「安全運転サポート車」、すなわち「サポカー」のみを運転できる限定免許が新設されます。高齢者の運転による事故が相次ぐも、免許返納はなかなか進まず――限定免許がその状況の改善策となるのでしょうか。

「サポカー限定免許」「運転技能検査」導入を前に意見募集始まる

「サポカー限定免許」や「運転技能検査」の詳細が固まってきました。警察庁ウェブサイトのパブリックコメント(意見募集、以下パブコメ)欄には2021年11月5日(金)、「『道路交通法施行令の一部を改正する政令案』に対する意見の募集」というタイトルで、これらの導入条件ついて国民の意見を問う案件が掲載されました。昨年、道路交通法が改正され、それを受けての政令改正です。
 
 ただ、パブコメの要領には「サポカー限定免許」という言葉すらなく、国民にどんな意見を求めているのか、わからないのが欠点です。何が変わろうとしているか。紐解いていきます。

「サポカー限定免許」来春施行で動き出す 「私も77歳」国家公...の画像はこちら >>

トヨタと名古屋大学が開発した後付けの安全装置(中島みなみ撮影)。

サポカー限定免許って何?

 同日の閣議後会見で二之湯 智国家公安委員長は、「サポカー限定免許」の必要性をこう説きました。

「私自身も77歳だ。認知機能検査を受けて合格、高齢者講習を受けて自動車免許を更新した。ただ免許は持っているがクルマは廃車処分にして、できるだけ乗らないようにしている。しかし、公共機関のない条件不利地域に住んでいる方は、クルマが生活の足なので、どうしても手放すことができない。

そこで、(クルマが運転をサポートし)比較的安全に走行できる『安全運転サポート車』(=サポカー)を開発してもらい、それと同時に、そういうクルマを運転する人にだけ限定的に免許を与えようという趣旨だ」

 サポカー限定免許は申請により、限定なしの免許から切り替えることができますが、切替後はサポカーしか運転できなくなります(サポカー以外を運転した場合、違反点数2点の予定)。限定を解除して元の免許に戻すこともできますが、審査で戻せないこともあります。また、今のところサポカー対象になるのは乗用車のみの予定であるため、限定免許になっても、限定部分を補うことのできる上位免許「大型、中型、準中型」を併せ持っている場合は、切り替え時に返納する必要があります。二輪免許や大型特殊は普通免許の上位ではないため返納の必要がありません。パブコメではこうしたサポカー限定免許の条件について意見を求めています。

「サポカー」の定義は?

 問題は乗用車のなかでも、どんな装置を備えたクルマがサポカーになるかですが、対象車両の条件は今のところ未定です。ただ昨年、経済産業省が65歳以上を対象に「サポカー補助金」を創設。歩行者衝突被害軽減ブレーキ機能やペダル踏み間違い急発進等抑制装置機能が付いた乗用車の購入を促しましたが、こうした機能が搭載された車両が対象となる見込みで、この条件については、別の内閣府令で定めます。

 ただ、普通免許からサポカー限定免許に切り替えても、高齢者講習が簡略化されるなどの軽減措置はありません。高齢者や家族が運転に不安を覚えた時、その安全運転対策のためにサポカーとセットで選択することが事故防止につながりますが、実は年齢を問わず切り替えられる制度です。

11種類の違反のいずれかで運転技能検査

 サポカー限定免許と同じ道路交通法改正のタイミングで決まったのが、75歳以上の普通免許保有者で“一定の違反歴”がある人に義務化される「運転技能検査」です。一定の基準に満たない場合、免許更新ができないことまでは、法律で決まっていました。

 今回のパブコメでは、一定の違反歴の内容が公表されました。次の11の違反を「基準違反行為」と定めて、検査対象とします。

・信号無視
・通行区分違反
・通行帯違反等
・速度超過
・横断等禁止違反
・遮断踏切立入り、踏切不停止等
・交差点右左折方法違反等
・交差点安全進行義務違反等
・横断歩行者等妨害等
・安全運転義務違反
・携帯電話使用等

「サポカー限定免許」来春施行で動き出す 「私も77歳」国家公安委員長が説くその内容

会見する二之湯 智国家公安委員長(中島みなみ撮影)。

 違反が問題となるのは、免許更新年の誕生日160日前を基準に、そこからさかのぼって3年間、11のいずれかの違反で検挙された場合に「運転技能検査」を受けることになります。受験期間(6か月間)は繰り返し受けることができますが、結果が悪い場合は更新できません。

 検査に合格した場合は、基準違反行為のない更新希望者と同じように認知機能検査で合格し、高齢者講習を経て、免許交付を受けることができます。

 パブコメでは、基準違反行為の内容や検査制度の運用について意見を求めています。運転技能検査の判定基準は別の内閣府令で決まります。

高齢更新に関連する手数料も大幅整理

 高齢者の免許更新に関係する手数料の標準額の改定も、パブコメで公表されています。標準額は地域によって変動します。

 70歳以上の全員の受講が必要な「高齢者講習」は、実車講習あり6450円(2時間)、実車講習なし2900円(1時間)の2種類のまとめました。現行の制度は、実車講習あるなしのそれぞれで「合理化」「高度化」「臨時」に分かれ、実車あり2~3時間、実車なし1~2時間で手数料が違っていたので、最大で1350円の値上げ、時間数が短くなる場合では最大1550円の値下げになります。

 また75歳以上のすべての運転者に義務付けられる「認知機能検査」は1050円になり300円の値上げ。基準違反行為で検査義務が生じる「運転技能検査」は3550円(新設)です。

 2つの検査と講習のすべてを受けると1万1050円。これに免許更新手数料2500円が必要になります。

 これらを含めた2020年改正の道路交通法政令案は、2021年12月4日まで30日間の意見募集を経て、2022年5月13日から施行の予定。基準違反行為で運転技能検査を受けなければならなくなる高齢者は、2022年11月12日以降に誕生日を迎える免許保持者です。

※一部修正しました(11月10日11時22分)。

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