東京オリンピック・パラリンピックを控え、警視庁が大規模なテロ対策訓練を行いました。屋根の上で飛び跳ねる暴徒、狙撃を受け車内にねじこまれる要人…現実さながらの訓練は鬼気迫るものです。
東京オリンピック・パラリンピック開催目前の2021年6月22日(火)、警視庁がテロ対策訓練を、総合警備訓練場(江東区)で公開しました。
訓練には機動隊や各警察署などから警察官約550人が参加。東京オリンピック・パラリンピックで想定されるテロ事案や要人襲撃を想定した場面が作り出され、それをいかに迅速に制圧するか、その対応にあたる部隊の状況が披露されました。
●クルマの上で飛び跳ねる群衆の末路
最も印象的な訓練だったのは、第1、3、4、7の各機動隊が担当した「暴徒制圧」でした。想定としては、観戦後に試合結果を原因にしたケンカが勃発、それがきっかけで暴徒化した群衆を制圧するというものです。
黒塗りセダンを破壊した群衆に迫る機動隊(中島みなみ撮影)。
白いトレーナーを着た“群衆”が、磨き上げられた黒塗りのマークXなど3台のクルマのボンネットやルーフの上で暴れる、棒でたたく、危険を感じた運転手が転げ出るようにして逃げる――破壊は徹底的で、見る間にクルマの形が変わっていきます。ちなみに、訓練に用いられたマークXは、耐用年数を超え使用されなくなった車両です。
一方、制圧にあたる部隊はポリカーボネートの透明の盾を前にして暴徒を追い詰めます。いったんは投石(訓練では水の入ったペットボトル)を受け、じりじりと後退するものの、そのスキに暴徒の背後からも部隊が迫り、囲いこんで一網打尽にするという作戦です。白いトレーナーの群衆が、黒い出動服に身を包んだ機動隊員に、もみくちゃにされながら見えなくなっていく様子は、警察の制圧力を誇示するには十分なものでした。
ランクルが揺れる。要人警護の中でも車列を組んで警護をする「車列警護訓練」を見せたのは、警護課と第5機動隊です。要人に迫る不審車両と衝突することなく、いかに要人を素早く搬送するか実演していました。
賓客車(メルセデス)を中心に、警護車(ランドクルーザー)、遊撃警護車(レクサス)、随行者が乗る随員車(クラウン)の4台があり、その前後をパトカーが挟む形で車列が組まれています。要人の乗る賓客車の助手席には、警護課に所属するSP(セキュリティポリス)が同乗しています。
車列警護は、ただ並んで走っているわけではなく、不審車を確認した場合、まずパトカーや警護車がその行く手を阻み、残った車両は賓客車の素早い退避に注力するという役割分担を行います。なお、車列に近づくのが一般車両であっても要人の通行が最優先となるものの、一般車両を止めた場合には「ご協力ありがとうございました」と謝辞が入ります。

狙撃をかわしながら走るSP(中島みなみ撮影)。
不審車が執拗に追いかけてきた場合、助手席から身を乗り出した警察官は、後続車との間合いを運転する警察官に伝え、安全を確保しながら行く手を阻みます。ランドクルーザーが前後左右に車体を揺らせて車間を詰める様子は、訓練とはいえ見る人の緊張を高めました。
また、クルマを降りた瞬間を狙う、狙撃に対応する訓練も披露されました。防弾仕様のブリーフケースを盾に要人を車両に押し込めるSPと、いち早く走り出しながら警護のために車列を作る冷静な対応は、東京大会の安全と安心を高めます。
爆発物処理はセグウェイに乗って不審者への職務質問から暴挙に出たテロリストを逮捕する訓練は、警備第1、2課、東京国際空港テロ対処部隊に第2、6機動隊が担当しました。
また、市街地で銃器を使用したテロ対処訓練では、2015(平成27)年のサミットをきっかけに組織された緊急時初動対応部隊(ERT)と警備犬、特殊部隊(SAT)が連携。先陣を切って飛び出した警備犬が犯人逮捕のきっかけを作る場面が想定されました。

爆発物を耐爆ポッドに運ぶ爆発物処理用具I型(中島みなみ撮影)。
この日の訓練を査閲(成果を確認すること)した斎藤 実警視総監は、開会式まであと30日と迫る中、こう話しました。
「本日の訓練は緊迫した事態を想定したものだったが、いずれも迅速的確な対処がなされていた。東京2020大会の警備の目的は、安全かつ円滑な開催はもとより、平穏な都民生活の確保と首都東京の社会機能維持に万全を期し、東京に集うすべての人々の安全と安心を確保することにある。警視庁にとっても経験したことのない極めて困難な警備となるが、我々はなんとしてもこれをやり遂げなければならない。7年以上にわたって練り上げてきた対策と訓練の成果を大いに発揮し、全国から派遣される特別派遣部隊とも力を合わせて、それぞれの持ち場で全力を尽くして、課せられた使命を果たしていただきたい」