米国株市場はAIとの共存を模索する動きからソフトウエア銘柄が反発し、底堅さを見せつつあります。その裏で、プライベートクレジット市場の動揺が新たな懸念材料として浮上しました。
米国株市場はソフトウエア株の反発で持ち直しの動き
2月最終週の米国株市場は、足元で持ち直しの動きを見せています。
<図1>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年2月25日時点)
図1は、2025年末を100とした米主要株価指数のパフォーマンスを比較したものですが、週初の2月23日(月)は下落したものの、翌2月24日(火)以降に反発傾向を辿っていることが確認できます。中でも、半導体関連銘柄で構成されるSOX指数は最高値を更新する動きとなっています。
こうした米国株の持ち直しの背景には、米国の経済指標の結果を受けて、景気の底堅さとインフレの鈍化傾向が感じられることなどが挙げられますが、中でも「アンソロピック・ショック」をきっかけに、最近まで大きく売られていたソフトウエア関連銘柄が反発の動きを見せていることが大きく影響しています。
直近までの株式市場は、米AI企業アンソロピックが発表した高度なAIエージェントをきっかけとした「アンソロピック・ショック」の渦中にありました。
AI技術の進歩の速さと機能の高度化が、既存のビジネスモデルを破壊するという「AI脅威論」が広がり、一時は「SaaS(Software as a Service)の死」という言葉まで飛び交い、ソフトウエア関連銘柄を中心に株価が下落していきました。
しかし、今週に入ってからは、「AIに駆逐される」という悲観一色から、AIを自社サービスに取り込んで価値を高める「共存」の方向性を探る動きが浮上し始め、市場のムードが改善しつつある印象です。
<図2>米ソフトウエア・AIサービス関連銘柄のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年2月25日時点)
図2は、主要なソフトウエア銘柄( セールスフォース(CRM) 、 アドビ(ADBE) 、 サービスナウ(NOW) )のほか、昨年の相場で大きく株価を上昇させたAIサービス銘柄( パランティア・テクノロジーズ(PLTR) 、 クラウドストライク(CRWD) 、 オラクル(ORCL) 、 IBM(IBM) )のパフォーマンス比較ですが、先ほども述べたように、揃って足元の株価が反発している様子が確認できます。
とはいえ、これまでの株価下落の大きさと比べると、戻り幅はまだ小さいですし、今後もAIの進歩が既存のビジネスを脅かす場面がありそうなことや、AIを味方につけて、ビジネスの革新や創造に成功して生き残りそうな企業とそうでない企業との選別が進むことが想定されます。
そのため、目先は反発基調が続くことが想定される一方、本格的な上昇に転じることができるかはまだ微妙かもしれません。さらに、日本時間26日(木)の朝に、セールスフォースが決算を発表しましたが、業績と見通しが堅調だったにも関わらず、時間外取引で下落をする反応を見せており、AI脅威論に対する警戒は根強いかもしれません。
波紋を広げる「PC(プライベートクレジット)」の解約停止
また、この米ソフトウエア関連銘柄の下落については、金融株も一緒に売られていたのも特徴です。
<図3>米S&P500業種別指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年2月25日時点)
図3は、S&P500の業種別指数のパフォーマンス比較ですが、11業種のうち、金融のパフォーマンスがいちばん悪くなっていることが分かります。
昨年(2025年)の金融株は米大手銀行を中心に15%ほど上昇していましたが、2026年に入ってからは低迷が続いており、アンソロピック・ショックのタイミングあたりから、さらに株価が下落していきました。
AIの脅威によって、「ソフトウエア関連だけでなく、他の既存ビジネスも駆逐するのでは?」という連想が働き、株価の下落が他業種にも波及する動きを見せましたが、それに伴い、企業に資金を提供している金融機関の業績にも悪影響が出るのではと懸念されていた可能性が考えられます。
そんな中、このタイミングで、米大手投資ファンドであるブルー・アウル・キャピタルが運営する個人投資家向けのプライベートクレジット(PC)ファンドの「OBDC II」が、解約の受付を一時的に停止することを2月18日(水)に公表したことが波紋を広げています。
プライベートクレジット(PC)とは?
そもそも、プライベートクレジット(PC)とは、「銀行以外のノンバンク(投資ファンドなど)が、企業に対して行う融資」のことで、個人をはじめとする投資家から集めた資金を銀行に代わって企業に資金を供給する仕組みです。
プライベートクレジットは、リーマン・ショック後に銀行が融資に慎重になった隙間を埋める形で成長し、現在は世界で約280兆円(1.8兆ドル)規模の巨大市場になっていると言われています。また、投資家にとっても、一般的な債券よりも高い利回り(リターン)が期待できるというメリットがあります。
その反面、プレイベートクレジットの投資先が未上場企業であることが多く、投資先の財務状況などの実態を把握しづらいほか、上場株式のようにすぐに売却して現金化するハードルも高いなどの流動性リスクもあります。
つまり、プライベートクレジットへの投資は、「リターンの期待値は高いが、中身が分かりにくく、解約も難しい」という特徴があります。
そのため、一時的とはいえ、今回のブルー・アウル・キャピタルによる解約受付の停止は、プライベートクレジット市場に対する不安を急速に高め、同社の株価が大きく下落し、その影響は米株市場に上場している他の関連銘柄にも波及していきました(下の図4)。
<図4>米プライベートクレジット関連銘柄のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年2月25日時点)
プレイベートクレジットは「炭鉱のカナリア」か?
このブルー・アウル・キャピタルによる解約受付の停止をめぐり、市場では「炭鉱のカナリア(危機の前兆)」ではないかという警戒感が強まっています。
この根拠として、2007年の「パリバ・ショック」との類似性が指摘されています。当時、仏BNPパリバ傘下のファンドがサブプライムローン関連資産の評価が困難になったとして解約を凍結し、結果的にそれが翌年(2008年)の「リーマン・ショック」への序章となった経緯がありました。
ここで、先ほどの図4を見ると、プライベートクレジット関連銘柄の株価は昨年9月あたりから下落基調が始まっていることがわかります。
当時は、自動車部品メーカーのファースト・ブランズや、サブプライム自動車ローン会社のトライカラー・ホールディングスなどの米自動車関連企業が相次いで経営破綻したことをきっかけに、資金調達経路に対する警戒感が強まり、それに伴ってノンバンク融資の不透明さがクローズアップされ、プライベートクレジット関連ファンドの解約が増加していた時期でした。
つまり、そもそもプライベートクレジット関連の環境が改善し切れていない中で、今回のブルー・アウル・キャピタルによる解約受付停止という新たな懸念材料が加わった格好と言えます。
プライベートクレジットファンドの投資先にソフトウエア関連企業が多いと言われていることや、AI脅威論が拡大し、幅広い業種が影響を受けることになれば、投資先から資金が回収できなくなるという懸念が高まることが、足元のプライベートクレジット関連銘柄の株価下落につながったと思われます。
その一方で、ブルー・アウル・キャピタルは昨年末にファンド同士の合併を画策して失敗しており、その際の手続き上の混乱や投資家の反発が尾を引いて現在の株価になっている面があるため、今回の件はブルー・アウル・キャピタル特有の「特殊要因」も大きいという冷静な見方もあります。
今後の見通し:慎重に恐れる必要
とはいえ、今後の見通しについては、ポジティブとネガティブの両面から慎重に見極める必要があります。
【ポジティブな視点】
ブルー・アウル・キャピタルは、今回の解約受付停止と同時に、14億ドル相当の資産売却を計画しており、保有債権には買い手からの強い需要があると説明しています。
もし、債権が額面に近い価格で順調に売却され、投資家への資金返還が進めば、不安心理は和らぐと思われます。また、旺盛なAI関連需要が継続し、再びリスクオンのムードが強まれば、金融セクターも息を吹き返す可能性があります。
【ネガティブな視点】
今年11月に実施される中間選挙を前に、トランプ米大統領が対外的にも対内的にも活発に動いています。関税政策の行方や、選挙前の景気対策、米国とイランの緊張による地政学リスクなど、良くも悪くも「いつ、なにが出てきてもおかしくない」という先行きの不透明感がくすぶります。
AIの進歩がもたらす影響や、今回のプライベートクレジットをめぐる動向も不透明感の材料のひとつに加わる格好となり、リスク回避の姿勢が強まっていく可能性があります。
現時点では、プライベートクレジット市場に対する不安が金融市場の「システム的リスク」に発展する可能性は低いと見られていますが、最初はちょっとした「カネ回りの滞り」だったのが、やがて大きな金融市場の混乱を招いて、株式市場が大きく下落していく展開に発展するというケースは珍しくありません。
したがって、現在のプライベートクレジットに関する懸念は、「慎重に恐れる」程度の段階と思われますが、図4の関連銘柄の株価の動きはこまめにチェックしていく必要はありそうです。
(土信田 雅之)

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