自衛隊でも長年、運用されている輸送ヘリ「チヌーク」は、これまで何度かのアップグレードを実施したものの、米軍では最初期の機体がいまだ現役で飛んでいる例もあるとか。「100年現役」も絵空事ではない背景に迫ります。
2020年は、自衛隊が保有する重輸送ヘリコプターとしてもおなじみのボーイング社製CH-47「チヌーク」にとって、ひとつの区切りとなりえる年でした。2020年8月に第4世代型MH-47G「チヌーク・ブロックII」が、アメリカ陸軍へ引き渡され実働体制に入ったためです。
2020年8月に配備が始まった新型「チヌーク」特殊作戦仕様、MH-47GブロックII。「チヌーク」ファミリーで「最も獰猛」な機体(画像:ボーイング)。
この新しい「チヌーク・ブロックII」は、通常の重輸送機型であるCH-47Fと、敵勢力圏内で活動するために空中給油装置や充実した自己防御装置などを持つ高性能な特殊作戦仕様MH-47Gの2種類があり、アメリカ陸軍では当面、特殊作戦型を優先し配備する予定で、今後の「チヌーク」生産における主力となることが期待されています。
第4世代型「チヌーク・ブロックII」は、既存の「チヌーク」に比べ様々な点において性能向上を実現しました。たとえば最大搭載量は、軽量で強度に優れる再設計された機体構造、より高い揚力を生み出すローターブレードと駆動システム、新エンジンの搭載などによって、現行型の第3世代型CH-47F「チヌーク(ブロックI)」の9tから、10tへと上積みされました。また燃料タンクの配置も見直され効率化が図られたことで、最大搭載量が増えたにも関わらず航続距離は減っていません。
そしてこれらの性能向上に加え何よりも重要である点が、「大して変わっていない」ことです。
「チヌーク」のアップグレードにおいて「変わらないこと」はどう生きてくる?この「大して変わっていない」性能向上は、「チヌーク」というヘリコプターの歴史を語るうえで、無視することのできない要点のひとつであるともいえます。
CH-47Aと呼ばれた最初の「チヌーク」がアメリカ陸軍へ配備されたのは、いま(2021年)からおよそ60年前の1962(昭和37)年8月でした。以降、現在に至るまで大きなアップグレードだけで2回あり、その都度「チヌーク」は文字通り骨だけの状態まで完全に分解され、機体の大部分をリフレッシュ、新しいエンジンや電子機器へ更新した上で、性能向上と同時に寿命を20年延長してきました。

アメリカ陸軍で最古の飛行可能な「チヌーク」だった(当時)、「My Old Lady」「ナンバー261」とも呼ばれた機体。2017年に54年間の勤めを終えた(画像:アメリカ陸軍)。
2021年アメリカ会計年度時点における、同国の「チヌーク」保有数は合計492機。このうち新造されてから一度もアップグレードされていない機体は211機しかありません。つまり過半数の「チヌーク」は最低1回以上のアップグレードが行われていることになります。
信じられないことに、2021年現在、現役の最長老は1963(昭和38)年製の機体です。同機は1964(昭和39)年に第1世代型CH-47Aとして陸軍へ引き渡され、1988(昭和63)年に1回目のアップグレードで第2世代型CH-47Dとなり20年の寿命が追加され、2012(平成24)年に2回目のアップグレードで第3世代型CH-47FブロックIとなり再び20年の寿命が追加されてきました。
第4世代型CH-47F「チヌーク・ブロックII」もこれまでの機体と大差ないのですから、やはり既存機からのアップグレードも可能であり、アメリカでは現在の計画において、少なくとも538機を新造ないし既存機のアップグレードで賄うとしています。
そして「最長老」のような元第1世代型もその中に含まれ、3回目のアップグレードでさらにもう20年の寿命を追加するとなると、最初の寿命20年から+20年、+20年、+20年で合計80年の寿命が与えられる機体が出てくるかもしれません。
ボ社は100年飛ばす気満々 それで日本の「チヌーク」はというと…?ボーイングは、第4世代型「チヌーク」について「2020年時点における世界で最も優秀な重輸送ヘリコプターである」と自信満々に言い切ります。そして同時に第4世代型「チヌーク」は「2060年以降も現役であり続ける」とも。前述のとおり「チヌーク」の配備開始は1962(昭和37)年であり、「チヌーク」が100年選手となることはほぼ確実であると考えてよいでしょう。

航空自衛隊のCH-47J「チヌーク」。この機体は性能向上型であり陸上自衛隊では同型機をCH-47JAとして導入している(画像:航空自衛隊)。
陸上自衛隊および航空自衛隊は、これまで103機の「チヌーク」を購入しました。現在の保有機数は68機で、第2世代型CH-47Dをベースとした初期型CH-47Jと、事実上後継機となっている第2.5世代型相当まで独自性能向上を行ったCH-47JAがあります。CH-47JAは現在も生産中ですが、「大して変わっていない」機体はともかく、生存性にも関わる電子機器などにおいて20世紀レベルの水準であり続けることは問題です。
日本においてもCH-47Jを置き換え中のCH-47JAをさらに置き換える、次の「チヌーク」、恐らく第4世代型「チヌーク」に近い機体への置き換えは、遅かれ早かれいずれ検討されるようになるでしょう。
【動画】空自入間基地全面協力 「チヌーク」を詳細チェック!