大阪市は社会実験運行中のオンデマンドバスの中間状況について7月26日に会議を実施。利用実態と今後の運行エリア拡大予定が明らかになり、課題も浮かび上がってきています。

よりきめ細やかな交通手段として誕生

 大阪市が2021年3月30日(火)から社会実験として運行しているオンデマンドバス。大阪メトロが運行主体で、ワンボックス車両を使用し、AIが自動で走行ルートを決定する形で、利用希望のある停留所のみを結びます。バスや地下鉄よりもきめ細かく、コミュニティバスよりも効率的な移動サービスを提供できるのが特徴です。利用にあたっては事前に専用スマホアプリなどから予約を行います。

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オンデマンドバスに使用されるワンボックス車両(画像:大阪メトロ)。

 開始当初の運行範囲は、生野区ではJR大阪環状線の鶴橋駅、桃谷駅、寺田町駅から今里筋まで、平野区では大和路線加美駅および大阪メトロ谷町線出戸駅を中心とした、計3エリアです。

 今回の社会実験の期間は1年間。プロジェクトが長期にわたるため、期間を3つのフェーズ(6か月+2か月+4か月)に分け、期間中に次のフェーズに向けた見直しや改善を図るとしています。運行開始から4か月を迎える7月26日(月)に、中間報告ならびに第2フェーズや今後に向けて話し合う「第2回大阪市地域公共交通会議」が開かれました。

 まず中間報告では、利用状況のほか、オンデマンドバスの認知度や利用者の実態、反響などが明らかにされました。

 利用者数は緊急事態宣言の影響もあり当初は1週間400人程度と伸び悩みましたが、5月以降は堅調に増加。6月17日からは無料乗車証を配布したことも追い風となり、7月5日の週には利用者が900人を突破しました。

 7月に行われたアンケートでは、利用目的のうち、通勤・通学や仕事での利用が約40%と多く、役所での用事が約15%、通院・買い物で約30%となっています。利用者の年齢層は30代~50代が最も多く、逆に60代以上は全体の1割未満にとどまっています。

 そもそもオンデマンドバスが運行されているのを知っているかという質問では、「知っている」と答えた人が生野区では17.1%、平野区では20.6%という低い結果に。一方で、「知っている」と答えた人のうち、「利用してみたい」と答えた人は80%を超え、実際の利用者で「とても満足した」「満足した」と答えた人は生野区で70.0%、平野区で96.2%と、概ね好意的な反応がありました。

 特に、運行時間が6時から23時まで可能であるという点について「バスの終発が早くて不便だったのに対し、助かる」という意見が見られます。

「コミュニティバス」との違いはその柔軟さ

 利用者のうち、オンデマンドバスが無い頃の移動手段としては、徒歩・自転車が約35%、路線バスが約37%、残りが電車やタクシーという結果に。既存交通の最寄り駅から家や目的地までの微妙な距離「ラストワンマイル」を補う交通の足としての役割を果たしている実態が浮かび上がっています。

大阪市オンデマンドバス試行から5か月 認知度2割も反応良好 エリア拡大予定も共存課題

運行開始の記念セレモニーに出席した松井一郎・大阪市長(画像:大阪市)。

 オンデマンドバスにおける供給余力を表す「実車率」は客を乗せている時間を車両の営業時間で割ったものですが、生野エリアでは17%、平野エリアでは12%周辺となっています。「暇を持て余している」という実態ですが、決まったルートで必ず定時運行された「赤バス」時代と違い「エンジンを動かして空気を運ぶ」ということはないのがひとつのメリットとも言えます。

 利用者拡大のための認知施策として、大阪メトロは先述の無料乗車証の配布キャンペーンのほか、さらにプロモーション活動を行っていきたいとしています。一方で、地域委員からは、地域の女性を中心に、アプリの使い方を勉強しあい、お年寄りに教えたりしているとの報告もありました。

第2・第3フェーズでは各エリアで運行範囲を拡大、ただ懸念も

 大阪メトロでは、10月からの第2フェーズに生野区エリアで乗降場所を3か所新設(あわせて1か所廃止)。平野区Aエリアでは加美北地区に拡大し、乗降場所も30か所増加するとしています。

 さらに12月からの第3フェーズでは、生野区エリアの運行範囲を区内西半分から区内全域へ拡大、平野区Bエリアでも、瓜破地区まで拡大する方向で計画中です。これらの拡大方針は地域住民からの要望をふまえたものであると、大阪メトロは説明しています。

 ただ、運行範囲の拡大について、タクシー業界側からは「いよいよタクシーそのものになってしまい、安いオンデマンドバスに客が取られてしまう」といった懸念の声も。

 運行にあたってはタクシー業界会社との協業として、車椅子車両の提供を受けるなどの取り組みも行われています。1乗車210円でエリア内を移動できるオンデマンドバス事業と、エリアに制限はないものの割高な民間のタクシー事業との「食い合い」という問題をどう調整していくかが、本運行に向けた大きな課題のひとつとなっていきそうです。

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