飛行場や自衛隊の航空基地には、1万Lもの水槽を有する大型の救難消防車が配備されています。どのような車両で、どのような場面を想定しているのか、航空自衛隊入間基地で詳細を聞いてきました。
飛行機やヘリコプターは、空を飛ぶために大出力のエンジンを搭載し、自動車などとは比べ物にならないほど多量の燃料を搭載しています。そのため、ひとたび炎上し始めると大惨事になりかねません。そのような航空機火災に対処すべく、日本各地の空港のほとんどには専用の消防車が配備されています。
それは自衛隊の飛行場も同じことです。自衛隊ではいったいどのような消防車が運用されているのか、航空自衛隊入間基地の航空機火災用消防車を取材してきました。
航空自衛隊入間基地に配備されている「ストライカー」。正式名称は大型破壊機救難消防車、通称A-MB-3という(2020年9月、柘植優介撮影)。
入間基地で消防車を運用するのは、中部航空警戒管制団基地業務群施設隊消防小隊という部隊です。この部隊には各種の消防車が配備されており、そのなかでも航空機火災に対応可能な車両が「救難消防車」と呼ばれるものです。
航空機火災の場合、炎上する航空機内に人員が取り残されるケースも想定されるため、消火はもちろん、人命救助のために1秒でも早く火災現場に駆け付ける速達性が必須です。そのため圧倒的な加速性、継続して消火活動が可能な大容量の水と薬剤の積載、耐熱性に優れたボディという3拍子がそろっているのが特徴。とくに入間基地は輸送機を始めとした大型機が多数配備されていることから、戦車に匹敵するほどの大きなボディと大排気量のエンジンを兼ね備えた「ストライカー」という外国製の消防車両が配備されています。
「ストライカー」消防車は、アメリカのオシュコシュ社が開発した6輪駆動の救難消防車です。全長約12m、全幅約3.1m、全高約3.7mあり、総重量は約31tあります。陸上自衛隊の74式戦車が全長9.41m、全幅3.18m、全高2.25m、重量38tのため、車体サイズだけなら上回っていることがわかります。
この大きなボディに水1万500リットル、消火薬液880リットル(重量920kg)を搭載しており、水や消火薬液を噴射するためのターレット(放水銃)を屋根上と車体前面バンパーに1基ずつ計2つ備えています。なお前者のターレットは放水距離が約90m、後者は約45mという話でした。
このほか車体側面には、左右それぞれ「ハンドライン」と呼ばれるホースを備えています。これは火災現場に到着したのち、車両から下車した防護服着用の隊員が手で操作しながら扱うものです。

タイヤやボディなど車体下部を炎や熱から守るために装備する水噴霧装置を作動させたところ(2020年9月、柘植優介撮影)。
「ストライカー」消防車を取材するなかで不思議に感じたのが、運転席が真ん中にあること。なぜこのような配置になっているのか消防小隊の隊員に聞いたところ、この方がハンドラインを操る隊員がキャビンから左右に迅速に下車できるからとのことでした。
運転席に乗せてもらいハンドルを握ってみると、その感覚はとても新鮮。乗用車を含む一般的な自動車は右ハンドルもしくは左ハンドルのため、「中央ハンドル」での運転は慣れないと難しそうですが、ガラス面が多く視界は非常に良好なため、火災現場で運転しながらターレットを操作するには、この配置の方がやりやすいのかもしれません。
今回は車両の屋根に上がらせてもらいました。車両後部にあるラダーから上がってみると、上部にはエンジンの排気口や内蔵タンク用の給水口、薬液タンクの上蓋等が並んでいました。車体上面の一番前には放水用のターレットがあるものの、その傍らに、下から見たら気づかなかった操作盤がありました。
ターレットは車内から操作できるのに、なぜ屋根の上にも操作盤があるのか、隊員に聞いてみると、万一、何らかの不具合で車内からターレットを操れなくなった際、ここで直接操作するためのものだそうです。このようなバックアップ設備が備わっているのも、初めて知りました。

車体右側面のシャッターを開けたところ。中央に見える水色の筒には粉末消火薬剤が入っており、向かって右にある黒いホースで噴射する(2020年9月、柘植優介撮影)。
入間基地では、幸いにして航空機の炎上事故は近年、起きていないものの、油断は禁物です。そのために毎年、基地の一角で実際に炎を燃やして消火を行う「ピットファイヤー訓練」を実施しています。
飛行機の運航というと、パイロットや管制官、整備員などに目が行きがちですが、消防小隊のようなサポートがあってこそというのを改めて認識することができました。
【動画】圧巻の放水シーン! 超ビッグな「ストライカー」消防車