東武鉄道の輸送を支えてきた8000型電車は、登場から60年近くが経過した今でも現役です。一見平凡に見える車両ですが、実はとても基本コンセプトがしっかりした万能車。

長寿の秘訣もそこにありそうです。

基本コンセプトがしっかりした万能車「東武8000型」 見た目は平凡だが…

 間もなく還暦を迎える――そんな鉄道車両が関東地方で現役です。

 それは1963(昭和38)年に登場した通勤形の「東武鉄道8000型電車」です。東京から北関東方面に総延長400km以上の路線網を持つ東武鉄道は、大量の鉄道車両を所有していますが、中でも東武8000型は数多く製造されました。どのような車両でしょうか。

 外見は20mの車体に乗降用扉が片側4つずつ付いた、関東ならどこの鉄道にもあるような平凡なものに見えます。しかし、上述の通り長距離利用の多い東武鉄道では、ロングシートに座り心地の良いゆったりしたものを採用。台車も乗り心地に優れた空気ばね台車を採用しています。さらにからっ風の強い北関東での運用を考慮して、強力な暖房を装備したうえ、長時間停車の際は半数のドアを締め切る機能を搭載するなど、当時から旅客サービスの面で高水準を誇っていました。

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東武8000型電車は、東上線で2008年まで運転されていた特急にも使われた(2006年9月、児山 計撮影)。

 機器の面では、製造価格を抑えるべくモーター車(モーターの付いた車両)の割合を50%に、つまり編成のうち2両に1両が必ずモーター車になるような構成としました。そのため、当時としてはパワーの大きなモーターを搭載しながらも、車体は徹底的に軽くなるように造られました。

 ほかにも当時の技術で最も滑らかに加速できるバーニア制御を採用。途中に一度だけショックが発生しますが、それ以外はたいへん滑らかに加速していきます。

 少ないモーター車でも乗り心地が良く、かつ加速性能に優れた東武8000型は、駅間距離が比較的長い東武鉄道において、普通列車から優等列車までどのような運用もこなせる万能車となりました。

「8000」型なのに数字5桁!? 両数が多く不足した車両番号

 以上のように、設計の段階でコンセプトを明確に打ち出し、東武鉄道の輸送事情にたいへん適したデザインがなされた東武8000型は、1983(昭和58)年までの20年間に712両が製造されました。その結果、車両番号が途中で不足する事態となり、「サハ89116」のように形式は「8000」型ながら数字が5桁になる車両まで登場しました。「サハ89116」は廃車となってしまいましたが、この数字は私鉄の車両番号の中でも最大で、いまだその記録は破られていません。

間もなく還暦 私鉄最多数を誇った「東武8000型」 派生型も従え今なお現役の秘訣は?

番号が不足する「インフレナンバー」の象徴「サハ89116」。現在は廃車済み(2007年3月、児山 計撮影)。

 東武8000型は主力車両として東武鉄道のほぼ全線で活躍しました。通勤輸送のみならず長距離輸送にも抜擢され、東上線では池袋駅から秩父鉄道に直通し、三峰口駅(埼玉県秩父市)までの112.9kmを走破する特急「みつみね」に、伊勢崎・日光線では浅草駅から東武日光駅(栃木県日光市)までの135.5kmを走破する準急にも使われました。

 編成も2両編成から10両編成(現在は野田線の6両編成が最長)まで、偶数編成なら長短自在に組めることから、2020年現在は東上線の一部区間や野田線、亀戸線、大師線のほか、群馬県内のローカル運用で重宝されています。

分割改造 派生の「800型」「850型」 カラーも色々

 登場からすでに50年以上が経過した東武8000型ですが、初期に製造された車両の大半は廃車され、現在も使われているのは比較的後期に製造された車両です。

正面の形状は動態保存として残されている1編成を除き大改造を受けたほか、群馬県内のローカル用として、8両編成の車両から3両編成2本を捻出して組み直した800型や850型など、現在もさまざまなバリエーションを見ることができます。中には先頭車を中間車に改造し、運転台の痕跡が残る車両もあります。

間もなく還暦 私鉄最多数を誇った「東武8000型」 派生型も従え今なお現役の秘訣は?

東京都内でも、亀戸線と大師線で東武8000型を見られる。写真はかつての7800系電車の塗装を復刻した車両(2017年2月、児山 計撮影)。

 塗装もバラエティに富んでおり、青いラインカラーをまとった標準塗装のほかに、東上線・越生線にはデビュー当初のツートンカラーや1974(昭和49)年に登場したセイジクリーム塗装が、さらに2019年までは往年の行楽列車「フライングTOJO」号をイメージした塗装の車両が走っていました。亀戸線や大師線には、かつての7800系電車の塗装を復刻した車両が運用されています。

 一時は712両の大所帯を誇った東武8000型も、現在は200両を切りました。所属する両数が最大の野田線も、10030型電車などの転入で徐々に数を減らしています。また群馬エリアのローカル運用にも、2両編成の10000型電車が転入し始めており、予断を許さない状況となってきました。

 臨時列車を除き、都心まで乗り入れる運用から撤退したとはいえ、野田線では現在も、最高速度100km/hの急行運転をこなすなど往年の健脚は現役です。新型車両には及ばなくても、クッション性の効いた座席や当時としては極めて滑らかな加速など、設計当初の卓越したコンセプト楽しむ目的で、東武8000型に乗ってみるのも楽しいかもしれません。

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