2月27日、日経平均株価は終値ベースの史上最高値5万8850円27銭を付けました。「6万円は通過点」楽観ムードがありましたが月が替わった直後、わずか3営業日後の3月4日には、一時5万3,600円台を付けるまで崩落。

3日間で4,600円下落、相場感覚を破壊するハイボラ仕様となっています。一旦落ち着いた翌3月5日は一時2,300円高のビッグリバウンド…。


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日経平均株価と日経平均VI(恐怖指数)の変動 

 波乱のきっかけは、米国とイスラエルによるイランへの大規模攻撃でした。攻撃直後には、イランの最高指導者ハメネイ師の死亡も報じられ、イランはすぐに一部の船舶に対するホルムズ海峡の運航禁止を通告するなど、事態の重さを感じさせるニュースが矢継ぎ早に流れました。また、トランプ大統領がイラン攻撃は4~5週間を超える可能性があると示唆したことで、事態の長期化が意識されました。


 昨年の6月も似たような事態になりましたが、この時は短期で収束したことで実体経済には影響を与えませんでした。予測市場(賭けサイト)のポリマーケットでは「米国とイランはいつ停戦するか」という項目があります。お金を賭けて活発に取引されているポリマーケットを見てみると、「3月末まで停戦」に賭けているのは32%にとどまっています。「4月末までに停戦」で48%、「5月末までに停戦」が64%、「6月末までに停戦」が68%(3月5日の日本時間18時30分時点)。停戦まで、かなり時間がかかりそうというのがコンセンサスになっています。


 長期化すると厄介なのは、原油価格の上昇を通じ、日本経済に打撃が起きてしまうことです。日本は原油を中東からの輸入に依存している国のひとつ。3月3日には、米原油先物が一時1バレル77ドル台後半と、昨年6月以来の高値を付けました。

一部米系証券の3月2日付けレポートでは、紛争が3~4週間継続した場合「ブレンド原油は100ドル~120ドルまで上昇する可能性がある」とも指摘していました(煽り過ぎにも感じますが…)。


 原油価格が高騰すると、株・債券・円の全部が下がる“トリプル安”にも備えなければいけません。債券は安全資産として買われそうですが、期待インフレの上昇で日銀の利上げ可能性が高まることが債券売り(金利上昇)につながる、なんて理屈では解釈できます。FRBの方でいえば、インフレ再燃で利下げに動きにくくなるとの理屈から、株安要因と解釈できます。


日経平均株価と日経平均VI
中東情勢リスクが日本株市場に与えた影響と投資機会。配当妙味がアップした大型高配株10銘柄
出所:筆者作成 

 市場の関心は、いつ停戦するか(事態が収束するか)に集中するわけですが、これはまだ誰も分からない…という状況で、日本株市場で起きたのが、地政学リスクに対する想像以上のネガティブリアクションでした。


 日経平均は高値から最大5,000円超下げ、中東情勢浮上からたった3日で自民党の歴史的圧勝以降(2月9日以降)の上昇分を全部飛ばしました。市場の不安定感は、日経平均版の恐怖指数である日経平均ボラティリティインデックス(VI)の急騰からも伝わります。平常時は30前後で推移しているのが、4日に一時64まで跳ね上がり、昨年のピーク並みに。おととしの歴史的暴落(8.5ショック)時の80超えほどでは無いにしても、なんだかんだ日本株、年1回はこの手の急落に見舞われてますね…。


日経平均先物市場の異変

 ちなみに、大荒れの日経平均ですが、大きな変動の発生時は“先物主導”で動くケースがほとんどです。流動性抜群の日経平均先物ですが、その先物でも異変が起きていました。それが「極度に板が薄すぎる問題」です。


 日経平均先物のラージ、ミニともに板を見ていると、1つの板に入っている指値注文が1ケタ枚数の時間帯が頻発していました。

これだと、ちょっと大きい買い/売り注文が入ると、それだけで50円とか100円とか簡単に動いてしまいます。


 なぜ、板が薄いか?…それは地政学リスクに最も関心が高まっている時期というのは、積極果敢に動きづらいから。例えば、エヌビディアの決算だとか、日銀会合だとか、日程や時間帯が分かっているイベントを前に様子見しているのであれば、こうはならないのですが、今回のような中東情勢となると話は別。


 「遠い国の戦争は買い」という相場の格言がありますが、その最中の投資家心理としては「遠い国の戦争は動きづらい」が実情です。とうのが、情勢を伝えるヘッドラインが“いつ流れてくるか分からない”という特性があるからです。突然、大規模攻撃を伝えるニュースがあると、ヘッドラインに反応してネガティブな動きが加速する可能性があります。だから、下値で買い指値を入れにくい。逆に短期収束を伝えるニュースなら、ポジティブな動きに一変する…だから、安易に上の価格に売り指値も入れにくい。


 それでいて、そもそも、日経平均自体が直前まで史上最高値でしたよね。予想PERは
史上最高値の2月末時点で20.3倍、PBRも1.97倍に到達。ファンダメンタルズでいえば、過去と比べても「ものすごい割高」と評判でした。だから、少々の押し目では「割安」とも言えないことで、下値に指値が入りにくかったこともありそうです。


 結果、目で見て一目瞭然レベルで板が薄く、板が薄いからハイボラになる。ハイボラになるから指値がなおさら入れにくくなり、さらにハイボラになる…そんな感じ。


中東情勢リスクと株式市場の動向

 2月はAIディスラプション(破壊)が投資家の耳目を集めていましたが、3月は中東に全関心が奪われた格好。初動の下げ続けた3日間(3月2日~4日)において、株式市場で起きたことは…中東情勢の緊迫化で原油価格が上がり、その影響を受ける株ほど売られた、のでしょうか?


 答えは半分Yesですが、それもせいぜい航空株などが売られた程度。それより、突出して売られた株は…「手前で大きく上昇していた株でした。例えば、半導体株や電線株、ゴム会社の株が突出して上がっていましたが、そういった銘柄ほど下げました。株式市場で起きたことを要約するなら、“中東情勢という理由をトリガーに、上がり過ぎていた株の利益確定売りが加速した”といった感じ。


 これ、世界的に同様で、株価指数でいえば米国では半導体のSOX指数だし、アジア株では半導体株の影響が強い韓国のKOSPI指数でした(韓国KOSPIは3月4日に12%安、これ数十年ぶりの下落率だそうです)。韓国KOSPIは2月末まで、年初来で約50%も爆上げしていた指数で、その指数が世界一下がった…つまり、リターンリバーサルですよね。「上げ過ぎていたものほど下がる」という意味です。


 では、激動の3日間で強かった株、弱かった株を振り返っておきましょう。まず、中東情勢リスクに強かった株から。対象は、時価総額1兆円以上の大型株とします。


中東情勢リスクに強かった大型株 コード 銘柄名 3月2日~4日
騰落率 年初~2月末
騰落率 1605 INPEX 2% 22% 3092 ZOZO 2% -12% 9104 商船三井 2% 23% 9532 大ガス 2% 20% 6201 豊田織機 2% 14% 9101 郵 船 0% 6% 9107 川崎船 0% 15% 9531 東ガス 0% 23% 9719 SCSK 0% 0% 7550 ゼンショーHD -1% 11% 出所:筆者作成 ※時価総額1兆円以上、3月2日~4日騰落率上位

 原油価格の上昇メリット株の代表格INPEXが逆行高したほか、商船三井、日本郵船、川崎汽船の海運3社も耐性を示しました。3月2日、イラン革命防衛隊がエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡を封鎖。世界の石油供給の約2割が通過するとされる海峡ですので、封鎖による船舶運賃の上昇を見込んで、海運大手はポジティブ材料とされています。ですが、その割には上昇率も限定的。ホルムズ海峡はイランにとって重要な交渉カードなわけですが、イランの収入源でもあります。ここの完全封鎖は現実的ではない、と投資家は見ているといえそうです。そのほか、リターンリバーサルですので、これまで上がっていなかったZOZOのようなネット株(AIディスラプションで売られていたソフトウェア株なども)が買い戻されてもいました。


中東情勢リスクに弱かった大型株
コード 銘柄名 3月2日~4日
騰落率 年初~2月末
騰落率 4151 協和キリン -23% 14% 4062 イビデン -17% 42% 5101 浜ゴム -16% 31% 8604 野村HD -16% 12% 6506 安川電 -16% 16% 5713 住友鉱 -15% 99% 6305 日立建 -15% 52% 9201 JAL -14% 11% 8473 SBI -14% -1% 8411 みずほ -14% 25% 出所:筆者作成 ※時価総額1兆円以上、3月2日~4日騰落率上位

 逆に、この期間に急落した大型株は上記のような銘柄群。協和キリンはアトピー薬の治験中止という個別要因ですが、年初から爆上げしていたイビデン、浜ゴム、住友鉱山、日立建機などが強烈利食い売り対象になったことが分かります。地政学リスクというより、完全にリターンリバーサル。この地政学リスクが急速に萎んでいく(後退する)過程では、
この3日間でよく下げた株ほど強いリバウンドが期待できたりします。


地政学リスクと日本株:過去の事例と今回の急落がもたらす投資機会

 有事の終着点は誰にも予想出来ないものの、地政学リスクに関し、複数の外資系証券が過去事例を検証。

結果的には、「1週間or1カ月で反転上昇する」とか、「3週間下落し、その後の3週間で回復することが多い」とレポートで記載されています。日本株も、“地政学リスクは買い場”これ、相場格言にしても良いくらい過去のトラックレコードは良好ですよね。


 今回、ちょうど3月に月が替わるタイミングで、中東情勢の緊迫化により急変しました。ただ、この時期の急落が、個人投資家のハートを動かす可能性もあるのではないでしょうか。というのが、日本は3月を決算期とする企業が最も多い国。「(期末が近付いているし)高配当株でも買おうか」という意識が生まれるタイミングですよね。そこで、“株価が下がったことで配当利回りが高まる”というのは、そうした投資家にとっては願ってもないチャンスとも考えられます。


 また、新NISAの成長投資枠が復活したのはいいものの、日経平均は1に月間2,983円高、2月は同5,527円高…あまりの爆上げで買いの手が伸びず、買えないまま2カ月を経過してしまった投資家も多かったはず。この3日間で、2カ月で上がった分の半分以上は消し飛んだわけで、値段的に「これなら買おうか」と重い腰をあげた投資家も多かったのではないでしょうか。実際、一部証券会社のコールセンターの電話が繋がらないほど問い合わせが殺到していたとも聞きます。


中東情勢リスクで急落した大型3月高配当株
コード 銘柄名 予想配当
利回り 3月2日~4日
騰落率 5411 JFE 4.1% -11% 8604 野村HD 3.8% -16% 7202 いすゞ 3.6% -11% 9201 JAL 3.5% -14% 4503 アステラス薬 3.3% -10% 8473 SBI 3.3% -14% 8795 T&DHD 3.3% -10% 4188 三菱ケミG 3.1% -12% 8316 三井住友 3.0% -13% 8354 ふくおか 3.0% -13% 出所:筆者作成 ※時価総額1兆円以上、配当利回り3%以上、3月2日~4日の期間に10%以上の下落率だった銘柄

 参考までに、この3日間の地合いに飲まれて急落し、結果的には配当妙味がアップした株を紹介します。対象は時価総額1兆円以上の大型株としますが、今期予想配当利回りが3%以上あり、この3日間で10%以上下落(TOPIXは7.7%下落)した銘柄はちょうど10銘柄ありました。


 ポリマーケットで停戦時期を当てるみたいに、今回の地政学リスクでの下げの底値を当てる…そんな底値当てゲームに短期売買で参加するのではなく、「この株価で買えるなら長い目で見てオイシイ!」そんなスタンスで買うのなら、今回の急落は恵みの雨かもしれません。長期保有を前提に、腹をくくって買うのも一考ともいえそうです。


(岡村 友哉)

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