プライベート・クレジット市場が評価額、引受基準、およびクライアントからの増加する償還要求に関する投資家の精査に直面している。
市場不安定化要因の一つに変貌した「民間信用(プライベート・クレジット)」
影の銀行といわれている米国のプライベート・クレジットから雪崩現象が起きたかのように資金の引き揚げが起きている。
日本経済新聞の3月22日の記事「大揺れプライベートクレジット、2008年危機と3つの類似点・1つの相違点」によると、米 ブルー・アウル・キャピタル(OWL) のファンドは先月、解約請求に応じることができず償還手続きを停止したほか、業界大手 ブラックストーン(BX) のファンドや米 モルガン・スタンレー(MS) が運用するファンドにも解約請求が発生した。
記事によると、プライベート・クレジットはリーマン・ショック後に急成長した。危機後の規制強化によって銀行は中小企業や新興企業の融資から撤退する一方、規制外のファンドがその穴を埋めたという。ファンドは年金基金や保険会社からマネーを集めて企業融資に回し、その市場規模は2009年の2,000億ドルから2兆ドル超と10倍強に膨らんだ。
破綻したプライベート・クレジットの1社に融資していた JPモルガン・チェース(JPM) のジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は昨年10月の電話会議で、「ゴキブリを1匹見かけたら、おそらくもっとたくさんいるだろう」と警告したことを記憶されている方も多いだろう。
ここ数週間、プライベート・クレジット業界から次々と「ゴキブリ」が姿を現しており、それが市場心理にも影響を及ぼしている。
このパニックは、米国の投資家が関税、制御不能な人工知能(AI)ブーム、そして最近ではイラン戦争とその世界的な原油価格への衝撃などをめぐって、数カ月にわたり投資家心理が恐怖と喜びの間を揺れ動いてきた時期に起きている。米国の株式市場が史上最高値から急落し、揺れ動く中で、かつては有望視されていた民間信用は、市場の不安定化要因の一つへと変貌した。
民間固定投資額の推移(Private Fixed Investment)
民間信用市場における不安の一部はAIと結びついている。大手テクノロジー企業とそのAIへの投資は長年にわたり株式市場をけん引してきたが、投資家はこれらの投資がどれだけの利益をもたらすのか、あるいはそもそも利益をもたらすのかどうかについて、ますます懸念を強めている。そして、民間信用企業はそうしたソフトウエア企業にとって重要な融資元である。
一般の投資家にとっての懸念は、民間信用取引の問題が主流の金融システム全体に波及し、より大規模な金融崩壊を引き起こす可能性があることだ。
投資家や金融規制の専門家は、この懸念の一因として、民間信用取引業界の透明性の欠如を挙げている。
そのお金がどこへ流れているのか(誰に貸し出されているのか)、そしてどれほどのリスクが負われているのか、全く把握できていない。投資家がリスクを恐れて資金を引き揚げ始めれば、融資を行っている企業への取り付け騒ぎや危機が発生する可能性がある。
記事は、急激な膨張にブレーキがかかった理由の一つは「SaaSの死」だと指摘している。担保の乏しいソフトウエア企業は銀行融資を得ることができず、代わりにファンド勢からの資金調達を行った。しかし、「SaaSの死」をきっかけに米国のプライベート・クレジット(ノンバンク融資)から資金が抜け出している。
2022年11月、オープンAIの大規模言語モデル(LLM)のChatGPTが公開されて以降、生成AIの進化は世界の市場を大きく変えてきた。ChatGPTの登場からわずか3年で、米国株式市場はAI銘柄を中心に史上最高値を更新し、半導体、クラウド、光通信、データセンター関連の株価は市場を毎日のようににぎわせている。
プロジェクト・シンジケートに昨年11月7日に掲載された投稿記事「In Search of the AI Bubble’s Economic Fundamentals(AIバブルの経済的ファンダメンタルズを探る)」は、半導体工場とデータセンターの建設をめぐる世界的な競争をめぐって投資が急増し、評価額が急騰するにつれて、金融投機が生産性の向上を上回っていることを示唆する証拠が増えていると指摘している。
過去の投機サイクルと同様に、今回のサイクルも創造的な資金調達メカニズムという特徴を持っている。4世紀前、オランダのチューリップ・バブルは球根の先物契約を生み出した。2008年の世界的金融危機では合成担保付債務証券(CDO)やクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などのデリバティブによってあおられた。
今日、同様のダイナミクスが、チップメーカー、クラウドプロバイダー、そしてオープンAIのようなLLM開発者を結びつける循環型資金調達ループでその資金調達メカニズムが展開されている。
一方で、1990年代後半のテクノロジーバブルは、インターネットの物理的および論理的インフラを世界規模で構築した。この時期の投機は主に株式市場に集中し、一部は取引可能なジャンク債市場に波及したが、経済全体のレバレッジは限定的だった。
鉄道から電化、そしてインターネットに至るまで近代資本主義は、収益が事前に予測できない、変革をもたらす可能性のある技術に資金を提供するために、繰り返し巨額の資本を動員し、金融投機の波が押し寄せた。
投機的な資金が引いた後にはいくつかの企業が破たんすることになったが、鉄道の線路を撤去したり、電力網を撤去したりする人はいなかった。また、地下の光ファイバーケーブルは社会のインフラとして次世代を担う重要な役割を果たし続けている。一方で、こうした「汎用技術」によって実現される「キラーアプリケーション」が生まれるまでには一定の時間を要する。
例えば、1882年、トーマス・エジソンはパールストリート発電所を稼働させ、電気の時代をもたらしたが、電化による製造業の生産性革命は1930年代になってから起こった。同様に、1876年に発明されたオットー内燃機関から1908年のヘンリー・フォードのモデルT、そしてジャック・キルビーの集積回路(1958年)からIBM PC(1981年)に至るまでには一世代を要した。
インターネットの原型が初めて実証されたのは1972年であったが、 アマゾン・ドット・コム(AMZN) やグーグル( GOOGL , GOOG )が設立されたのはそれから20年以上経過した後だった。
確かにAIに関連した設備投資の需要は急速に拡大している。この旺盛な需要は、半導体だけではなく、光通信、電力、冷却装置といった周辺の産業にまで効果を及ぼしている。
クレジット・スプレッドが発する金融市場への警告
マーケットウオッチの昨年10月3日の記事「The AI bubble is 17 times the size of the dot-com frenzy ― and four times the subprime bubble, analyst says(アナリストによれば、AIバブルはドットコムバブルの17倍、サブプライムバブルの4倍の規模である)」は、独立系調査会社マクロストラテジー・パートナーシップが、AIは単なるバブルではなくドットコムバブルの17倍、2008年の世界的な不動産バブルの4倍もの規模に達していると分析したことを報じている。
マクロストラテジー・パートナーシップは英国を本拠とする機関投資家200社余りを顧客に持つシンクタンクだ。データセンターへの投資効果と資産効果のいずれもが頭打ちになるにつれて、すでに失速状態にある経済は不況に陥るだけでなく逆回転を始めると述べている。
2008年のサブプライム危機では税金7,000億ドルが救済策として投じられた。ドットコムバブルの崩壊からナスダック総合指数が回復するまでに約15年を要した。
今回のバブルは7社に集中している。これら7社はS&P500種指数の37%、約4割を支配している。つまり、もしこれらの企業が破綻すれば、あらゆるインデックスファンド、年金基金、さらには個人の退職金口座なども苦境に陥るだろう。
ドットコム・ブームの時代は四つの企業( シスコシステムズ(CSCO) 、EMC、 オラクル(ORCL) 、サン・マイクロシステムズ)が市場を支配していたが、市場の20%を超えることはなかった。マグニフィセント・セブンはそのほぼ2倍を支配している。7社への集中は1929年以降、市場が学んできた分散化の原則に反している。
マグニフィセント・セブンの全てが最近のピークから二桁の調整局面に入っている
マイクロソフト(日足)
リアル・インベストメント・アドバイスの3月21日のコラム記事「CDX: Credit Spreads Are Flashing A Warning(CDX:警告を発しているクレジット・スプレッド)」は、クレジット・スプレッド市場が9カ月ぶりの高値を記録しており、金融市場の変調に対する警告を発していることを取り上げている。
S&P500の年間変化率と、ムーディーズのBaa格付け社債指数(投資適格)と米国10年国債利回りのスプレッドとの関係
S&P500が最高値から5%以内の水準にある一方、CDXスプレッドが9カ月ぶりの高値を記録
画像上段のパネルは2007年以降のS&P500の推移を示している。中段のパネルはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のCDX指数を示している。
下段のパネルは、それらのスプレッドが189バーのレンジに対してどの位置にあるかを示しており、これは実質的に、直近の推移と比較してどれほど高水準にあるかをパーセンタイル値で表したものである(赤いマーカーは、S&P500が最高値から5%以内の水準にある際に、CDXスプレッドが9カ月ぶりの高値を記録したケースを示している。)
その理由は、信用が経済の生命線だからである。企業は事業運営のために資金を借り入れ、消費者は消費のために資金を借り入れる。
そのため、借入コスト、特に貸し手がリスクの高い借り手に融資を行う際に要求するプレミアムが上昇すると、経済がストレスにさらされていることを示すシグナルとなる。この「ストレス」は、将来の収益予測に直接影響を与え、企業価値の再評価の可能性を高める。
ジャンク債と米国債の利回り差は、このダイナミクスを最も明確に表している。デフォルトリスクの高い高利回り債を購入する投資家は、米国債の無リスク金利を上回るプレミアムを要求するはずだ。このプレミアムが縮小すると、投資家は投機に抵抗がなく、リスクに見合った十分な報酬を求めずに利回りを追求していることを示している。
一方、プレミアムが拡大すると、市場のムードは変化している。
重要なのはCDXの絶対値ではなく、その推移の方向性と変化率だ。信用不安は最初から完全な形で現れるのではなく、徐々に蓄積されていく。
戦争の裏でプライベート・クレジットの崩壊が始まっている。
【これは、プライベート・クレジット市場における信頼崩壊の序章である。
市場が過度に肥大化し、過密状態となり、流動性の低いローンを、拡大に耐えうるほど安定していると感じられる商品に組み込めるという考えに過度に依存していたことから、機関投資家が早期に撤退し始めているように見える。その安定性は、常に、評価の遅れ、限られた流動性、そして投資家の寛容さによって部分的に作り出されていたものだ。償還請求が増加し、銀行がエクスポージャーの削減を始めると、その幻想は崩れ始める。
重要なのはその連鎖の順序だ。
まず、投資家が撤退を望む。
次に、ファンドが償還を制限または配分する。
その後、資金提供者がより保守的になる。
続いて、評価額に圧力がかかる。
さらに、借り手にとって借り換えが難しくなる。
そして、デフォルトや債務再編が増加する。
最後に、誰もが「安全な利回り」を謳う商品が、宣伝されていたよりもはるかに大きな流動性リスクと評価リスクを抱えていたことに、驚愕の表情を浮かべる。
私が思うに、まさにそのような展開が始まりつつある。
最も重要な点は、民間クレジット市場が、公的市場であればより迅速に再評価されていたはずのリスクの「隠れ家」となってしまったことだ。その魅力は明らかだった。より高い利回り、より安定した純資産価値(NAV)、日々のボラティリティの低さ、そしてストーリーに対するより大きなコントロール権。しかし、評価が安定しているからといって、現実が安定しているわけではない。それは単に、現実と向き合うことを先送りしているに過ぎない。
では、もしこれが事実だとすれば、JPモルガンは何をしているのだろうか?
名目価値と実現可能価値のギャップがさらに広がる前に、自らを守っているのだ。
これは、本格的なシステミック・クラッシュが差し迫っているという意味ではない。担保の質、リファイナンスのストレス、セカンダリー市場の流動性について最も明確な見通しを持っている人々が、もはや同じエクスポージャーを望んでいないことを意味する。これはノイズではなく、早期の警告である。
私の実際の見方は極めて単純だ。
プライベート・クレジットは、寵児としての地位から、不信感の初期段階へと移行しつつある。
まだ完全なパニック状態ではない。
かといって、無邪気な楽観状態でもない。
市場は、多くの「安定した収益」が、実際には「リアルタイムで正直な価格付けを誰も強いられていなかった、流動性の低いクレジット」であったことに気づき始めている】
出所:SightBringer
3月25日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
3月25日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、紙田智弘さん(楽天証券 外国株式事業部)をゲストにお招きして、「トランプは土曜日に吠えて、月曜日にTACOる?」「米国株の物色対象に変化が…」「個人投資家の動向」というテーマで、紙田さんと話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。
ラジオNIKKEIの番組ホームページ から出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。
3月25日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
(石原 順)

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