アメリカ海兵隊の最新攻撃ヘリコプターAH-1Z「ヴァイパー」。同機は今から半世紀以上前に初飛行した世界初の量産型攻撃ヘリコプターAH-1Gが原型といわれるものの、その9割以上が新規開発です。
2020年10月、アメリカ海兵隊は攻撃ヘリコプターについて、AH-1W「スーパーコブラ」からAH-1Z「ヴァイパー」への更新を完了しました。これらAH-1攻撃ヘリシリーズの原型は、1967(昭和42)年にアメリカ陸軍に引き渡された世界初の量産型攻撃ヘリコプターAH-1G「コブラ」です。
アメリカ海兵隊が運用するAH-1Z「ヴァイパー」。右奥に駐機するのは前のタイプであるAH-1W「スーパーコブラ」。両者は回転翼の枚数が異なる(画像:アメリカ海兵隊)。
しかしAH-1Z「ヴァイパー」は、AH-1シリーズとはいえ、ほぼ新規開発といえるほどの機体です。外見は従来のAH-1W「スーパーコブラ」によく似ているものの、95%はほぼ新造です。
まずAH-1WとAH-1Zを見比べて一目瞭然なのが、機体上部の回転翼(ローター)の形状です。前者は2枚のシーソーローターですが、後者は折り畳み式の4枚ローターです。シーソーローターは整備面、コスト面で非常に有利ですが、4枚ローターと比べるとマイナスGに対して弱いという欠点を有しています。
対して4枚ローターは構造が複雑になり、部品点数も多くなるため、整備面やコスト面では2枚ローターに負けますが、AH-1Zの4枚ローターは無関節構造を採り入れることで、一般的な全関節式の4枚ローターと比べてパーツ点数を抑え、高い応答性を確保しています。
少ない部品点数などから軽くなったことで、AH-1ZはAH-1Wよりも機動性が上がっているほか、さらに4枚ローターやトランスミッションなどの改良により、AH-1Wと比較してエンジンの性能を活かせるようになったため、胴体の側面に付いているスタブウイングと呼ばれる武装搭載用の小翼を大型化しており、兵装搭載能力も向上しています。これによりAGM-114「ヘルファイア」ミサイルの搭載数が8本から16本に増えています。
ほかにも、機体最後部にある小さな回転翼、いわゆるテールローターの取り付け位置を正面からみて左から右に変更しています。

2012年5月、ヨルダンのAH-1F(左手前)とともに飛ぶアメリカ海兵隊のAH-1W(右奥)。前者は基本的に陸上自衛隊が使用するAH-1S「コブラ」と同じ機体(画像:アメリカ海兵隊)。
エンジンの更新、回転翼の構造一新、スタブウイングなど機体形状の変更まで行っているからこそ前述したように95%も新造なのですが、それならばあえてAH-1シリーズと謳わず、新型機として型式も新たに付与すればよさそうです。
なぜ新規開発とせず、「AH-1WからAH-1Zへ改修」と謳ったのでしょう。アメリカ会計検査院の報告書によると、議会もAH-1Wの能力不足は認識していたようです。にもかかわらず、改修としたのには、次のような理由が考えられます。
「これは改修です」95%も違うのに新規開発と言わないワケ新規開発の場合、仕様書を作ってメーカーを募りトライアルとコンペを行わなければなりません。しかも開発されたものが海兵隊の運用に適したヘリコプターに仕上がる確証はなく、最悪、開発中止になってしまう可能性もあります。
しかし「改修」であれば、AH-1シリーズの開発元であるベルと契約し、開発を任せることができるほか、海兵隊の要求も伝えやすくなります。

AH-1Z「ヴァイパー」とAH-1W「スーパーコブラ」の比較写真。上がZ、下がW。メインローターやテールローター以外にも機首のセンサーなど相違点がある(画像:アメリカ海兵隊)。
似たような例は、最新の大型輸送ヘリコプターCH-53シリーズにもあります。アメリカ海兵隊はCH-53E「スーパースタリオン」の後継としてCH-53K「キングスタリオン」を開発しました。CH-53Kは型式などから判断すると既存のCH-53Eの改良型のように感じますが、フレーム含めて一から設計された新造機です。これもまた開発期間の短縮とコスト低減のための“方便”のようです。
なお洋上で運用することから、もちろんAH-1Zには塩害対策のコーティングが施されています。このコーティングは陸軍機であるAH-64「アパッチ」にはありません。このような海兵隊特有の仕様が施されていながら整備性は向上しているため、性能を別にして運用コストだけで見ると、アメリカ陸軍のAH-64Eより海兵隊のAH-1Zの方が低く抑えられるようです。