日本一長い距離を走る一般路線バス、奈良交通「八木新宮線」。乗り通せば片道5350円、途中の十津川温泉まででも3450円に及ぶ運賃が、十津川村内での宿泊でキャッシュバックされるキャンペーンが行われています。

今しかできない楽しみ方を体験してきました。

一度は訪れてみたい秘境・十津川へのバス代が“実質無料”!

 奈良・和歌山の2県8市1村を走破する奈良交通の一般路線バス「八木新宮線」(八木新宮特急バス)は、全行程で169.8kmを走破する“日本最長の路線バス“として知られています。2021年12月現在、このバスに実質無料で乗車できるキャンペーンが行われています。

 観光庁の補助を得て2022年1月10日まで行われているこのキャンペーンは、奈良県十津川村の指定施設に宿泊することで、始発バス停の「大和八木駅」(奈良県橿原市)から途中の十津川村内までのバス運賃をキャッシュバックするというものです。

日本最長169.8kmの路線バス、運賃を往復全額バック! 「...の画像はこちら >>

八木新宮線のバス。休憩箇所の十津川バスセンターにて(宮武和多哉撮影)。

 東京23区よりも広い672.4平方キロメートルに約3200人が暮らす奈良県十津川村には、全線で168ある八木新宮線のバス停のうち、48か所が設置されています。沿線には「全施設で源泉掛け流し」を日本で初めてうたった十津川温泉もあり、一度は訪れたい秘境としてその名を知られるものの、大和八木駅~十津川温泉間で往復6900円という、宿泊費用にもほぼ近いその費用がネックとなっていました。

 往路分の運賃を宿泊費から差し引き、復路分の無料チケットを宿泊先で発行することで運賃を全額キャッシュバック。世界遺産「紀伊山地の霊場や参拝道」のうち村内の小辺路や大峯奥駆道(おおみねおくがけみち)などにも足を伸ばしてもらうべく、2014(平成26)年から断続的にキャンペーンが行われ、通年で実施された際は年間1.2万組の観光客を十津川村に呼び込む事に成功したといいます。

 八木新宮線で大和八木から十津川村内までの所要時間は、4時間から5時間弱です。実際に乗車してみました。

途中休憩もフルに楽しめる! 八木新宮線のゆっくり旅

 始発の大和八木駅は、近鉄大阪線・橿原線がクロスする特急停車駅です。バスでこのあと経由する近鉄南大阪線の高田市駅や、同御所(ごせ)線の近鉄御所駅、JR和歌山線の五条駅から乗車すれば、最大で1時間強ほど時間を短縮できますが、キャンペーン期間中には土日を中心に大和八木駅で満員となり、2台目のバスが手配されることもあります。

 和歌山県の新宮まで、全線を乗り通すと時間にして7時間弱を要する八木新宮線は、途中休憩が3か所あります。それぞれ五條市の「五條バスセンター」、十津川村の「上野地」「十津川温泉」です。

 うち上野地バス停にほど近く、十津川(熊野川)をまたぐ「谷瀬の吊り橋」は、長さ297m・高さ54mと、生活道の吊り橋としては日本最大規模。健脚な方なら約20分の休憩時間で容易に往復が可能ですが、バスの多客時には乗客がいっせいに吊り橋に向かうため、揺れることを想定して、引き返せる余裕をもって渡りましょう。

 もう1か所の休憩地点「十津川温泉」バス停の周辺には温泉宿が多く、キャンペーン期間中にはここでかなりの人々が下車していきます。構内には小さな足湯があり、とろみがかかって肌に優しい塩泉の泉質を休憩時間内で十分に楽しめます。

日本最長169.8kmの路線バス、運賃を往復全額バック! 「八木新宮線」今だからできる楽しみ方

車内の運賃表。109番まである(宮武和多哉撮影)。

 またここには、奈良交通の十津川営業所が併設されており、ここから迫西川(せいにしがわ)や、街道の石畳が残る果無(はてなし)に向かう村営バス路線に乗り継げば、八木新宮線が走行する国道169号沿いとはまた違った、いにしえの参拝道の姿を見ることができます。

 十津川村内には宿泊施設も多く、今回のキャンペーンの対象の中でも露天風呂や野猿(人力ロープウェイ)を敷地内に備えた「ホテル昴」、天然の鮎屋やジビエ(鹿肉)料理などに定評がある「田花館」「吉乃屋」など、選択肢は実に17軒。

また村内には公衆浴場や外湯も多く、ここまで来れば、2湯、3湯と渡り歩くのも良いでしょう。

今だけ観光バス・使える村営バス!キャンペーンをさらに楽しむ裏ワザ

 今回のキャッシュバックキャンペーンは普通に利用するだけでも十分にお得ですが、さらに楽しめる方法をまとめました。

●期間限定・玉置神社への送迎バスも!

 今回のキャンペーンと並行して、村内宿泊者を対象に、熊野三山(熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社)の奥宮として知られる「玉置(たまき)神社」の参拝に便利な「十津川村周遊観光バス」が運行されています(2022年1月31日まで。利用は2日前までに要予約)。悪疫退散・商売繁昌のご利益でも知られるこの神社に十津川温泉から向かうには、10kmで実に800m以上の標高差をクリアする急坂が立ちはだかります。あまりにキツイ道のためか、自家用車での来訪者が駐車場に止めて、このバスへわざわざ乗り換えるケースもあるのだとか。

●実は使える! 十津川村営バス

 大和八木駅から十津川温泉への第1便の到着は13時29分、逆方向の最終便出発は12時14分なので、八木新宮線を利用しての日帰り周遊や十津川村外への移動は難しいのが実際のところ。しかし、「十津川村営バス」を組み合わせると、十津川温泉エリア以外にも行動範囲が広がります。

 ただ往路のキャッシュバックが適用されるのは、大和八木方面から十津川村内で下車する場合のみ。例えば大和八木からの初便で県境を越えて和歌山県側の熊野本宮大社に移動する場合、休憩をとる十津川温泉でキャッシュバックを申告していったん下車したのち、再度乗車し「本宮大社前」で下車する方法が現実的です。本宮大社からの帰り、十津川村営バスの十津川温泉行き(本宮・七色・本二津野線)に乗車すれば、1時間強の参拝時間は確保できます。また他の村営バス路線やレンタサイクルを活用し、村内に点在する温泉地(とうせんじ)温泉、十津川温泉、上湯温泉などの“温泉地ハシゴ”も十分に可能です。

日本最長169.8kmの路線バス、運賃を往復全額バック! 「八木新宮線」今だからできる楽しみ方

十津川村営バスは奈良交通に委託され、村内の各地を結ぶ(宮武和多哉撮影)。

●もう1泊&新宮行きなら復路でも5000円以上おトク?

 今回キャッシュバックが適用される区間は、往路は大和八木駅~十津川村内まで。しかし復路は全線で使用することができるため、十津川村で1泊ののち和歌山県側で2泊目の宿を確保すれば、復路は最大で5350円おトクになります。ただし新宮駅~大和八木駅間乗車の場合で、途中下車は不可です。

 和歌山県側の見どころとしては先に述べた熊野大社だけでなく、湯筒から湧き出る“つぼ湯”に癒される湯の峰温泉や、作家・中上健次さんの多くの作品の舞台となっている新宮市内など。キャッシュバック適用区間以外の移動や宿泊はもちろん自己負担になるものの、せっかくここまで来たからには、“日本最長のバス路線”の全線を余すことなくしっかりと堪能したいものです。

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