ユナイテッド航空の発注で再度脚光を浴びた超音速旅客機ですが、実はこれまで実用化されたものは「コンコルド」など2モデルのみです。実は歴史を振り返ると、実用化には、騒音や燃費だけではない難しさがあるようです。
2021年現在、ジェット旅客機は時速でいえば800から900km/h、いわゆる「亜音速」といった速度帯で飛ぶことが一般的です。実はこのスピード、いわゆる超音速機を除けば半世紀以上にわたり変化がありません。
そのようななか、アメリカのユナイテッド航空が、同国のスタートアップ企業「ブーム・テクノロジー」が開発を進める超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」を2021年6月に発注しました。この巡航速度はマッハ1.7。ブーム・テクノロジーは。そのスピード感を「既存のジェット旅客機のおよそ2倍」と説明しています。
ユナイテッド航空仕様の「オーバーチュア」のイメージ(画像:Boom Technology)。
これまでに実用化された超音速旅客機は2モデルしかありません。イギリスとフランスが共同開発した「コンコルド」と、旧ソ連のツポレフ設計局が開発したTu-144です。
ともに開発スタートは1960年代。このころは「超音速旅客機が将来民間航空市場の主力機になる」と予想されており、各国が競うように開発にまい進していました。ただ現実はそうはならず、「ジャンボジェット」ことボーイング747の席巻に代表される「亜音速で飛行しながら機体の容量を大きくする」という時代へ。
なぜ超音速旅客機は、これまで実用化されたモデルがここまで少なかったのでしょうか。もちろん、スピードを出すぶん燃料も多く使いますし、騒音も大きかったことから、時代に歓迎されなかったという側面もありますが、実用化それ自体が結構難しいことであるというのもひとつのポイントでしょう。
「設計」の面から考える「超音速旅客機」の難しさとは?超音速飛行における困難性は、マッハ1を超える前後で空気の流れが劇的に変わることにあります。いわゆる「音の壁」として知られているものです。
音は、空気を介して空間を移動します。つまり音速とは、「空気の変化(圧力変化)が伝わる速度」といいかえることができるのです。音速を超えるとなると、機体の設計に抜本的な改革が必要になります。
かんたんに言えば機体が前進する際、機首の部分にある空気は前に押し出されることになります。ただ超音速飛行、つまり押し出される空気より速く機体が前進するとなると、そこに空気がたまってしまいます。これを強力なエンジンを使って力技で押しつけるか、機体の形状を最適化することで逃がしてあげるかという手段で対策します。ただ、この対策によって、主翼から発生する機体を持ち上げる力の発生メカニズムも劇的に変わってしまうのです。
そのため、超音速飛行には、大きな加速力を持つエンジンと、超音速前後の空気から及ぼされる力に対する変化に耐える強度が必要となり、それを克服する設計が不可欠です。それまで培ってきたジェット旅客機の設計から、大きな変更を迫られるということになります。

「コンコルド」のエールフランス仕様機(画像:Simon_sees[CC BY〈https://bit.ly/2Z0AaSy〉])。
ちなみに、航空機の場合、超音速飛行が可能な機体と、超音速で巡航できる機体は全く異なるといってよいでしょう。実は一定の時間マッハ1を超えて飛行する飛行機はありますが、「コンコルド」のように長時間(1時間以上)超音速で巡航(スーパー・クルーズ)できる能力のある飛行機は、軍民見渡しても限られています。
現時点では、スーパー・クルーズが可能な機体は軍用機でも20モデルほどしかありません。マッハ3を叩き出した世界最速機、アメリカ空軍の高高度偵察機SR-71を始め、Mig-25(ソ連)、B-58(アメリカ)、TSR-2(イギリス)、XB-70(アメリカ)など、近年ではアメリカのF-22、欧州のタイフーン、ラファール、サーブ39グリペンといったモデルがこれにあたります。
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半世紀の時を経てブームが「オーバーチュア」で再び実用化が進む超音速旅客機。現在は、それに先駆けて試作機「XB-1」が公開され、2021年にこれが初飛行する予定です。ブームは「オーバーチュア」が騒音レベルも低く、燃料効率も良いとアピールをしており、その面においても「コンコルド」と比べても大きな進化が期待されます。