街中で見かけるパトカーや救急車、消防車などのいわゆる「緊急車両」。目立つ色をしていて、昔から形も大きく変わったこともなさそうですが、細かく見ると奥の深い分野です。
街中で見かけるパトカーや救急車、消防車などは、使い方から「緊急車両」と呼ばれたりしますが、緊急車両とひと口に言っても、その種類やスペックは千差万別です。
緊急車両は「緊急自動車」と呼ばれ、人命救助や火災、事故への対応など、緊急を要する業務に就く車両のことを指します。その定義は政令で規定されており、救急車によく似たドクターカーや血液運搬車なども含まれるほか、電力会社やガス会社、鉄道会社などにも緊急車両の指定を受けたものが存在します。
旭日章(警察章)が取り付けられたR34型「スカイラインGT-R」パトカーのフロントグリル(柘植優介撮影)。
今回は特に「パトカー」「救急車」「消防車」の3つについて掘り下げてみます。
まずはパトカー。正式には「パトロールカー」といい、警察官が担当地域で警察活動を行うために用いる警察車両を指します。「無線警ら車」「小型警ら車」「交通取締用四輪車」などの種類があり、パトカーとひと口にいっても配備先によって車格や性能が大きく異なります。例えば交番や駐在所などに配置されているのは、基本的に「無線警ら車」に属します。
無線警ら車のなかでも圧倒的に数が多いのはトヨタ「クラウン」です。なぜなら、クラウンにはパトカー専用グレードが存在するからです。
一般的に、市販のクラウンを新車で購入する場合、車両本体価格のみで500万円前後ですが、2019年に公開された無線警ら車の価格は約300万円。
続いて救急車。正式名称は「救急自動車」です。救急車もパトカーと同様、様々な種類がありますが、都市部において比較的多く目にするのは「高規格救急自動車」と呼ばれる、車内で救急救命士によって救命活動が行えるよう設計されたものです。
そんな救急車のベース車両として最も多いのが、トヨタ「ハイエース」。なんと9割以上のシェアを誇ります。
ハイエースをベースとした高規格救急自動車は、トヨタ救急車「ハイメディック」という名前で、1992(平成4)年に国産自動車メーカー初となる高規格救急車として誕生しました。現在までに大きく3度のモデルチェンジがなされています。発売から30年近く経つ初代モデルは多くが廃車となっており、現役で稼働しているものはほとんどありません。
価格は装備品を含め、一般的な救急車が2000万円から2500万円程度です。東京消防庁が2020年3月に導入したEV(電気自動車)救急車はその約3倍から4倍ほどし、8000万円を超えます。
最後は消防車。消防車も消防活動の主力となる車両「消防ポンプ自動車」のほか、建物や危険物施設などの検査を行う「査察車」、建物内に取り残された人を救出したり、高所から放水活動を行ったりできる「消防はしご自動車」など、様々な種類があります。
消防車の色は「朱色」 ただ微妙な違いも?実は消防車の製造において国内で6割のシェアを持つのが、モリタホールディングスです。1917(大正6)年に日本初の国産消防ポンプ自動車を完成させた企業で、近年はしご車を中心に年間600台を生産し、最近では中国や東南アジアにもはしご車を輸出しています。
モリタホールディングスは、トラック・バス業界最大手である日野自動車からエンジンや骨組みだけのトラックを仕入れ、全国の消防署や消防団の要望に応じて、オーダーメードで消防車に仕上げています。

高輪消防署二本榎出張所の車庫に並ぶ3台の消防車。左右の2台が現用の車両。ニッサン180型消防ポンプ自動車(中央)は出動しないため、柱の奥に配置されている(柘植優介撮影)。
モリタホールディングスは1980年代に、国内で初めてはしごの電子制御を実用化しました。はしごの電子制御はそれまで使われていた油圧式よりも早く操作でき、救助が始まるまでの時間を短縮できるようになりました。目につきやすい箇所で多くの設備を搭載する消防車の価格は、例えばはしご車で1億8000万円ほどにもなります。
ちなみに、消防車の色は国土交通省から「朱色」と定められているのですが、実はオーダーによって微妙に色合いが異なるそうです。
私たちが安心・安全に暮らせるよう、日々活動する緊急車両の数々。スペックやその裏側を知ると、また新たな魅力が見えてきます。