中東情勢の緊迫化や原油高、AIショックへの懸念から、これまで快進撃を続けてきたインド株が調整局面を迎えています。SENSEX指数は年初の高値から約13%下落し、上昇トレンドの終焉を不安視する声も出ています。
さえないパフォーマンスのインド株
2026年2月28日に米国とイスラエルがイランに対する軍事行動を起こしてから、まもなく1カ月がたとうとしています。今週に入り、米国とイランとの停戦交渉に向けた期待も高まっていますが、先行きの不透明感は根強く、国内外の株式市場は現在もなお中東情勢の動向に振り回される展開が続いています。
<図1>国内外主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年3月25日時点)
図1は、昨年(2025年末)を100とした国内外の主要株価指数のパフォーマンス比較ですが、昨年末比でマイナスに沈む株価指数が多い中、日本株(日経平均株価と東証株価指数[TOPIX])は上げ下げの振れ幅が大きい中でもプラス圏を維持しています。
反対に、さえないパフォーマンスとなっているのが、インドのSENSEX(センセックス)指数です。
これまでのインド株といえば、直近10年間におけるセンセックス指数の年間騰落率が平均で12%を超えるなどの強い上昇を見せているほか、新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)がスタートした2024年の序盤では、インド株関連の投資信託が楽天証券内の買い付けランキングの上位に顔を出すなど、個人投資家の間でも人気の高い投資先となっていました。
それだけに、2026年の年初につけた高値(1月2日の8万5,762p)から約13%の下落を見せている足元のセンセックス指数の値動きは、「これまでの上昇トレンドが終わってしまったのか?」という不安が脳裏をよぎります。果たして、現在のインド株は一時的な押し目なのか、それとも中長期的な下落の始まりなのかが気になるところです。
インド株が売られている背景
では、なぜインド株が売られているのでしょうか。その大きな理由として、「地政学リスクと原油高」「割高なバリュエーション」「インド経済の構造的な懸念」の3点が挙げられます。
まず、「最初の地政学リスクと原油高」ですが、インドは原油消費量の約8割を輸入に頼っているとされています。
原油価格の上昇によって、輸入コストの増大やインフレ懸念を想起させ、インド準備銀行(RBI)による利下げ期待を後退させて、株式市場から資金を流出させるトリガーとなりました。ただ、これについては、インド株だけに限らず、他の株式市場についても下落要因となっています。
次に見ていくのが、「高すぎる期待値(バリュエーション)」の調整です。
<図2>国内外主要株価指数の動き(2000年初めを100)
図2は2000年あたまを100とした国内外の主要株価指数のパフォーマンス比較です。
先ほどの図1ではインド株のさえない動きが目立っていましたが、長期的に見ていくと、インド株は圧倒的なパフォーマンスを見せていることが分かります。
高い経済成長率が続くインド経済への期待が長期間にわたって株価を押し上げてきた格好ですが、それに伴い、株価収益率(PER)などの面で他国の株価指数と比べた割高感も意識されてきました。
これまでは「成長率が高ければ、高PERも許容できる」状況でした。しかし、足元の地政学的リスクの影響によって、先行き不透明感が強まってきたことや、企業決算において、一部のITサービスや消費関連のインド企業の業績の伸び悩みの兆候が出始めています。
その結果、人工知能(AI)の普及がインドの基幹産業であるITアウトソーシングのビジネスモデルを脅かすという「AIショック」への懸念がテック株の下落を招いています。
さらに、経済指標面でも、インドの1月鉱工業生産指数(IIP)が前年比4.8%上昇と市場予想(6.0%上昇)を下回ったほか、前月(7.8%上昇)からも大幅に減速し、製造業や電力部門の停滞が、実体経済の冷え込みとして意識され始めています。
そして、三つ目の理由が「インド経済の構造的な懸念」です。
インド経済は国内総生産(GDP)などの経済指標が示す通り、高い経済成長を続けていますが、その一方で、構造的な課題も抱えています。
【消費の二極化】
都市部の上位層による消費(高級車や高級住宅)は堅調ですが、中間層から下位層、特に農村部の消費成長が予想より遅れており、中間層の育成が課題となっています。
【コーポレート・ガバナンスへの懸念】
インドでは過去数年、インドの巨大コンポジット(複合企業)における関連当事者間の不透明な取引や、会計基準に対する疑念が何度か表面化し、海外投資家がインド株を売るという状況が散発しています。
これに伴い、インドの規制当局が企業ガバナンスの強化に乗り出していますが、これが短期的には「コンプライアンス・コストの増大」や「過去の慣習の是正」を招き、企業の機動的な動きを制約している側面があります。
【雇用と製造業のミスマッチ】
ここ数年のインドのGDP成長率は7%前後と高いものの、その多くは資本集約的なインフラ投資やサービス業によるものです。労働集約的な製造業が十分に育っておらず、若年層の失業率が高いまま推移しています。
【政策・予算に対する市場の失望】
2026年2月に発表された予算案では、家計への税制優遇などはあったものの、市場が期待していた「資本利益率(キャピタルゲイン税)のさらなる緩和」や「抜本的な投資呼び込み策」が不十分と判断され、予算発表当日のセンセックス指数が大きく下落する場面がありました。
そのため、インドは今後もこれらの課題を解決させていく必要があり、進捗(しんちょく)の状況によっては、もうしばらくインド株の低迷が続いたり、これまでのような急成長ペースを保つのが難しくなるかもしれません。ただ、圧倒的な人口ボーナスと、巨額のインフラ投資の余地が多くあることを踏まえれば、インドの高成長がしばらく続く可能性は高いといえます。
インド株は買いのチャンスか?
これらを踏まえ、「今のインド株は買い場なのか?」について状況を整理していきます。
まずは足元の株価下落によって、株価水準や割高感の修正がどこまで進んだのかについてチェックします。
まずは株価水準から捉えていきます。
<図3>ニフティ50指数(日足)の動き(2026年3月25日時点)
図3は、ニフティ50指数の日足チャートですが、直近の株価は1月2日の高値(2万6,340p)から、調整局面入りとされる10%安の水準(2万3,706p)よりも下に位置しているほか、200日移動平均線から見ても、かなり下方へ乖離(かいり)しており、「そろそろ下げ止まりそう」な状況となっています。
ただ、図を過去にさかのぼって見ると、2024年9月からの下落トレンドでは、株価が200日移動平均線を下回って以降、振れ幅の大きい展開がしばらく続いていたため、仮に、今買いを入れるにしても、「打診買い」程度にとどめたり、現在下向きの移動平均線が上向きに転じるまで待ったりするというのが無難かもしれません。
続いて、割高感がどこまで修正されたのかについても見ていきます。
<図4>ニフティ50指数(週足)と長期PER(CAPEレシオ)の推移
図4は、ニフティ50指数の週足の動きと、「CAPEレシオ(インフレ率を調整した長期的な純利益で計算したPER。
直近のCAPEレシオは35倍を超えるところから31.21倍まで低下していますが、ここ数年の動きを見ると、このCAPEレシオが30倍前後までが修正完了の目安です。修正完了後は再び騰勢を強める傾向があることが分かり、割高感の修正という視点では、そろそろ買い場を探る状況に差し掛かりつつあるといえそうです。
もちろん、短期的には、依然として不透明な地政学的情勢や、それに伴う原油価格の動向などに左右される展開が続くと思われ、「割り切って荒い値動きについていく」というのも投資戦略としてはアリですが、難易度は高そうです。
その一方で、中長期のスタンスで徐々に買っていくのであれば、買った後に急落する場面があったとしても、優良銘柄を適正価格(あるいは割安)で買い増しできる好機と捉えることが可能になります。
インド株投資の注意点
最後に、インド株投資を行う際に、注意しておきたい点についても整理していきます。
まずは代表的な指数の違いです。個人投資家がインド企業の個別株を取引するのはハードルが高く、基本的にはインドの株価指数を対象とする上場投資信託(ETF)や投資信託などで取引することになりますが、多くの場合、対象となる株価指数は、先ほども紹介した「センセックス指数」、もしくは「ニフティ50」となります。
【センセックス指数】
ボンベイ証券取引所(BSE)に上場する30銘柄で構成される株価指数(2026年3月26日現在)で、歴史が古い。
【ニフティ50】
ナショナル証券取引所(NSE)に上場する50銘柄で構成される株価指数。NSEはBSEよりも取引量が多く、投資信託やETFの多くはこのニフティ50指数に連動するものが多い。
なお、センセックス指数を構成する30銘柄のほとんどがニフティ50の構成銘柄でもあり、正直、この二つの株価指数の間に大きな違いはありません。
<図5>センセックス指数とニフティ50のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2026年3月25日時点)
実際に、図5の2024年末を100とした、センセックス指数とニフティ50のパフォーマンス比較のチャートを見ても、ほぼ同じ値動きをたどっていることが確認できます。
また、インド株投資には為替リスクも伴います。株価が上がっても、対円でインドルピーが安くなれば、円建てのリターンは減少します。インドはインフレ率が日本より高いため、長期的には通貨安圧力がかかりやすくなっています。
また、インドをはじめとする新興国の株式市場は、高い成長力が期待できる半面、株価の値動きが極端になるなどの急変が起きやすい点にも注意が必要です。
従って、資産を集中して投じるのではなく、ポートフォリオの5~10%程度を目安に、積み立て投資(ドルコスト平均法)で時間を分散するのが、基本的な投資スタイルになります。
(土信田 雅之)

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