アメリカでは軍用車の代名詞的存在である「ハンヴィー」。日本においてそれによく似た存在といえるのが自衛隊の高機動車でしょう。
陸上自衛隊の「高機動車」と、アメリカ軍の「ハンヴィー」。後者は在日米軍にも配備されているため、日本国内でも見かけることがあります。両者は軍用四駆としてよく知られた存在で、外観も似通った形をしていますが、実は運転フィーリング含め似て非なる部分が多いのも事実です。
そこで高機動車とハンヴィー、両者に乗ったことのある筆者(矢作真弓/武若雅哉:軍事フォトライター)がその違いをひも解きます。
まず高機動車です。こちらは1990年代前半から納入が始まった汎用車両です。全国の陸上自衛隊部隊に広く配備されており、よく見かける通常仕様の幌をかぶせたタイプ以外にも、ピックアップトラック仕様のものも存在します。このタイプでは荷台にシェルターコンテナを乗せたり、はたまたミサイル発射機を積んだりと、マルチに運用されています。
では、その乗り心地はというと、市販の一般的なSUVに似た感覚です。ただし横幅は2.15mもあるため、運転席に座ったときの車両感覚としてはトラックに近いものがあります。
陸上自衛隊の高機動車(上)とアメリカ陸軍のハンヴィー(柘植優介撮影、アメリカ陸軍)。
実際に運転してみるとパワーステアリング(パワステ)が標準装備のため、ハンドルは軽く、上り坂でアクセルを踏み込むとエンジンが力強く回転しグイグイ登って行きます。
荷台は、ほぼフラットで通常仕様であれば8名の隊員を乗せることができます。さらに足元に荷物を置くこともできるので、荷台が狭くなってしまいますが、フル装備の1個分隊10名(前席2名含む)を最もコンパクトに運ぶことができる車両であるといえるでしょう。
アメリカ軍のハンヴィーは「ザ・軍用車両」ハンヴィーはというと、こちらは高機動車よりも早く1985(昭和60)年から量産が行われているアメリカ製車両です。幾多の実戦を経験した「ザ・軍用車両」といえる存在で、湾岸戦争やイラク戦争などでは駐留アメリカ軍のアイコン的存在となっていました。
こちらも高機動車同様に様々な使われ方をされており、防弾板や機銃の増設、バンパーガードの設置など、標準仕様にはない戦地オリジナルの改造版もあることから、高機動車よりもバリエーションが無数に存在するのも特徴のひとつです。
また高機動車と異なり、積極的に輸出され、各国の軍隊で使われているため、意外とアメリカ軍以外の国籍標識を付けていることが多いのもハンヴィーの特徴です。

陸上自衛隊の高機動車。普通科部隊を中心とした戦闘職種で移動の足として重宝されている(武若雅哉撮影)。
では実際の乗り心地はどうなのでしょうか。高機動車と比較した場合、ハンヴィーの方が全体的に堅い感じは否めません。高機動車のような繊細さはなく、運転した感覚も高機動車と比べれば荒い印象はどうしてもぬぐえないでしょう。
運転席を見比べてみても、ハンヴィーは必要最低限の作りで「武骨」という言葉がピッタリくる質素さなのに対し、高機動車はそれなりに曲線が多用され、ハンドルもウレタンで覆われた握りやすい形状で、比較した場合、高機動車の方が市販車に近い作りです。
ただし、アクセルを踏み込んだ時の圧倒的なパワー感は優に高機動車を超えます。そのため、ハンヴィーはアメリカの広い道路であれば気持ちよく運転することができます。
後継が登場したハンヴィー いまだ生産中の高機動車なお、双方ともに民間向けの車両が存在しています。高機動車は「メガクルーザー」、ハンヴィーは「ハマー(またはハマーH1)」といいますが、両車ともすでに生産は終了しており、なおかつ流通数が少ないことから中古車であっても高い価格帯で推移しています。
一見すると似た者同士の高機動車とハンヴィーですが、最も異なる部分といえば乗車定員でしょう。前出のとおり、通常仕様の高機動車は定員10名なのに対してハンヴィーは4名です。これは一度に大量生産でき、なおかつ数日分の補給品を車両に搭載して行動することが前提のハンヴィーと、少ない車両数で多くの人員と物資の短距離輸送を担う高機動車という、両者の運用上の違いが、そのまま特性として表れているからだと考えられます。
さらに、どちらかといえば戦闘職種への配備が多い高機動車ですが、ハンヴィーは戦闘系部隊のみならず兵站系、すなわち後方支援部隊への配備も充実しています。そのため、救急車バージョンや工具を満載にした修理専用ハンヴィーなどもあります。陸上自衛隊の場合、高機動車のコンポーネントを流用して開発された1 1/2tトラックが開発・採用されているため、同車が数多く配備されているからだと考えられます。

アメリカ陸軍のハンヴィー。
なお、アメリカ軍はハンヴィーの後継となる新型の4輪支援車両として「JLTV」を開発し、部隊に配備し始めています。一度はすべてのハンヴィーをJLTVに更新する予定でしたが、予算の関係上、一部のハンヴィーについては装甲化して使用し続けるそうです。
一方、陸上自衛隊は高機動車をこれからも使い続けるということで、後継車両の案は出ていません。