消防車大手のモリタが東京都内の展示会で、電動の小型立ち乗りモビリティ「EZライダー」を提案しました。小さく、折り畳みが可能なうえ、悪路に極めて強く、災害救助など様々な活用が期待されるものです。
これまでにない「立ち乗り」の消防車両が、もしかしたら今後、登場するかもしれません。
2021年10月20日から22日までの3日間、東京ビッグサイトで開催された「危機管理産業展2021」で、消防車両のトップメーカーである株式会社モリタが、折りたたみ可能な電動四輪駆動車「EZ RAIDER」(以下、EZライダー)を出展しました。
悪路をいくEZライダー(モリタの動画より)。
EZライダーはイスラエルのDSライダー社が開発したものです。スケートボードのような板とフレームに太いオフロードタイヤが4輪ついた形で、立ち乗りが想定されています(オプションでサドルもある)。積載重量は単体で200kg、オプションのリアカートを接続すれば、さらに最大250kgの積み増しが可能であるほか、負傷者を搬送するための担架を載せることもできます。このリアカートはEZライダーと同じ高トルクの電動モーターを備えており、これを接続して六輪駆動にすることで、オフロードの踏破能力もさらに向上します。
大規模災害の現場では、がれきや土砂などが散乱しているため、車両を使用する救助活動が極めて困難です。オフロードバイクや四輪バギーといった車両は、がれきや土砂などの散乱する場所でも走行できますが、前者は貨物の搭載量が少ない、後者は貨物が運べても車幅が広いため狭い道には進入できない、といった難点をそれぞれ抱えています。
これに対し、EZライダーの車幅はオフロードバイクと同等の79cmで、四輪バギーなどが進入できない狭い道も走行可能です。また、防塵性能は日本工業規格(JIS)の規格で最も高い防塵6級、防水性能は防水5級をクリアしており、建物の倒壊などで大量の塵が発生する地震災害の現場や、大雨洪水の被害を受けた水難現場での救助活動も容易にすることでしょう。
様々な災害に見舞われる日本のために作られたのではないかとすら思えるEZライダーですが、実はこの車両の原点は、イスラエルのあるスケボー少年が描いた“憧れ”にありました。
EZライダーを開発したのは、DSライダー社の共同創業者であるエレズ・アブラモフ氏です。1966(昭和41)年にイスラエルで生まれたアブラモフ氏は、少年時代、スケートボードに強い憧れを抱いていたといいます。しかし彼が少年時代を過ごした農場の周辺には、スケートボードの走行に適した舗装された道路などなく、それは遠い夢でした。
成人したアブラモフ氏は農業機械の開発などを手がけつつ、バギー競技にのめり込み、その双方で成功をおさめましたが、少年時代を過ごした農場のような環境でスケートボードを走らせてみたいという夢を抱き続けます。そこで1990(平成2)年、大型のサーフボードにオートバイ用の2ストロークエンジンと大径ホイールを組み合わせて、オフロードでも走行可能な動力式スケートボードを作り上げました。
DSライダー社はこれをEZライダーのルーツと位置づけており、「EZ RAIDER」の「EZ」と「RAIDER」は、共にアブラモフ氏が開発したバギーの名前に由来しているのだそうです。

危機管理産業展のモリタブースにて。リアカートに担架を載せ傷病人の運搬も可能(竹内 修撮影)。
その後アブラモフ氏は、イスラエル国防軍の自動運転車両の開発に携わります。その過程で、戦場において兵員とその装備を輸送できる、軽量で機敏な軽車両が必要であるとの認識に達したことから、1990(平成2)年に制作した動力式スケートボードを基に、高いオフロード走行能力を持つ軽車両のプロトタイプをいくつか製造します。しかし、イスラエル国防軍からの採用を勝ち取ることはできませんでした。
しかし、彼はあきらめることなく、車両の動力をガソリンエンジンから電動モーターに変更。
高いオフロード走行能力と輸送能力を兼ね備えているだけでなく、電気駆動のため、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンと比べて環境に与える負荷も少ないことから、EZライダーの注目度は高まっており、実際に危機管理産業展でも多くの来場者が高い関心を示したように見受けられました。
EZライダーが災害発生時の救援活動で有用な車両であることは間違いないのですが、前に述べたようにアブラモフ氏が農場で育ったせいもあってか、DSライダー社はEZライダーの農業への活用も提案しています。

EZライダー(画像:モリタ)。
山がちで平野部の少ない日本では、山間部でも農業が行われていますが、軽トラックで進入できる場所から田畑への輸送は、人の手に頼らざるを得ません。
日本は少子高齢化とともに、農業従事者の高齢化も進んでいます。こうした状況下で山間部での農業を継続していく上では、機械化と効率化が必要でしょう。EZライダーはその点でも有効な車両なのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。