日銀は3月の金融政策決定会合(MPM)で利上げを見送る公算です。関心は4月MPMで利上げするかどうか。

カギは為替と原油相場が握っています。原油相場を円建てでみるとすでに過去最高値。その影響について植田総裁は方向の違う二つのシナリオに言及しています。日銀は利上げすべきか待つべきか、難しいかじ取りを迫られています。


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日銀は3月利上げ見送りへ~原油相場高騰の深刻度~

 日本銀行は3月18~19日に金融政策決定会合(MPM)を開催します。昨年12月に利上げを行った後、その経済や市場への影響を見定められるほど時間がたっていないことや、中東情勢の緊迫化など不確実性の高まりを受けて、利上げは見送られる公算です。


 市場では、円安が進行していることや、インフレ上振れリスクが高まっていることなどから、4月27~28日に開催される次のMPMで利上げが行われるとの見方が比較的多く、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む4月会合までの利上げ確率は60%台となっています。


 果たして日銀は4月に利上げを行うのでしょうか。カギを握るのは原油相場の動向です。


 米国とイスラエルがイランを攻撃する前、1バレル70ドル前後だった原油相場は、3月13日現在、ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)が1バレル98.71ドル、北海ブレントが1バレル103.14ドル、サウジアラビア産の代表油種アラビアン・ライトが1バレル119.26ドルまで上昇しています(図表1)。


<図表1 原油相場>
日銀は3月利上げ見送りへ、植田総裁が想定する今後のシナリオ(愛宕伸康)
出所:Bloomberg、楽天証券経済研究所作成

 これはロシアのウクライナ侵攻により急騰した2022年5月の直近ピークまであとわずかという高い水準ですが、新興国ブームで3指標とも1バレル140ドルを超えた2008年6月の既往ピークに比べれば、まだ距離があります。しかし、今は円安も重なっています。


 そこで、その三つの原油指標(月次)を円換算してみました(図表2)。

直近値は、図表1に記した2026年3月13日の相場を、同日の為替レート1ドル=159.73円で円換算していますが、それを見ると実は三つの指標とも最高値となっています。


<図表2 円建ての原油相場>
日銀は3月利上げ見送りへ、植田総裁が想定する今後のシナリオ(愛宕伸康)
注:各指標をドル円相場で円換算。直近は2026年3月13日の値で計算。出所:Bloomberg、楽天証券経済研究所作成

 ただ、数十年という長期で比較する場合、経済水準が大きく異なることから単純比較はできません。何らかの指標で経済水準の違いを取り除く必要がありますが、よくやる方法は消費者物価による実質化です。


 図表3がその結果ですが、アラビアン・ライトはそれでも直近が最高値、WTIと北海ブレントは2008年6月のピークまであと数パーセントの高さまで上昇していることが分かります。


<図表3 実質原油相場>
日銀は3月利上げ見送りへ、植田総裁が想定する今後のシナリオ(愛宕伸康)
出所:Bloomberg、楽天証券経済研究所作成

植田総裁が想定する二つのシナリオ

 このように原油相場が足もとにかけて激しく上昇しているわけですが、これは当然、金融政策にも大きく影響します。というのも、原油相場の高騰は経済や物価の先行きに大きな影響を及ぼすからです。日銀の植田和男総裁は4日の衆議院財務金融委員会で、原油相場高騰の影響について聞かれ、以下の二つのシナリオに言及しました。


 一つは、「家計や企業の中長期的な予想インフレ率の上昇につながり、基調的な物価上昇率を押し上げる」というシナリオ。もう一つは、「交易条件の悪化をもたらし、景気、さらには基調的な物価上昇率を押し下げる」というシナリオです。


 一つ目のシナリオが現実となる場合、日銀は利上げを早める必要があります。ビハインド・ザ・カーブ(利上げが後手に回ること)に陥るリスクが高まっているからで、そうなれば大幅な利上げを余儀なくされ、景気に深刻なダメージを及ぼすことになります。


 また、利上げは円安や長期金利上昇の抑制につながる半面、景気が悪化した場合、利上げが拙速だったとの批判にさらされるリスクがあります。


 一方、二つ目のシナリオの場合、日銀は利上げを急がず、イラン情勢や原油相場の成り行きを見定めることになります。

ただ、待っているうちに円安や長期金利上昇のリスクが高まるほか、もしインフレが収まらなければ、結局大幅な利上げを余儀なくされ(ビハインド・ザ・カーブ)、そうなった場合の景気や市場へのダメージは、一つ目のシナリオより大きくなってしまいます。


 どちらになるか、植田総裁は4日の国会で「現時点で確たることは言えない」と述べましたが、実際のところそれが現実だろうと思います。


4月利上げはあるのか~不確実性が高い時には動かないのがセオリー~

「不確実性が高いときは、上振れ・下振れ双方向のリスクに対して中立的な立ち位置をとる」という金融政策運営のオーソドックスな考え方(これを「リスク・マネジメント・アプローチ」と言います)からすると、トランプ関税のときがそうだったように、「動かない」という選択が合理的となります。


 今日と明日行われる3月の金融政策決定会合(MPM)は現状維持だとして、4月27~28日のMPMで日銀が利上げに踏み切るかどうかは、為替や原油相場の今後の動向次第ということになるのではないでしょうか。


 1ドル=160円を大きく超える円安になったり、原油相場がさらに上振れることによって、植田総裁が示した一つ目のシナリオの蓋然(がいぜん)性が高まる、すなわち基調的な物価上昇率が押し上げられ、ビハインド・ザ・カーブに陥るリスクが高まったと判断されれば、利上げに踏み切ることになるとみています。


 ただ、前述した通り、今のところ植田総裁はどちらになるか決め打ちしていません。個人的には、景気下振れリスクの方を強く意識することになるのではないかと予想していますが、なぜそう予想するのか。新たに作成した指標を使って説明しましょう。


原油相場の高騰は景気悪化につながる~ユニットエネルギーコスト(UEC)~

 筆者は、物価の先行きを検討する際に参考にする指標としてユニットレーバーコスト(ULC)を取り上げることが多いのですが(例えば、2月25日のレポート「タイトな雇用環境と積極財政、物価高対策によるCPI下振れは一時的」)、ULCと同様の発想で、実質国内総生産(GDP)1単位に必要なエネルギー輸入量を示すユニットエネルギーコスト(UEC)を計算してみました。


2026年2月25日: タイトな雇用環境と積極財政、物価高対策によるCPI下振れは一時的(愛宕伸康)


 具体的には、貿易統計にある鉱物性燃料の輸入額を実質GDPで割り、1990年を100とする指数にしました(図表4)。ちなみに、エネルギー効率を見るために資源エネルギー庁が算定している「エネルギー消費原単位」(生産1単位に要するエネルギー消費量)とは発想が異なります。


<図表4 ユニットエネルギーコスト(UEC)と実質GDP>
日銀は3月利上げ見送りへ、植田総裁が想定する今後のシナリオ(愛宕伸康)
注:ユニットエネルギーコスト(UEC)とは、実質GDP1単位当たりの鉱物性燃料輸入額。相関係数はUEC(ラグ付き)と実質GDP前年比の過去5年間の相関係数をローリングした。出所:財務省、内閣府、楽天証券経済研究所作成

 UECは四半期データで計測しているため、図表4の終点は2025年10-12月期の値ですが、今回の原油相場高騰によって2026年1-3月期のUECは2022年並みに急上昇すると予想されます。


 また、図には、6カ月と1年の2種類のラグを持たせたUECと実質GDP前年比との相関係数も掲載しています。いずれも足もとマイナス1に近づきつつあり(負の相関の強まり)、原油相場の上昇によって実質GDPが減少する傾向が強まっていることを示しています。


 以上の結果は、今回の原油相場の高騰が今年後半の日本経済に悪影響を及ぼす可能性が高いことを示唆しています。


植田総裁が想定していないシナリオ~スタグフレーションのリスク~

 実はもう一つ、植田総裁が想定していないシナリオがあります。スタグフレーションです。植田総裁が示した二つ目のシナリオでは、原油相場の高騰が交易条件の悪化をもたらし、景気を悪化させた後、「基調的な物価上昇率を押し下げる」とありますが、物価が下がらずインフレが継続する、もしくは上振れるケースがスタグフレーションです。


 先週のレポート(「原油急騰リスクで経済に暗雲?日銀は利下げを待つべきか」)で、内需デフレーターの伸びが高くても、原油相場高騰によって交易条件が悪化すれば、GDPデフレーターが下落に転じる可能性があることを紹介しました。


2026年3月11日: 原油急騰リスクで経済に暗雲?日銀は利上げを待つべきか(愛宕伸康)


 内需デフレーターはウエートの高い最終消費支出デフレーターでほぼ決まり、最終消費支出デフレーターは消費者物価を使って作成されるため、「消費者物価の伸びが高くてもGDPデフレーターは下落に転じることがある」と言い換えることができます。実はこれがリーマンショック前の日本で起きていました。


 当時、日本は景気後退に陥りましたが、2008年9月に起きたリーマンショックが原因かというと、そうではありません。


 もちろん、リーマンショックが景気の落ち込みに拍車をかけたのは事実ですが、日本が景気後退に陥ったのはその年の2月からで、原油相場高騰が交易条件を大幅に悪化させたこと(実質購買力の大幅低下)がきっかけです。7月には消費者物価(生鮮食品除く)が前年比2.4%まで上昇しました。まさにスタグフレーションの構図です。


 円安が過度に進行していることを踏まえると、原油相場高騰によってそうした事態になるリスクは、今回の方が高いかもしれません。

そうなったときの金融政策運営は困難を極めることになります。スタグフレーションが最悪のケースとよく言われますが、消費者物価の上昇とGDPデフレーターの下落の同時発生は、その前兆を示す象徴的な現象かもしれません。


(愛宕 伸康)

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