2020年現在、陸上自衛隊で現役の戦車は74式、90式、10式の3種類あります。このなかで、砲塔に大きな「箱」が設置されているのが74式戦車です。
陸上自衛隊の現用戦車のなかで最も古い74式戦車には、90式戦車や10式戦車にはない装備が多々見受けられます。それらのなかで最も目立つのは、砲塔前面、戦車砲の脇に設置された大きな「箱」ではないでしょうか。
しかも、74式戦車の映像や写真をよく見ると、車体によって、この箱を装備するものと装備しないものの両方が存在することがわかります。箱の役割について、自衛隊に詳しい人に聞いてみました。
74式戦車の砲塔向かって右側にある大きな箱状のものが投光器(乗りものニュース編集部撮影)。
この箱は「投光器」すなわちライトとのこと。例年、陸上自衛隊が実施している富士総合火力演習では、夜間演習において74式戦車のライトで的を照らして射撃する様子が披露されているそうです。
また、この投光器は内部に赤外線フィルターがあり、白色光と赤外線の切り替えも可能だといいます。
とはいえ、数km先の目標を照らせるほどなので、その光量は凄まじく、すぐ近くで光を浴びると露出部の肌が火傷してしまうとのこと。なお、戦車部隊では教育の際に、白色投光の実施中は絶対に投光部を直視しないよう厳重に指導されるそうです。
74式戦車とともに消えゆく旧式の暗視装置赤外線は非可視光、すなわち目に見えない光のため、夜間戦闘などの際に用いるものといいます。
このような赤外線を照射する暗視装置は「アクティブ式」と呼ばれ、第2次世界大戦末期から1960年代後半までの戦車で用いられたそうです。しかし、この方式はあくまでも敵が同じような赤外線暗視装置を持っていないことが前提で、もし仮に敵もアクティブ式の暗視装置を持っていた場合、敵は赤外線を照射せずに、こちらの照射位置を認識できてしまうといいます。
このような欠点から、アクティブ式の赤外線暗視装置に代わって主流になったのが、エンジン排熱や人体の体温など、目標が発する僅かな赤外線を増幅して映像化する赤外線暗視装置です。このタイプは自ら赤外線を照射するわけではないため、「パッシブ式」と呼ばれるそうです。

架台にあるボルトを緩めることで投光器を前後左右に動かし、照射位置の調整が可能(乗りものニュース編集部撮影)。
ほかにも、星や月などの微かな明かりを増幅して映像化する「スターライトスコープ」と呼ばれる微光増幅式の暗視装置も登場したことで、90式戦車や10式戦車などでは74式戦車のような大型の投光器は装備しなくなったとのこと。よって、74式戦車が全車退役すると、このようなアクティブ式の暗視装置は陸上自衛隊の戦闘車両から姿を消すだろうと説明してくれました。
なお、74式戦車でも全車がこのような大型の投光器を装備しないのは、前述のとおり、数両の内の1両が赤外線を投光すれば、その反射でほかの車両も目標を捉えられるからだとのこと。そのため砲塔に投光器を装備していない車両でも、受像部は搭載しているそうです。