V-22「オスプレイ」は、飛行中にエンジンそれ自体の向きを物理的に変えることができる機体です。「オスプレイ」はティルト・ローターですが、このジェット機版ともいえる機体が実はありました。
日本の陸上自衛隊でも運用しているV-22「オスプレイ」は、ヘリコプターのように垂直離着陸が可能な、固定翼の航空機「VTOL(Vertical Take Off and Landing)機」というカテゴリーに位置します。
VTOL機はさらに細かく分類されますが、「オスプレイ」はティルト・ローターを装備する「転換航空機(コンバーティ・プレーン)」と呼ばれる仲間になります。これは、離着陸時にはローターの向きを上向きにして空中に浮かんだ後、エンジン自体の向きを物理的に前方へ傾け、ローターの向きを前に向けターボプロップ機のように前進するというものです。
このほかVTOL機は、ハリアーやF-35などのように、ターボファン・エンジンの排気方向を離着陸時には下向きに、空中に浮かんだ後は後方に向けて前進するものなどがあり、この2タイプが軍用機における成功例となっています。ただ、これはあくまで成功例の機体であり、その陰では幾多のVTOL機が、開発に失敗しています。
展示されているVJ-101(画像:Public Domain/JohnMcCullagh)。
実は、コンバーティ・プレーンの仲間で、「オスプレイ」のようなティルト・ローターではなく、ティルト・ターボジェットエンジンを利用した機体がありました。この「ジェット機版オスプレイ」は、ドイツの「VJ-101」といったモデル名で開発が進められていましたが、結局実用化には至りませんでした。
第2次世界大戦中、そして戦後はさまざまなカタチの航空機の開発が計画されてきましたが、このようなターボジェット系エンジンによるコンバーティ・プレーンが実現した例はほとんどありません。VJ-101は、このスタイルの航空機で数少ない実際に飛んだ機体なのです。
ティルト・ターボジェット系エンジンによるコンバーティ・プレーンの最大の利点は、その飛行速度にあります。「オスプレイ」のようなティルト・ローター機の水平飛行速度は、ローター・チップが音速を超えないように飛行しなければならないことから、水平飛行速度に制限があります。
このVJ-101、筆者がこれまで見てきた航空機のなかでも、とりわけカッコいい機体であると思います。F-104「スターファイター」にF-5「フリーダムファイター」の尾部を組み合わせたようなルックスで、主翼端に推力の方向を変えることのできるジェットエンジンを取り付けていました。
ドイツの「VJ-101」どんな機体だったの?「ジェット機版オスプレイ」ともいえるドイツの「VJ-101」は、どういった経緯を経て、開発されたのでしょうか。
VJ-101は、ドイツのEWR社という、多くの人にとってはまったく聞きなれない航空機メーカーにより開発されました。それもそのはずで、この会社は、第2次世界大戦中に軍用機などを製造していたハインケル社とメッサーシュミット社などが中心となって1959(昭和34)年に設立され、北大西洋条約機構(NATO)の近距離支援戦闘機プロジェクトに基づいた、超音速を出せるVTOL機を開発することを目的としていました。逆に言えば、まったく実現するかどうか未知数のVTOL機の開発は、一社だけでは費用を捻出できなかった、ということなのかもしれません。
VJ-101の試作機は、1963(昭和38)年に初号機が初のホバリング飛行を実施し、その数か月後には、上空でエンジンの方向を変える水平飛行モードへの転換飛行に成功します。翌年には、VTOL機としては初めて、音速を超えるという快挙を成し遂げましたが、その直後に事故を起こしてしまいました。テストはアフターバーナー(エンジンの排気に燃料を噴射することでより高推力を獲得し、飛行速度の大幅な向上を図る機構)を搭載した2号機に引き継がれ、試験が行われていたものの、最終的には1968(昭和43)年に開発中止となりました。
最終的にVJ-101は、エンジンの角度を変える「ティルト」のところが、実用化への最も大きなハードルだったとも考えられます。コンバーティ・プレーンのティルトは、大きく重いエンジンと推力発生装置を回転させる必要があるため、大きなトルクが付け根にかかりそうです。

千葉県の木更津駐屯地に暫定配備されている陸上自衛隊のV-22「オスプレイ」(画像:陸上自衛隊)。
ちなみに、VJ-101の実機はドイツ博物館で実物を保存、展示してあります。とてもスタイリッシュでロマンのある機体ですので、コロナが収まったらドイツ旅行を……と考えている方は、ぜひ見学することをおすすめしたいです。
※一部修正しました(7月13日10時26分)。