「MAX」の相次ぐトラブルなどで少々「出口の見えないトンネル」に入ってしまっている感のあるボーイング737ですが、実は半世紀もシリーズが続く超ベストセラー機です。なおも売れ続ける理由はどこにあるのでしょうか。

「MAX」でザワつく前は屈指の傑作期だった「737」

 ボーイング737といえば、いまでこそ「737MAX」のトラブルなどで少々「出口の見えないトンネル」に入ってしまっている世論などはありますが、そもそもは、泣く子も黙るジェット旅客機のベストセラーとして、半世紀以上にわたり、売れ続けているモデルです。その出自はどのようなものなのでしょうか。

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ボーイング737が並ぶ中部空港(乗りものニュース編集部撮影)。

 日本でジェット旅客機が運航を開始したのは、JAL(日本航空)がダグラスDC-8を就航した1960(昭和35)年でしたが、ジェット旅客機の草創期となると、それより少し前の1950年代です。外国の航空会社では、今は無きパンアメリカン航空などがボーイング707を採用し、イギリスから日本へは、デ・ハビランドDH.106「コメット」が飛来していました。

 これらジェット旅客機の第一世代と呼ばれる機体は、まだジェットエンジンの出力が大きくなく、機体全体の出力を確保するためにエンジンを4基搭載していることが一般的でした。そのため、機体価格も高価なうえ、維持にも非常に手間がかかり、事業規模の大きい、いわゆるナショナル・フラッグ・キャリアしか導入できませんでした。

 導入する路線も、まだ太平洋を横断する航続性能はなく、飛行時間が比較的長いニューヨーク~ロンドン線といった大西洋横断路線などに使用されていました。これらは欧米諸国のドル箱路線でしたが、まだこの頃は航空機の利用者もごく一部のエリートに限られていました。現在と比べて、とてつもなく高い運賃を払える層ということになります。

 第1世代のジェット旅客機が、順調にデビューしていった後、それより小型のいわゆる第2世代のジェット旅客機が登場します。ヨーロッパでは、シュド・カラベル(フランス)、BAC1-11(イギリス)、Tu-134(ソ連)などが欧州域内のジェット化に導入されていました。

対してアメリカでは、ダグラス社がDC-9を開発。そして、ボーイング社が開発したのが、エンジンを3基搭載したボーイング727でした。

 この727は1963(昭和38)年初飛行、翌年にはアメリカのイースタン航空で初めて路線に投入されます。スペック的には、洋上を長距離飛行する路線にも対応できる条件を満たしていましたが、JALでは国内線に使用されていました。ただ、当時はこれもやはり、一定レベル以上のエアラインでなければ運航できませんでした。

ボーイング屈指の大ヒットを737が記録したのはなぜ

 こうして727の姉妹機的な扱いで、ボーイング737の開発へとつながっていくのですが、特徴としてはボーイング707から727に引き継がれた操縦システムも含め、胴体をそのまま使用していること、そしてエンジンを主翼の下に2基取り付けたことなどが挙げられます。

 胴体をそのまま利用することには、多くのメリットがあります。新規に設計する手間を省き、パイロットの育成においても移行をスムースに進めることができるほか、空港運用において既存の設備をそのまま使用できるのです。

迷走どころか屈指の超名機「ボーイング737」 歴史は半世紀 選ばれ続ける理由とは?

ボーイング727。737も同じ胴体設計を引き継いでいる(画像:JAL)。

 また、エンジンを地面近くに配置することにより、現場での実運航において重要な要素となる整備性が増し、機体要素の中でも重量のかさむ物体を重心近くに置けるので、設計上も様々な利点が発生します。一方、727はエンジンが尾部に集まってたのに対し、737は主翼下に設置されていたため、これまでキャビンの後部のみに限られていた騒音と振動の範囲が広くなるといった心配事もありましたが、これらは、4発機ではあるものの同じようなエンジン配置をしていた707の経験から克服しています。

 あまり表立っていませんが、737は設計における大きな主題として、大手エアラインだけでなく、旅客数の伸びに応じてその後増えると予想された新規参入エアラインでも運航できる機体を目指していたのではないか、と筆者(種山雅夫、元航空科学博物館展示部長 学芸員)は考えています。

 もちろん、数多く作れば機体単価は下がってくるのが経済の法則ですが、それ以外にもボーイング社では初となるパイロット2名だけで運航できることや、オプションでエアステア(搭乗口となる格納式の階段)を装備できることなど、737は、その後の歴史を見ても、運航会社のコストに大きな配慮をしていることが伺える旅客機なのです。

 また、707、そして727から受け継がれた737の胴体には、エコノミークラスで通路を挟んで横3×3列の座席配置ができる(たとえばDC-9は3×2列)、メインギアのタイヤ部分の扉を省くことで外気による冷却効果を高め、離着陸の頻度が高くても、ディスクブレーキの冷却が間に合わずブレーキ効果が減衰するといった問題の発生率を下げる……など、実は様々な工夫が見られます。

サッと振り返る「737シリーズ」の変遷

 こうしてボーイング737の初期型は、1968(昭和43)年に運航が開始されます。ライバルとしては、1965(昭和40)年デビューのDC-9や、同じ機体コンセプトを持つフランスのダッソー・メルキュール、ドイツのVFW614などでした。

 737のオリジナルは細長いエンジンを採用した-100型と-200型でしたが、その後、様々な改良型が登場します。1980年代には、より効率の良いターボファン・エンジンを搭載し、2人乗務を実現した種類の機体長を選べる-300、-400、-500型の「737クラシック」が登場します。

 1990年代にはトレンドとなったウィングレット(主翼先端に立ち上がった板。燃費向上などに寄与する)を装着した-600、-700、-800、-900型、さらに767、777のシステムを採り入れた「737NG(ネクスト・ジェネレーション)」と変遷しますが、いずれも胴体の構造は踏襲されました。

 そして、2010年代に入り実用化が進むのが冒頭の「737MAX」です。ここでも胴体設計はほぼそのままながら、「737NG」より効率の良いエンジンの採用や客室インテリアの刷新などが行われています。

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ボーイング737-500。
737シリーズのクラシックにあたる(乗りものニュース編集部撮影)。

 日本では、737-200をANAが採用したことが飛躍の原点で、「737クラシック」はエアーニッポン(ANK)、JALエクスプレス(JEX)、日本トランスオーシャン航空(JTA)などが採用し、日本の津々浦々で就航しました。「737NG」はANAグループ、JALグループとも採用。スカイマーク、ソラシドエアなど後進のエアラインでは主力機で、デビューから半世紀以上が経過してもなお、国内では100機以上が運航されています。ちなみに、MAXを導入しているエアラインは、国内ではまだありません。

 なお、このような歴史を作った737ですが、キック・オフ・カスタマー(初期発注をすることで、新型機の開発の後ろ盾となるエアライン)であるルフトハンザ・ドイツ航空などが運航していた最初のサブタイプである737-100型は、日本では導入のないタイプだったので、是非ともずんぐりむっくりな実機を見てみたかったです。

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