日銀が公表した1月会合の「主な意見」、追加利上げに前のめりな意見や、上昇ペースの速い長期金利に懸念を示す意見が多く掲載されました。4月あるいは3月への利上げ前倒しはあるのか、長期金利がどのくらい上昇すれば国債買い入れを増やすのか、国債買い入れに批判的だった次期FRB議長ウォーシュ氏の紹介とともに整理します。


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日銀の1月「主な意見」、追加利上げに前のめり

 日本銀行は2月2日、1月金融政策決定会合(MPM)の「主な意見」(2026年1月22、23日開催分「金融政策決定会合における主な意見」)を公表しました。「主な意見」とは、MPMで実際にどんな意見が出たかを示す資料で、金融政策運営の先行きを占う上で日銀ウオッチャーが最も重視する資料の一つです。


 1月の「主な意見」で印象に残った点は、(1)追加利上げに前のめりな意見が増えたこと、(2)円安に関する意見が多かったこと、(3)長期金利上昇に対する懸念が多く示されたこと、の三つです。順に見ていきましょう。


 まず、(1)に関しては、「適時の政策運営を図っていかなければならない度合いは高まっている」、「あまり長い時間を掛け過ぎずに、次の利上げのステップにタイミングを逃さず進むことが必要」などが目立ちますが(図表1)、円安というより、利上げが後手に回り(ビハインドザカーブ)、インフレを高めるリスクを意識したものが多いのが特徴です。


<図表1 1月「主な意見」に掲載された金融政策運営に関する意見>
日銀「主な意見」、追加利上げに前のめり~次期FRB議長ってどんな人?~(愛宕伸康)
出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 もっとも、物価に関する意見を見ると、インフレリスクを高めている背景として円安を指摘する意見が多く(図表2)、そうした点からすると、間接的には円安の進行が利上げを急ぐべきとの意識につながっているのは間違いありません。


<図表2 1月「主な意見」に掲載された物価に関する意見のうち円安に触れているもの>
日銀「主な意見」、追加利上げに前のめり~次期FRB議長ってどんな人?~(愛宕伸康)
出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 このように、今回の「主な意見」は、次回利上げが4月、場合によっては3月に前倒されるというメッセージを発信しているように見えるわけですが、実際に利上げを前倒しするとなった場合、その理由付けをどうするかという、コミュニケーション上かなり厄介な問題をクリアする必要があります。


 というのも、円安を直接の理由にすれば、為替市場との駆け引きにつながってしまう一方で、インフレリスクの高まりに対処すると言えば、ビハインドザカーブを認めたと受け取られ、長期金利がさらなる利上げを織り込みながら上昇するリスクがあります。利上げ前倒しの理由付けはそう簡単ではありません。


長期金利がどれだけ上昇すれば、日銀は国債買入れを増やすのか

 長期金利の上昇については、1月MPM後の記者会見で植田総裁が細心の注意を払って受け答えしたように、日銀はすでに相当意識しているということを前回1月28日のレポートで述べました。それは今回の「主な意見」からも伺うことができます(図表3)。


2026年1月28日: 日米当局が連携して円安阻止へ、日銀は次回利上げを前倒すのか(愛宕伸康)


<図表3 1月「主な意見」に掲載された長期金利に関する意見>
日銀「主な意見」、追加利上げに前のめり~次期FRB議長ってどんな人?~(愛宕伸康)
出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 図表3の上2つは、まさに最近の長期金利の上昇に注意が必要という趣旨の意見です。その下の「これまでの考え方に沿って、減額と異例時の増額等を行うべき」、「例外的な状況においては、国債買入れも含めた柔軟な対応の検討が必要」は、長期金利上昇への対応に関する公式見解に沿った意見と言えます。


 一方、「重要なことは、市場機能が働いているかの見極め」、「日本銀行に課された役割と政策の目的に沿って、その範囲で用いるべき手段を理解してもらう努力が引き続き重要」という意見は、上の「例外的な状況」とはどんな状況かにまで踏み込んだものであり、極めて重要な論点を含んでいます。


 植田総裁が1月の記者会見で繰り返した、「(政府と日銀の)それぞれの役割を踏まえ、しっかり見ていきたい」との発言につながるわけですが、日銀の使命は「物価の安定」と「金融システムの安定」ですから、現在、国債買い入れを前者のために使っていないことを踏まえると、国債買い入れを増額することがあるとすれば、後者のためということになります。


 つまり、「例外的な状況」とは、「金融システムの安定」を脅かすような事態のことであり、そうした場合には、資金の予備的需要やカウンターパーティリスクが高まって市場に買い手がいなくなるといった「市場流動性の枯渇」を避けるため、中央銀行が直接資本市場に介入し、市場機能の回復を促すという「最後のマーケット・メーカー機能(MMLR∶ Market Maker of Last Resort)」を果たす必要があります。


 逆に言えば、そうした事態にならない限り、市場による金利形成メカニズムを優先すべきで、ましてや財政リスクが意識され長期金利が上昇しているような場合には、日銀が国債買入れを増やして長期金利を抑えようとすると、むしろ逆効果ということにもなりかねません。財政の信認確保は政府の役目、これが植田総裁の言う「それぞれ役割を踏まえ」の裏側にある意味だと解釈しています。


 ちなみに、こうした中央銀行の資本市場への介入に真っ向から反対していたのが、1月30日にFRBの次期議長に指名されたケビン・ウォーシュ氏です。ウォーシュ氏のことは後ほど詳しく紹介するとして、その前に先般公表された日本の生産統計を簡単に見ておきましょう。セオリーとして6月利上げが最も自然という状況に変わりはありません。


2026年1月の生産予測指数は前月比9.3%(補正値7.2%)と高い伸びを維持

 今年最初のレポートで、経済産業省が鉱工業生産指数とともに発表している「製造工業生産予測指数」(以下、予測指数)の12月調査で、1月の予測指数の伸びが前月比8.0%と、かなり高い数字になっていると紹介しました。1月30日に発表された1月調査でも、前月比9.3%と高い伸びを維持しています(図表4)。


<図表4 鉱工業生産指数>
日銀「主な意見」、追加利上げに前のめり~次期FRB議長ってどんな人?~(愛宕伸康)
注:季節調整済み指数のグラフ。ただし、図中に表記している数字は前月比。出所:経済産業省、楽天証券経済研究所作成

 もともと予測指数には、調査が進むほど下方修正される傾向があるため、1月の予測指数は今回の1月調査で前回12月調査の8.0%から下振れるのが普通です。しかし、蓋を開けてみれば9.3%へ上振れました。


 特に、「汎用・業務用機械」が12月調査の前月比5.8%から今回1月調査の12.0%へ、「電気・情報通信機械」がマイナス0.4%から6.2%へ、さらにウエイトの高い「輸送機械」が21.9%から23.2%へ、それぞれ上振れたことが全体を押し上げています(図表5)。


<図表5 2026年1月予測指数の修正(業種別)>
日銀「主な意見」、追加利上げに前のめり~次期FRB議長ってどんな人?~(愛宕伸康)
出所:経済産業省、楽天証券経済研究所作成

 経済産業省では、予測指数が実績より高く出やすいというバイアスを取り除いた補正値を公表していますが、それを見ると1月予測指数の前月比9.3%は7.2%になる見通しです。

この補正値を使って1~3月期の伸びを計算すると、図に示した前期比4.5%ではなく、3.1%になりますが、筆者はその間のどこかに着地すると見ています。


 このように1~3月期の鉱工業生産指数がしっかりした伸びになれば、それを基礎統計の一つとして作成する実質国内総生産(GDP)もしっかりした伸びになると予想されます。5月中旬にその結果が発表されれば、6月利上げを後押しすることになるとみています。


次期FRB議長ウォーシュ氏ってどんな人?

 さて、最後に、次期FRB議長に指名されたケビン・ウォーシュ氏がどんな人物か、そしてどんな考え方の持ち主か、簡単にみておきましょう。


 まず、経歴から確認すると(図表6)、ウォーシュ氏はモルガン・スタンレー出身で、同社副社長を務めた後、2002年にブッシュ政権の経済担当特別補佐官、2006年に史上最年少の35歳でFRB理事に就任しました。FRBでは、2008年の金融危機を経験。バーナンキ議長の下で金融政策運営に当たりましたが、2010年11月の量的緩和第二弾(QE2)を巡って意見が合わず、2011年にFRB理事を辞任しています。


<図表6 ケビン・ウォーシュ氏の経歴>
日銀「主な意見」、追加利上げに前のめり~次期FRB議長ってどんな人?~(愛宕伸康)
出所:各種資料、楽天証券経済研究所作成

 ウォーシュ氏は、2008年の金融危機の際、FRBが迅速に金利を引き下げたことに対してインフレを加速させるだけだと批判するなど、市場からはタカ派と見られています。


 特に、中央銀行の資産購入に対して批判的で、2008年3月のベアスターンズ危機の際に「ターム物債券貸出制度(TSLF: Term Securities Lending Facility)導入のため開催された臨時会合では、資産購入などやるべきではないと発言しています(図表7)。


<図表7 ベアスターンズ危機を巡る臨時会合(2008年3月10日)での発言>
日銀「主な意見」、追加利上げに前のめり~次期FRB議長ってどんな人?~(愛宕伸康)
出所:各種資料、楽天証券経済研究所作成

 また、2010年11月の量的緩和第二弾(QE2)を決めた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、議長への敬意として議案には賛成しましたが、「議長、あなたが我々を導いている道は私が望む道ではない」、「長期国債市場に規模と力で介入するリスクを過小評価している」と痛烈に批判しています(図表8)。


<図表8 量的緩和第二弾(QE2)を決めた2010年11月FOMCでの発言>
日銀「主な意見」、追加利上げに前のめり~次期FRB議長ってどんな人?~(愛宕伸康)
出所:各種資料、楽天証券経済研究所作成

 ただ、当時の議事録を読むと、現実や状況の変化を無視した教条主義的なタカ派というわけではなく、市場環境やデータ、政策のメリット・デメリットや副作用などを考慮した上での主張が多いように伺われ、筆者はどちらかというとプラグマティスト(現実主義者)ではないかとみています。


 バーナンキ元議長もそうでしたが、議長になって政策実務に携われば主張も変わるというのはよくある話。

ウォーシュ氏が議長に就任してどのような政策運営を行うのか、それは就任してみなければ分かりません。筆者は今のところ、FRBの今年の追加利下げは6月以降1回もしくは2回という従来の見方を変えていません。


(愛宕 伸康)

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