水上バスが次から次へやってくる「水都」大阪――そんな都市を実現すべくEV船の実証実験が行われています。高頻度運航のコア技術になるのが、桟橋側の設備と船との「ワイヤレス充電」です。

その可能性が見えてきました。

桟橋についたらEV船を自動で充電

 ユニバーサルスタジオジャパン近くの船着き場から、5分間隔でやってくる小型船に乗って、水辺に面した大阪の観光地へ自由に移動できる――そんな未来がやってくるかもしれません。

 2025年に開かれる大阪・関西万博をターゲットに、電力大手の関西電力と、商船三井や旭タンカーなどが出資するe5ラボ(東京都千代田区)と共に、関西ベイエリアでバッテリーを動力源とする電気推進船(EV船)「水上アーバンモビリティ」の開発・普及促進に向けて取り組んでいます。2022年1月27日、大阪市・八軒家浜桟橋にて、その実証運航の様子が報道関係者などに公開されました。

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実証実験に使用した大阪水上バスの観光船「アクアCielo」(深水千翔撮影)。

 今回の報道公開で目玉になっている技術が、EV船向けの「船舶用ワイヤレス充放電システム」です。その名の通り、陸上に設置された給電設備から電源ケーブルを使用することなく、船上のバッテリーへ電気を充電する装置。大阪市の「新エネルギー産業(電池関連)創出事業補助金」に採択され、関西電力とe5ラボが電機メーカーのダイヘンと組んで開発しているものです。

 実験では、大阪水上バスが運航する観光船「アクアCielo」(19総トン)と桟橋の両方にバッテリーとワイヤレス充放電機を設置。向かい合ったワイヤレス充放電コイルを介して、船内への充電を行いました。

 充放電を非接触(ワイヤレス)で行うことで、陸と船を結ぶ充放電装置のコネクター接触部分が塩害で劣化するといった従来の問題点を解決し、メンテナンス費用を低減。物理的な接触がないため、故障頻度も少なくなるので信頼性向上にもつながります。

 さらに船の充電時、重量のあるケーブルを乗組員などが持ち上げて電源プラグに接続するといった作業も不要になるため、関西電力は船舶の自動運転化に最も適した充電方法と位置付けています。

 e5ラボの末次康将CTO(最高技術責任者)は、「船を電動化するうえで、ミッシングリンクだったワイヤレス充電技術が確立すれば、EV船は完全に既存の技術で運航できるようになる」と話していました。

「手でやるか、ワイヤレスでやるか」で大違い!

「自動運航のEV船が導入されればガラリと世界が変わります。オペレーションコストが下がり、騒音や排気ガスを出さないため24時間運航も可能になるかもしれません」

 e5ラボの末次さんはこう話します。大阪市はじめ関係者の狙いは、「水都」大阪で船の高頻度運航を実現し利便性を高めることにあります。水上バスなどの小型旅客船を電動化し、IoT(モノのインターネット)を活用して遠隔監視や自動運航の導入を進めることで、大阪の湾内や河川で航行する船の柔軟な運用を可能にするといいます。

 一方で、EV船の運航本数を増やすには、搭載しているバッテリーへの充電をどのように実施するのかという課題が残っていました。手動でプラグをつないで充電するのではなく、船が乗り場に着いたら自動で充電されれば、完全な自動運航の実現も視野に入ってくるでしょう。

大阪の足は船が最強に? “自動EV船で高頻度運航”実現の切り札「ワイヤレス充電」とは
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ワイヤレス充放電の実証実験(深水千翔撮影)。

 さらに今回の実験では、船のバッテリーから陸上側への充電も行い、災害時に船舶を非常用電源として使用可能か検証も実施しています。

 関西電力は「電気あるところ関電あり」(関電ソリューション本部の奥戸義昌副本部長)を掲げ、2050年のゼロカーボン社会実現に向けてモビリティの電動化へ積極的に取り組んでいます。EV船の分野では船舶側と地上側を「双方向ワイヤレス充放電」システムで接続し、電力の充放電を制御することによって、オフィスビルなどと連携したエネルギーマネージメントや停電時のBCP(事業継続計画)対策としてモビリティサービスを活用することを目指しています。

 関電の奥戸さんは「内航船の電動化もゼロカーボンに向けた大きな課題です。技術的な課題の一つに、水上で大容量の充電を行わないといけないという難しさがあります」と話します。大容量のワイヤレス充電技術を開発し実装することが、その解決につながるということです。

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