2021年9月現在、イギリスには空母「クイーン・エリザベス」とクルーズ船「クイーン・エリザベス」の両方が存在します。両船はともすると現在のエリザベス女王(エリザベス2世)が名前の由来に思えがちですが、実は違うようです。

空母QEの先代 戦艦「クイーン・エリザベス」

 2021年9月4日から8日まで、イギリス海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」が、アメリカ海軍横須賀基地に寄港していました。艦名に「クイーン」の名が冠せられているため、その由来は現在のイギリス君主、エリザベス女王だと思いがちです。

 現エリザベス女王は、英語では「Elizabeth the Second」すなわち「エリザベス2世」になります。初代は16世紀に女王だったエリザベス1世で、今回来日した空母は、この初代エリザベス女王にちなんだ命名とされています。

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イギリス海軍の戦艦「クイーン・エリザベス」。1914年から1948年まで運用され、第1次と第2次の両世界大戦に参加している(帝国戦争博物館/IWM)。

 エリザベス1世は、歴史の教科書などでは「ザ・ヴァージン・クイーン(処女王)」と呼ばれたりする伝説の君主です。偉大な君主として歴史に名を刻んでいることから、イギリス海軍は過去にも彼女の名を冠した軍艦をいくつか擁してきました。

 空母「クイーン・エリザベス」の前に、その名を掲げていたのが戦艦「クイーン・エリザベス」です。5隻の姉妹艦が建造されたクイーン・エリザベス級戦艦のネームシップとして、イギリス南部にあるポーツマス海軍工廠(造船所)で1912(大正元)年10月21日に起工され、1914(大正3)年12月22日に就役。第1次世界大戦の終結時には、イギリスが誇るグランドフリート(大艦隊)の旗艦を務めていました。

 その後、第2次世界大戦にも参加しましたが、地中海方面で行動中の1941(昭和16)年12月18日、エジプトの要港アレキサンドリアで停泊中にイタリア海軍の人間魚雷(小型潜水艇)「マイアーレ」の攻撃を受け、大破着底という大損傷を被っています。

なお、修理後は太平洋方面で行動し、1948(昭和23)年に退役しました。

3代にわたって使われる客船「クイーン・エリザベス」

 興味深いのは、戦艦「クイーン・エリザベス」と就役期間が一部重なる形で、イギリスの船会社キュナード・ラインが保有する旅客船「クイーン・エリザベス」が現役だったことでしょう。

 客船「クイーン・エリザベス」は1940(昭和15)年に就役し、1968(昭和43)年まで運行されていたため、戦艦と客船、2隻の「クイーン・エリザベス」は1940(昭和15)年から1948(昭和23)年までの約8年間、並存していたことになります。

 ただし、客船のほうはエリザベス・ボーズ=ライアン、すなわちジョージ6世の王妃で、現在のエリザベス2世の母堂の名前にちなんでいました。つまり、同時期に同名の戦艦と客船が存在していたとはいえ、各々の「エリザベス」は“別人”ということになります。

一体いくつある?「クイーン・エリザベス」という名の船 軍艦と客船は「同名」でも「別人」

1968年10月、アメリカ東海岸のニューヨーク港における旅客船「クイーン・エリザベス」。

 ちなみに旅客船「クイーン・エリザベス」は、就航当時は世界最大の客船で、以降、1996(平成8)年まで56年間にわたってその座にありました。

 この旅客船「クイーン・エリザベス」の後継船が、同じくキュナード・ラインが運航したクルーズ客船「クイーン・エリザベス2」です。とはいえ、この船名は現在のエリザベス2世が由来というわけではなく、先代の旅客船「クイーン・エリザベス」の2代目という意味で付けられています。ゆえに船名は、やはりエリザベス2世の母君エリザベス・ボーズ=ライアンが由来となっています。

 なお、船会社キュナード・ラインは2010(平成22)年10月、クルーズ客船「クイーン・エリザベス2」の後継として、新船「クイーン・エリザベス」を就役させていますが、これもエリザベス・ボーズ=ライアンが由来であり、船名継承という形です。

 一方、2017(平成29)年12月にはイギリス海軍の空母「クイーン・エリザベス」が就役したため、約70年ぶりに“軍艦としての女王と民間船としての王妃が並存”するという状態が出現しています。

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