ファクトセットは、財務・ポートフォリオ分析、Excel連携に強みを有する米国の金融情報サービス大手です。データ分析の重要度が増す中、データのさらなる充実、分析機能強化、M&Aなどにより10年間で株主資本は4.1倍に増加しましたが、株価は1.2倍の上昇にとどまっており、同業他社比で割安な水準です。


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プロローグ

タローくん「金融情報サービスを提供するファクトセットってどんな会社なの?」
ユーちゃん「Excelと相性抜群の金融データ屋さん。AIで分析も自動化中。」


タローくん「業績は?」
ユーちゃん「10年で利益2.5倍。ただし株価は最近さえなくて、同業比でPBRが低く、割安に見える。」


タローくん「なんで株価はさえないの?」
ユーちゃん「金融業界が節約モード+割高の反動+AI誤解。」


タローくん「つまり今のFactSetは?」
ユーちゃん「「実力派なのに、たまたまバーゲン棚に置かれてる商品」みたいな状態。」


金融データのExcel連携に強みを持ち、AIによるワークフロー最適化に取り組む

  ファクトセット・リサーチ・システムズ(FDS NYSE) (株価205.79ドル、時価総額7,635百万ドル:2月13日終値)は金融情報サービス大手で、同種のサービスとしては、ブルームバーグ(非上場)が提供する「Bloomberg」、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)が提供する「Refinitiv」、 S&Pグローバル(SPGI NYSE) が提供する「Capital IQ」などがあります。


 ファクトセット・リサーチ・システムズのサービス「FactSet」は、標準化された財務データを関数で直接取得可能で、企業を入れ替えてもモデルが壊れない構造を持ちます。


    会計基準の違いを解消した統一データ、遡及修正や予想更新の履歴管理、セグメント情報が整備されたデータベースがExcel上で扱えるため、財務モデルの更新・比較・再利用が極めて効率的に実行できます。さらに、上場企業のコンセンサス予想データは最も安定していて精度が高いとの評価を得ています。


 他方、Bloombergはリアルタイム市場データとニュースで強みを持ち、トレーディング用途で業界標準となっています。Refinitivはロイターのニュースと幅広いデータを備え、投資銀行業務でよく使われます。Capital IQは財務データやM&A情報、スクリーニングに特化し、投資銀行やプライベートエクイティに適しています。それぞれ得意領域が異なる上、最も高額なBloombergと相対的に安価な他サービスという形で価格帯も分かれており、ユーザーはニーズと予算に鑑みつつ、どの組み合わせで利用するか検討し導入する状況となっています。


 ファクトセット・リサーチ・システムズは1978年に、ウォール街の証券会社で同僚だったHoward Willeと Chuck Snyderによって設立されました。1981年にはFactSetのデータを VisiCalc(世界初のスプレッドシート)に直接ダウンロードできる仕組みを開発し、金融データ処理の効率を大幅に向上させました。同年、初のクライアント向け端末提供を開始してユーザーがFactSetのメインフレームに接続してレポートを取得できるようになり、現在の統合型金融データプラットフォームの基礎となりました。


 その後、FactSetは企業財務データ、予想、ポートフォリオ分析などを統合したサービスへと進化し、現在では世界20か国以上に拠点を持ち、239,000人以上の投資専門家が利用するグローバル企業へと成長しました。

(ちなみに他サービスのユーザー数は、Bloombergが325,000人、Refinitivが200,000人、Capital IQが120,000人です。)


<中核サービスであるFactSet Workstationの画面>
米金融情報サービス大手、ファクトセットに割安感(西 勇太郎)
出所:ファクトセット・リサーチ・システムズ

 現在はAIの導入に注力しており、「高品質データの活用」と「運用・リサーチ業務の効率化」に重点を置いている状況です。生成AIで企業分析やレポート作成を自動化するとともに、財務データや開示情報の整理・統合にもAIを活用。ポートフォリオ分析ではリスク要因の抽出や要約をAIが支援するようにしています。さらにMicrosoftとの連携で、ExcelやTeamsから自然言語でデータを呼び出せる環境を整備し、運用会社やアナリストのワークフロー全体をAIで最適化することに取り組んでいます。


<生成AIが分析・資料作成をサポート>
米金融情報サービス大手、ファクトセットに割安感(西 勇太郎)
出所:ファクトセット・リサーチ・システムズ

10年間で利益2.5倍となるも株価は割高水準から大幅下落

 ファクトセット・リサーチ・システムズの2015年8月期の売上高は10億700万ドルでしたが、2025年8月期には23億2200万ドルと2.3倍に増加しました。当期純利益は売上高の増加率を上回る増加を示しており、2015年8月期の2億4100万ドルから2025年8月期には5億9700万ドルへと2.5倍に増加しました。


<ファクトセット・リサーチ・システムズの当期純利益推移(2015年8月期以降)>
米金融情報サービス大手、ファクトセットに割安感(西 勇太郎)
※2026年8月期は予想値出所:ファクトセット・リサーチ・システムズ資料等より楽天証券経済研究所が作成

 他方、株価については2023年まで堅調に推移していたものの、2024年以降は大きく下落しました。これは、コロナ禍以降の世界的な金利上昇でIPO、M&A、債券発行といった投資銀行の主要収益源が大幅に縮小したあおりで金融機関がコスト削減に傾いたため、ファクトセット・リサーチ・システムズの売上高成長率が鈍化したことが要因です。また、同業他社比で株価が割高だったことも影響しました。


 また、生成AIによってFactSetのようなデータ提供サービスが不要となるという「データベンダー不要論」が投資家心理を悪化させる要因として働いていることも事実です。ただし、生成AI自体がFactSetが提供するような高品質データを提供できるわけではないこと、むしろAIを活用することによる分析の高度化が高品質データの価値のさらなる上昇につながること、などから、ファクトセット・リサーチ・システムズはAIを脅威ではなく武器として活用しつつあるというのが実態です。


<ファクトセット・リサーチ・システムズの株価推移(2015年8月期以降)>
米金融情報サービス大手、ファクトセットに割安感(西 勇太郎)
※2026年8月期は直近値出所:ファクトセット・リサーチ・システムズ資料等より楽天証券経済研究所が作成

2024年以降の大幅下落でPBRも大きく低下

 ファクトセット・リサーチ・システムズの過去10年間の業績変化を見ると、売上高が2.3倍、営業利益も2.3倍、当期純利益は2.5倍となりました。株主資本の蓄積も順調に進んで4.1倍に達している中、時価総額の増加は2024年以降の大幅下落の影響もあって1.2倍にとどまっています。

結果的にPBRは12.3倍から3.5倍へと大きく低下しました。


<ファクトセット・リサーチ・システムズの業績推移(2015年8月期と2025年8月期)> (百万ドル) 2015年8月期 2025年8月期 変化(倍) 売上高 1,007 2,322 2.3 売上総利益 601 1,224 2.0 営業利益 332 748 2.3 当期純利益 241 597 2.5 株主資本等合計 532 2,186 4.1 時価総額 6,540 7,635 1.2 PBR(倍) 12.3 3.5 - PER(倍) 27 13 - ※時価総額は、2015年8月期は期末時点値、2025年8月期は直近値
出所:ファクトセット・リサーチ・システムズの資料等より楽天証券経済研究所が作成

 過去10年間の業績変化を地域別で見ると、米州が売上高、利益ともに、最大であることには変わりない一方で、アジア太平洋の売上高成長率及び利益成長率が最大でした。これは、アジア太平洋地域での資産運用・投資銀行業界の成長が著しく、データ需要が急増していく中、ファクトセット・リサーチ・システムズが営業拠点拡大やローカルデータ強化など、同地域を重点市場として投資してきたことが結実したものです。


<ファクトセット・リサーチ・システムズの地域別業績推移(2015年8月期と2025年8月期)> (百万ドル) 2015年8月期 2025年8月期 変化(倍) 売上高 1,007 2,322 2.3   米州 679 1,506 2.2   欧州・中東・アフリカ 252 580 2.3   アジア太平洋 76 235 3.1 営業利益 332 748 2.3   米州 173 306 1.8   欧州・中東・アフリカ 116 274 2.4   アジア太平洋 43 168 3.9 営業利益率 33% 32% -   米州 25% 20% -   欧州・中東・アフリカ 46% 47% -   アジア太平洋 57% 71% - 出所:ファクトセット・リサーチ・システムズの資料等より楽天証券経済研究所が作成

 今後については、2025年8月期、2026年8月期の市場予想ともに、2025年8月期比で増益が継続する見通しとなっております。結果的に株主資本の蓄積も進むため、株価水準がこのまま変わらない場合、PBRは低下し、2027年8月期には3.0倍になる計算となります。


<ファクトセット・リサーチ・システムズの業績予想> (百万ドル) 2025年8月期 2026年8月期 2027年8月期 実績 予想 予想 売上高 2,322 2,451 2,580 営業利益 748 - - 当期純利益 597 652 691 株主資本等合計 2,186 2,306 2,527 時価総額 7,635 7,635 7,635 PBR(倍) 3.5 3.3 3.0 PER(倍) 13 12 11 ※時価総額は直近値
出所:ファクトセット・リサーチ・システムズの資料等より楽天証券経済研究所が作成

金融情報サービス同業他社比でPBRに割安感

 ファクトセット・リサーチ・システムズの比較対象に適する金融情報サービスの上場同業他社には、S&Pグローバル、 ムーディーズ(MCO NYSE) 、 エクイファックス(EFX NYSE) 、 トランスユニオン(TRU NYSE) 、 モーニングスター(MORN NASDAQ) 、 BGCグループ(BGC NASDAQ) などがあります。


 これらの企業について、ROEを横軸、PBRを縦軸とした散布図を作成すると、概ね比例関係にあることがわかります。その中で、ファクトセット・リサーチ・システムズについては割安方向にずれており、この点から、株価に割安感があると言えます。この割安感が解消された場合のファクトセット・リサーチ・システムズのPBR(下図の青破線に乗る水準)は8.4倍であり、その場合の株価は500ドルです。


<主な金融情報サービス企業のROEとPBRの関係>
米金融情報サービス大手、ファクトセットに割安感(西 勇太郎)
出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

<主な金融情報サービス企業10社のROEとPBR> 社名 証券
コード 取引所 売上高 ROE PBR 百万ドル % 倍 S&P Global SPGI NYSE 14,208 11 3.9 Experian EXPN ロンドン 7,523 24 6.1 Thomson Reuters TRI トロント 7,258 19 3.3 Moodys MCO NYSE 7,088 60 21.3 Equifax EFX NYSE 5,681 13 5.0 TransUnion TRU NYSE 4,184 7 3.2 FactSet Research Systems FDS NYSE 2,322 29 3.5 Morningstar MORN NASDAQ 2,275 25 5.0 NICE Holdings 034310 韓国 2,228 6 0.7 BGC Group BGC NASDAQ 2,207 14 4.8 出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 また、これらの企業の予想配当利回りを比較すると、ファクトセット・リサーチ・システムズは2.2%の利回り(一株当たり配当4.5ドルで計算)となっており、同業他社比でそん色ない水準です。また、2024年度に自社株買いを行っており、総還元性向は4.5%と相対的に高い水準でした。


<主な金融情報サービス企業10社の配当及び総還元利回り> 社名 証券
コード 取引所 昨年度 今年度 実績配当 総還元 予想配当 % % % S&P Global SPGI NYSE 0.7 2.8 1.0 Experian EXPN ロンドン 1.4 1.9 2.1 Thomson Reuters TRI トロント 1.4 2.7 2.8 Moodys MCO NYSE 0.7 2.2 0.9 Equifax EFX NYSE 0.9 0.9 1.1 TransUnion TRU NYSE 0.5 0.4 0.7 FactSet Research Systems FDS NYSE 1.2 4.5 2.2 Morningstar MORN NASDAQ 0.5 0.6 1.2 NICE Holdings 034310 韓国 0.0 4.5 3.5 BGC Group BGC NASDAQ 0.8 10.0 0.8 出所:各社資料、MarketScreenerより楽天証券経済研究所が作成

 ファクトセット・リサーチ・システムズは今後も高水準収益継続が見込まれる中で、株価は過去実績比、同業他社比で割安感がある状況です。


(西 勇太郎)

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