降雪時の空港では、どのようなことが起こっているのでしょうか。豪雪でも飛行機が運航できるようになるには、いくつかのステップがあります。
2022年、年が開けたばかりの札幌・新千歳空港では、大雪のため200便以上の航空便が欠航となりました。帰省の時期と重なったことで予約も満席に近いなか、空港で一夜を明かす人の姿も報じられています。また、1月6日(木)には東京都内でも積雪を観測。同日の午後からは多数の欠航便も出現しました。
旅客機の運航において、天候は大きな影響を与える要素です。降雪時の空港では、どのようなことが起こっているのでしょうか。
新千歳空港のJAL機(乗りものニュース編集部撮影)。
ジェット旅客機が巡航する高度1万mでは、雨などを降らせる雲は発生しないので、少なくとも雨や雪への注意はほとんど必要ありません。その一方で、飛び立つ前や後、つまり地上を走っている状態の旅客機は、雪に強い乗りものとは言えません。チェーンやスタッドレスタイヤといった冬季仕様のタイヤ設備はなく、横風にも弱く、機体が大きいぶん慣性も大きく働きます。高速でカーブを曲がることこそないものの、ほかの地上交通と比べても、飛行機は滑りやすいといえるでしょう。
それゆえ、空港から飛び立つまでの旅客機は、地上交通とくらべても多くのプロセスが必要となります。
まずは除雪。高速道路と同じく除雪車が出動して、滑走路や誘導路の雪をかきます。滑走路の横幅は非常に広大であるため、10台ほどの雪かき車が「ヘの字」型に並び、滑走路の端から端まで一気に除雪します。残った雪は専用車両で、滑走路の外側へ吹き飛ばします。ちなみに、滑走路一本をまるまる除雪するのに1時間程度を要します。
ただ、空港の場合「除雪完了=即運航再開」とはなりません。
路面の評価方法に実は大きな変化が?その後運航再開にむけ実施されるのが、滑走路の路面状態のチェック。この評価方法は、2021年から新たな方式が採用されています。
従来、日本では「滑走路摩擦計測車」という専用車両で路面の摩擦係数を測り、空港の運用可否が判断されていました。一方で、ICAO(国際民間航空機関)では近年新たに、異なる基準を用いて滑走路状態を判断する方法を提唱しています。
それは、より細分化された雪質と積雪の深さを用いる方法です。

新千歳空港の除雪風景(乗りものニュース編集部撮影)。
この国際的な潮流を踏まえて、日本では2021年から、ICAO流の新基準をベースとしつつも、従来の摩擦係数も算出。後者を補助的に使用する方法が採用されています。
こうして空港設備側の準備が整っても、まだ、出発機は飛び立つことができません。機体に降り積もる雪を取り払わなければならないのです。実はこれには、厳格な取り決めがあります。
航空業界では、「クリーン・エアクラフト・コンセプト」という国際的な掟があります。「機体への着雪氷が発生する状況下において、翼、プロペラ、操舵面、エンジンインレット(取り込み口)等の重要表面に、氷、雪、霜が堆積又は付着したままで離陸をしてはならない」(国土交通省の資料より)というものです。
動き出すまで/出したあとの工夫とは旅客機の場合、雪が主翼に積もって凍ってしまうと、主翼が発生する空気の力を妨げることとなり、大惨事にもなりかねません。実際、「クリーン・エアクラフト・コンセプト」は過去の降雪時におきた航空事故を踏まえて設定されたものです。
離陸前に機体の主翼に着氷した雪を除去する作業は「デ・アイシング」と呼ばれます。

デ・アイシング中のANA機(乗りものニュース編集部撮影)。
そうして雪のなか動き出した旅客機は、フラップ(主翼後方にある高揚力装置)を離陸直前に展開し、滑走路から飛び立ちます。離陸距離はほかの天候より大きくなる傾向があります。なお、フラップをギリギリに出すのは、ここに雪が積もり翼型が変わることで、飛行に影響が出ないようにするため。着陸の際は、フラップをしまわずに駐機場まで向かうことが多いです。
通常の天候でも同様ですが、航空機運航における空港施設の維持には、携わる多くの方が、氷点下のなか絶え間ない努力をしていることで成り立っているのです。