戦闘機や一部のヘリコプターなどでは航続距離を延ばすため、主翼や胴体に増加燃料タンクを取り付けることがあります。一見すると燃料タンクの増設が難しそうなCH-47Jの場合は、機内に設置可能。

どのような場面で使うのでしょうか。

増加燃料タンク 外付け無理なら機内へ

 自衛隊が運用する最大のヘリコプターであるCH-47J「チヌーク」。この大型ヘリコプターは上への着陸や、砂埃の中でも飛行できるよう様々なオプションを装着可能です。そんな数あるオプションの一つに、機内に追加搭載する増槽、すなわち燃料タンクがあります。とはいえ、この機内増槽、航続距離を延ばすだけでなく、“空飛ぶガソリンスタンド”として使うことも可能です。

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陸上自衛隊のCH-47J「チヌーク」輸送ヘリコプター(柘植優介撮影)。

 そもそも陸上自衛隊は、1986(昭和61)年よりCH-47Jを導入してきましたが、それから11年後の1997(平成9)年から改良型のCH-47JAを導入しています。J型とJA型の簡単な見分け方は、機体の左右両脇に張り出している燃料タンクの大きさで、小さいほうがJ型、大きいほうがJA型になります。

 この燃料タンクの大きさはそのまま飛行可能な距離に反映されており、J型は燃料約4000リットル搭載で、航続距離は約560km。対してJA型は、燃料約8000リットルと約2倍の量を搭載でき、航続距離もそれに比例して約1000kmと倍近く飛行できるようになっています。

 さて、燃料タンクを大きくして遠くまで飛んでいけるのなら、タンクの小さいCH-47Jは不要になるのではないかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。CH-47JのCHとは「Carrier Helicopter」すなわち輸送ヘリコプターの略。

その名が示す通り、輸送力に秀でているため、それを活かして機内に燃料タンクを増設することにより航続距離を延ばすことができます。

積めば東京~沖縄間ノンストップで飛行可能

 CH-47J用の機内増槽を製作している会社は何社かあり、機能もそれぞれ違っていますが、陸上自衛隊が導入したものの一つに、アメリカのロバートソン社が作る「EXTENDED RANGE FUEL SYSTEM II」というものがあります。これは英語名の略称から「ERFS II」といいますが、陸上自衛隊員たちはメーカー名から「ロバートソン」と呼んでいます。

「チヌーク」大型ヘリを空飛ぶガソリンスタンドに 増設燃料タンクの置き場が大胆すぎる件

アメリカのロバートソン社製「EXTENDED RANGE FUEL SYSTEM II」。略して「ERFS II」だが、隊員にはもっぱら「ロバートソン」と呼ばれる(画像:ロバートソン)。

 この「ロバートソン」なる機内増槽、見た目は大きなサイコロのような形をしています。メーカーのカタログによると1個搭載するのにかかる時間は約15分。1個につき約3000リットルの航空燃料が入り、最大で3個まで機内に搭載することができるといいます。

 CH-47Jが「ロバートソン」を3個積んで、すべて燃料満タンで飛行した場合のカタログ上での航続距離は約2000kmです。東京から沖縄の那覇まで直線距離約1600kmをノンストップで飛ぶことができます。

 ちなみに、これだけ燃料を追加搭載できる「ロバートソン」を、元から航続距離が長いCH-47JAに搭載すれば、より一層、長い距離を稼ぐことができると考える向きもあるかもしれませんが、それは難しいようです。なぜならJA型に「ロバートソン」3個を積むと重すぎて離陸ができなくなるからです。

またそれ以外にもいくつかの理由があるそうです。なお、CH-47Jも増槽3個を機内に積むと、ほかの荷物は積めなくなります。それくらい大きな燃料タンクと、隊員は機内で一緒に過ごします。

空飛ぶガソリンスタンドに大変身

 この「ロバートソン」のもう一つの機能に、自機の航続距離を延ばすだけではなく、ホースを延ばすことで他のヘリコプターに給油を行うことができるという点もあります。地上で駐機しているときに限られますが、車両が展開する前の小島や、大規模災害などで道路が寸断されてしまった山間地などでもCH-47が着陸できる場所ならば燃料を運ぶことができるため、そのような場所で航続距離が短いヘリコプターに燃料補給を行えるのがメリットです。

 たとえばCH-47「チヌーク」に搭載できる最大の量、すなわち「ロバートソン」3個の場合、AH-64「アパッチ」攻撃ヘリに給油を行うとすると、約8機を満タンにすることができます。なお、アメリカ陸軍では「ロバートソン」とCH-47の組み合わせを使って、ヘリコプターのみならずM1「エイブラムス」戦車にも給油を行うなどしています。

「チヌーク」大型ヘリを空飛ぶガソリンスタンドに 増設燃料タンクの置き場が大胆すぎる件

アメリカ陸軍のCH-47「チヌーク」からM1「エイブラムス」戦車に給油しているシーン。M1戦車はガスタービンエンジンを搭載するため、航空燃料でも動かせる(画像:アメリカ陸軍)。

 ただ、便利な「ロバートソン」もCH-47に取り付けるには相応の改修が必要になります。機体を正面から見て右手側、黒いHFワイヤーアンテナが設置されている側の窓付近に筒状のベント(丸孔)があります。このベントがある意味、「ロバートソン」の装着可能な機体であることを示しているといえるでしょう。

 なお、陸上自衛隊のCH-47では、J型についてはベントがある機体とない機体が混在しており、JA型は当初から全機ついています。

 機内増槽は、その名の通り機内に増設するタンクのため、外から見ただけは搭載しているかどうかはわかりません。よって普段人目につかないものですが、離島防衛や大規模災害派遣などで、ほかの航空機を支援するためには、なくてはならない装備といえるでしょう。

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