きくは変わらず、日米金利差も縮小を続けると予想されます。
しかし、繰り返しになりますが、一方向の動きが続かないのが為替相場。米国経済の急変、米国株価の急落、米政府のFRBへの圧力による極端な利下げ、日本の政局、過度な財政支出、地政学リスクの高まりなど、何らかのきっかけで相場が急変する可能性には留意が必要です。
(愛宕 伸康)

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