日本と同じく四周を海で囲まれた島国のイギリスは、2度の世界大戦ともドイツ軍の潜水艦によって海運が滞った経験を持っています。その影響は兵士の食べ物にも。

ゆえにベーコンエッグが特別な意味を持つようになったそうです。

ベーコンエッグが大戦中に貴重になったワケ

 いまでは日本でも朝の定番メニューになりつつあるベーコンエッグ、好きな方もけっこういらっしゃるかもしれません。「イングリッシュ・ブレイクファースト」の名で知られるイギリスの朝食でも、ベーコンエッグは卵料理の定番メニューですが、同国では第2次世界大戦時、これをパイロットに対して出した場合、特別な意味がありました。

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第2次世界大戦中の1942年10月、アブロ「ランカスター」爆撃機の前を一列に並んで歩くイギリス空軍第106飛行中隊のクルー(画像:帝国戦争博物館/IWM)。

 そもそもイギリスは、20世紀初頭に起きた第1次世界大戦において、敵対するドイツのUボート(潜水艦)による海上輸送路の封鎖を仕掛けられたことで、外国からの食糧輸入が困難になり、厳しい食糧難を経験しました。

そのためイギリスは、1939(昭和14)年9月に第2次世界大戦が勃発すると、翌1940(昭和15)年には食糧の国家統制、すなわち配給に入ります。第1次世界大戦の時と同様に、敵対するドイツが再びUボートなどによる通商破壊戦を始めたからです。

 とうぜん国内の食糧生産は拡張されたものの、それでも卵や食肉用豚の増産は限界に達し、イギリス人にとって伝統的なポピュラーメニューのひとつだったベーコンエッグも、そう簡単には食べられなくなってしまいました。

食べられるのは航空機クルーだけ 命がけの戦闘の代名詞

 ところがイギリス空軍では、これから命がけの出撃をする航空機クルーのために、特別メニューとして、入手難の新鮮な殻付き卵とベーコンを使ったベーコンエッグを供します。あるいは、命からがらの空の死闘から無事に生還した航空機クルーのためにふるまうこともしたそう。いずれにしろ、命がけの代償は、入手難でなかなか食べられる機会がなくなっていたかつてのポピュラーメニュー、ベーコンエッグなのでした。

 それは映画にも描かれています。

第2次世界大戦中の実話をもとに作られた、イギリス空軍爆撃機部隊の活躍を描いた映画『The Dam Busters(邦題:暁の出撃)』では、士官食堂(オフィサーズ・メス)で働くイギリス空軍の女性補助部隊員が、席に着いた第617飛行中隊のギブソン中佐(主人公)に次のように尋ねるシーンがあります。

「今夜、出撃ですか?」。

 大戦中の慣習を知らないと、なぜ彼女がこの質問を主人公にしたのかわからないでしょうが、実はこのシーン、頷く彼の食卓にはベーコンエッグが配膳されます。これこそ、前出の命がけの出撃の前の一皿なのです。件の女性補助部隊員は、主人公に質問することでどの食べ物を出せばよいのかを確認したのでした。

ベーコンエッグと空の戦いの深~い関係 イギリス空軍での第2次大戦時の習わしとは

1943年2月、出撃から無事帰還し、食堂でベーコンエッグを食べるイギリス空軍第57飛行中隊のアブロ「ランカスター」爆撃機のクルー(画像:帝国戦争博物館/IWM)。

 ちなみに、日本ではフライパンで先にベーコンを焼いて豚脂を染み出させ、そのベーコンの上に卵を落として「ベーコンを敷いた目玉焼」にしたベーコンエッグも見受けられますが、イギリスでは、まずベーコンだけ焼いて豚脂を染み出させると、一旦ベーコンを取り出し豚脂だけで卵を焼き、ひとつの皿にベーコンと目玉焼を別々に盛り付けるスタイルのベーコンエッグが主流とのこと。

 そのため、ベーコンと卵がつながったベーコンエッグを想像していると、実はイギリスの航空機クルーが食べていたものとはスタイルが異なります。

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