約1年ぶりに香港を訪れました。街角を歩きながら感じたのは強まる「中国色」です。

特に、電気自動車大手BYDの存在感の高まりは印象的でした。香港経済と中国経済はどのように結びつき、香港は「一国二制度」の期限である2047年に向けてどう変わっていくのでしょうか。


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「中国色」強まる香港の現場を歩く。「東方の真珠」はどこへ向かうのか?
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1年ぶりに訪れた香港で感じた「中国色」

 香港の地を約1年ぶりに訪れました。香港は1997年に英国から中国に返還され、特別行政区として、「一国二制度」(中国本土は社会主義、香港は資本主義制度)を採用し、歩みを続けてきました。アジア有数の国際金融センター、ビジネスハブとして、国際経済都市としての存在感を示してきたといえるでしょう。


 一方、2020年に香港版「国家安全維持法」が施行され、民主主義を追求する活動や言論が急激にそがれるようになりました。議会、メディア、教育、書店、市民社会など、多くの分野・業界がその影響を受けてきました。


「自由なき資本主義」社会として「衣替え」した香港はこれからどんな道をたどっていくのか。日本の企業や投資家にとっても、ひとごととはいえないイシューが横たわっていると私は認識しています。


 そんな中、香港の至る所で実感したのが、強まる「中国色」です。


 例えば、中国本土で「普通語」として話されるマンダリンの普及度です。タクシーの運転手や店主たちが、広東語ではなく普通語のラジオやテレビに聞き入っていた光景は印象的でした。また、中国企業の進出具合が以前にも増して強まっていると感じました。


 特に目に付いたのが中国電気自動車大手BYDの車体が街のいたる所で走っていたこと。1年前にはここまで多くのBYDを見かけることはありませんでした。


 それもそのはず。香港における2025年の電気自動車の販売台数を調べてみると、BYDがテスラ(9,193台)を上回り初めてトップに躍り出ています(9,751台)。また、香港で走る赤色のタクシーは長年トヨタが独占してきましたが、最近ではBYD車も参入するようになっています。


 香港経済社会における「中国」の影響力と存在感が、特に2020年以降、着実に高まっている現在地を示していると、街角を歩きながら感じました。


「中国色」強まる香港の現場を歩く。「東方の真珠」はどこへ向かうのか?
BYDの店舗(著者撮影)

香港経済の現状と中国経済とのリンケージ

 中国色が強まる香港ですが、経済状況がどうなっているかを確認してみましょう。2025年の主要経済統計を2024年と比較して整理します。


  2025年 2024年 GDP実質成長率(前年比) 3.5% 2.6% 固定資本形成(前年比) 4.5% 2.4% 民間消費支出(前年比) 1.6% ▲0.2% モノの輸出(前年比) 12% 4.7% 訪問客数 4,990万人 4,450万人 香港政府の発表を元に筆者作成。▲はマイナス

 経済成長率、設備投資をはじめとする固定資本形成、民間における個人消費、対外輸出を含め、昨年の数値がおととしを上回っている経緯が見て取れます。また、中国のAI関連株への投資が盛り上がり、香港ハンセン株価指数は2025年通年で約3割上昇したのも、景気回復に一定程度寄与したといえるでしょう。


 特筆すべきは、香港への訪問客数です。2025年は2024年に比べて約500万人増えています。

人口750万人の香港に、5,000万人近くが1年の間に訪れるというのはとんでもない数字といえるでしょう。2025年、人口約1億2,000万人の日本を訪れた外国人は初めて4,000万人を突破し、過去最多の約4,270万人となりました。それでも、香港の数には及ばないというのが実態です。


 そして、香港経済社会における「中国色」を理解する上でカギを握るのが、訪問者数に占める中国人の割合です。昨年、香港を訪れた約4,990万人のうち、約3,783万人、すなわち76%が中国本土からです。


 中国本土と香港は陸続きでつながっており、観光、就学、就業などあらゆる分野でヒト、モノ、カネ、情報の往来が緊密ですから、想像に難くありませんが、香港の実体経済、そして株式市場を含め、「中国次第」という要素が高まっていく傾向は不可逆的であると思われます。


 香港経済と中国経済のリンケージ、相互作用を示す実例の一つが、近年懸念される中国のデフレスパイラルの影響です。


 デフレの影響が深刻化すれば、中国本土からやって来る訪問者の懐具合に影響し、香港で落とすお金にも制限がかかるでしょう。逆に、デフレの影響を受けて、香港と比べて中国本土が「割安」になれば、香港人は週末などに高速鉄道や地下鉄に乗って隣接する深圳市へと向かい、そこで消費をするから、結果的に香港にお金が落ちなくなる。


 そのような相互作用が一種の悪循環を生み、香港経済にとっての景気下振れリスクと化すということです。


 実際、近年、香港住民が物価の安い中国本土側で買い物をする「北上消費」が進行し、香港における個人消費が低迷するという事態が起きてきました。表に示されるように、民間消費支出は2024年のマイナス成長から2025年は1.6%増とやや回復していますが、今後の動向に注目していきたいと思います。


香港はどこへ向かうのか?

 中国で「改革開放の総設計師」と呼ばれ、香港返還を巡り英国のサッチャー首相と交渉を繰り広げた鄧小平(トンシャオピン)氏は、「50年不変」という方針を語っていました。要するに、返還後の50年間、すなわち2047年まで、香港では社会主義を採用する中国本土とは異なり、資本主義制度を採用し続ける(一国二制度)ことを容認するというスタンスです。


 実際、香港における資本市場の位置づけと開放度、税制、言語(広東語、英語、普通語がダイナミックに共存)、労働市場における多様性と国際性などは中国本土とは質的に異なります。米ドルと香港ドルがペッグされているのも、香港経済を巡る顕著な特徴だとも言えます。


 さらに、香港では英国植民地時代からのコモンロー(普通法)が採用されており、こちらも中国本土とは異なる。


 このように、香港では、金融センター、ビジネスハブとしての機能を支える制度的優位性が依然として存続していると言えます。日本の企業や投資家としても、香港を一つのビジネス拠点、投資の窓口に据える動機、背景になっているとも言えるでしょう。


 マーケットという観点からすれば、香港は中国や競争相手であるシンガポールとは異なり(中国に近いという意味を含め)、そして言語、税制、多様性、地理といった観点から、日本とも異なります。


 2020年を境に、政治的には「新常態」に入ったものの、経済・ビジネスという分野では依然として制度的優位性を残し、「中国色」を強めながらも独自の道を歩む香港。そんな香港をどう見つめ、生かしていくのか。日本としても、日本人としても、これまで以上に真剣に、香港との付き合い方に向き合うべきだと、今回の香港再訪を通じて改めて思いました。


(加藤 嘉一)

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