東京五輪の開催期間中、渋滞などで陸上救急が困難になった時に備えて都内初の救急艇が実用化されました。とはいえ運用は東京消防庁などではなく民間団体。
東京オリンピック・パラリンピックの開催を前に、「海の救急車」ともいえる民間救急艇が2021年5月26日(水)、江東区豊洲で披露されました。
公開されたのは公益社団法人モバイル・ホスピタル・インターナショナル(MHI)が整備した船で、アメリカ製の「シーレイ245」というボートがベースになっています。
この船は全長25フィート(7m62cm)、最大速度は31ノット(約57.4km/h)、定員は10名。運用に際しては運航要員2名(船長および船長補佐)のほかに医師と救急救命士の計4名が乗り込むため、患者を最大6名まで収容することができるといいます。
東京都の江東区管理桟橋に停泊した救急艇と、運航スタッフの待機場所となる昭和大学江東豊洲病院。同病院は救急艇が搬送してきた患者の受け入れ先にもなる(2021年5月26日、柘植優介撮影)。
救急艇は7月23日から9月5日の東京オリンピック・パラリンピックの大会期間中、東京消防庁などと連携して運航されます。なお、基本的に稼働時間は朝10時から夕方5時までで、運航要員は桟橋近傍の昭和大学江東豊洲病院の一角にある待機スペースに詰める形をとるとのこと。
発表会では患者搬送を想定した訓練も行われました。まず東京消防庁からの出動要請を受けると、直ちに運航要員が船に乗り込み出艇。東京オリンピック・パラリンピックの会場であるお台場周辺に向かいます。
そもそもMHIは、病院船(災害時多目的船)の導入を目指して2011(平成23)年に設立された団体だといいます。災害時などにおいて船舶を活用した医療提供体制を整備しようと活動しており、2018年6月にアメリカ海軍の病院船「マーシー」が初めて東京に寄港し一般公開されたのも、MHIが日米両政府に働きかけたからだそう。

救急艇の患者搬送を想定した訓練の様子。艇内でオレンジ色のライフジャケットを着て座っているのが患者役の男性(2021年5月26日、柘植優介撮影)。
MHIの砂田向壱(すなだこういち)理事長は今回の救急艇の実装実験に関連して、スペインの例を挙げていました。スペインでは洋上で操業する漁業者のために民間の病院船があるといいます。建造と保有は国であるものの、漁業団体が運航し、漁船団に追従する形を採っているとのこと。
軍隊を含む公的機関が建造・運航するとなると、どうしてもその組織のための運用が優先されてしまったり、国の意向に左右されてしまったりするため、国の補助で民間が建造し、民間の手で運航するのがベストだと語っていました。
今回、実装された救急艇は、あくまでも東京オリンピック・パラリンピックの期間中に運航が限定されます。
2025年の大阪万博は大阪港の沖合にある「夢洲(ゆめしま)」が会場として予定されています。周囲を海に囲まれた埋立地のため、救急艇は適任との認識であり、今回の東京オリンピック・パラリンピックでの「船舶を用いた患者搬送」をステップに、救急艇の周知、そして病院船の導入を目指したいとしています。