兵器に関する話題の定番は「最強」論争。もちろん戦艦の分野でも定番の話題です。
日本が造りだした世界最大の戦艦「大和」。姉妹艦の「武蔵」とともに大和型戦艦としてよく知られた軍艦です。ただ、世界最強の戦艦となると、1980年代以降の近代化改装されたアメリカのアイオワ級戦艦ではないでしょうか。このクラスは、核兵器搭載型のトマホークミサイルやW23核砲弾が運用できるようになっています。
ただ、アイオワ級の建造時にこれら核兵器は存在していなかったため、「戦艦どうしでの最強」を考える場合は、それらを省いて考える必要があります。そうなってもアイオワ級は世界最強の戦艦といえるのか、世界最大を誇る大和型戦艦と比較してみましょう。対戦条件は、大和の最終状態である1945(昭和20)年4月。1番艦どうし、「大和」と「アイオワ」による1対1の状況で考えてみました。
主砲の射撃を行うアイオワ級戦艦(画像:アメリカ海軍)。
「大和」は基準排水量6万4000トン、45口径46cm主砲9門、27ノット(約50km/h)、舷側装甲の厚さは410mm、水平装甲の厚さは200~230mmです。一方の「アイオワ」は、1945(昭和20)年の時点で、基準排水量4万7825トン、50口径40.6cm砲9門、33ノット(約61.1km/h)、舷側装甲の厚さは307mm、水平装甲の厚さは153~159mmです。
「大和」は世界最強の主砲威力と防御力を誇りますが、「アイオワ」は「大和」よりも優れたレーダーと速力、主砲の発射速度を備えており、1対1でどちらが強いかは長年議論されてきました。
脚が速いとT字が取れるってホント?「アイオワ」は、「大和」よりも6ノット(約11.1km/h)ほど優速ですが、「大和」に対してはあまり意味がありません。「大和」の主砲射程は4万2026m。一方、「アイオワ」は主砲射程が3万8720mで、どの距離でも「大和」に砲撃されるからです。32km以遠を保てば、「アイオワ」の主砲弾は大和の水平装甲を貫通できますが、そんな遠距離ではほぼ命中しませんし、「大和」の主砲弾はその距離でも「アイオワ」の装甲を貫通します。
「その優速で大和の頭をT字に抑え、主砲を6門しか使えなくできるのでアイオワ有利」、という説もありますが、これは舵を切って同航戦になるだけです。
「アイオワは速度で勝るから、ジグザグに舵を切って大和の弾を避け、懐に飛び込める」という説もありますが、これも無理といえるでしょう。なぜなら、大きく舵を切れば速力が大幅に低下するからです。
「大和」の事例だと、大きく舵を数回切れば、速力が半減します。「アイオワ」も同様ですから、大和の砲撃を避けようと大きく舵を切れば、遅くなって「大和」に近づけません。また、戦艦は「ほぼ直進」しなければ弾が当たりませんので、舵を切れば命中率が急激に低下します。

旧日本海軍の大和型戦艦(右)とアイオワ級戦艦(アメリカ海軍の画像を加工)。
また、「大和」の主砲弾は24km程度から「アイオワ」の舷側を、一方の「アイオワ」は17km程度から「大和」の舷側を貫通します。なお、距離はあくまでも目安であり、実際には艦の向きが異なることで装甲傾斜が発生するので、さらに近づく必要があります。
両者の速度差は6ノット(約11.1km/h)なので、この24kmの距離を17kmに縮めるのに約38分かかります。「大和」の砲撃速度を1分に1発と考えた場合、最大342発の46cm砲弾が降ってくる計算になります。命中率を3%とすると10発が命中することになるため、「アイオワ」は近づく前に大被害を受けるでしょう。
なお、「大和」の射撃装置は敵速40ノット(約74km/h)まで対応しており、敵艦が速いと弾を当てられないというようなことはありません。
「アイオワ」の方がレーダーや発射速度で有利?それでもやはり、「アイオワ」には高性能レーダーがあり、主砲発射速度でも「大和」に勝るから、命中弾数で有利というハナシもあります。
「アイオワ」のMk.8レーダーは管制員が口頭で報告した数字を手動で入力することから人的ミスも生じるものであり、距離の測定以外は光学照準が必要とされていました。実際、Mk.8レーダーのみの夜間砲撃では、レイテ沖海戦の戦艦「山城」に対して命中率は0.72%と低く、かつ頻繁に故障したといいます。そのため、レーダー照準射撃といえども「アイオワ」の有利を保証する要素にはなりえないと考えられます。

旧日本海軍の大和型戦艦(上)とアイオワ級戦艦(アメリカ海軍の画像を加工)。
なお、大和の二号二型改四電波探信儀(いわゆるレーダー)も電波照準射撃を行えます。
また、レーダーは装甲板で覆うことができないため、命中弾によって使えなくなる可能性も高いです。
加えて命中率はレーダーのみで決まるものでもありません。両艦とも光学測距での照準が不可欠ですが、測距儀のサイズは「大和」が15.5m、「アイオワ」が8mですから、その点では「大和」が有利です。
さらに、命中率には射撃時の安定性も影響します。これについては「大和」が台風でも安定していたのに対し、「アイオワ」は嵐の中でイギリス戦艦「ヴァンガード」の倍も動揺したという逸話があり、アイオワの方が劣っていたといえるでしょう。
戦艦「大和」の弱点は?1対1の場合、観測機での弾着観測の有無も大きく影響を及ぼします。「大和」は7機、「アイオワ」は3機を搭載できます。「大和」の零式観測機は空戦能力を有しますが、「アイオワ」のOS2U観測機にはその能力はありません。新型のSC「シーホーク」観測機は空戦できますが、「大和」には、空戦・弾着観測・爆撃が可能な、より新型の水上偵察機「瑞雲」も搭載できるため、弾着観測は「大和」が独占するでしょう。観測機は両者の砲戦距離の中間、高度7000mあたりから観測するので、「アイオワ」の高角砲(高射砲)では届きません。
また、「大和」の徹甲弾は水中弾がやや発生しやすく、手前に落ちた主砲弾も有効弾になる可能性があります。こうした理由から、両艦の命中率は大差ないといえるでしょう。

主砲の射撃を行う戦艦「アイオワ」(画像:アメリカ海軍)。
ちなみに、「アイオワ」の主砲射撃は30秒間隔で行うことが可能な一方、「大和」は40秒間隔で、射撃速度の点で「アイオワ」が有利といわれることもあります。「大和」の約40秒は最大射程の場合で、例えば砲の上げ下げが少ない3万mなら、34秒前後で発砲できます。そして、「大和」の場合、射程3万mでは発砲から弾着まで約50秒かかります。「アイオワ」は初速が「大和」より遅いので、弾着まではより時間を要します。結局、修正を考えれば1分に1発くらいしか発砲できないため、一概に「アイオワ」有利とも言い切れません。
なお、「大和」は副砲塔の防御が弱いといわれることもありますが、そこは弱点ではないと筆者(安藤昌季:乗りものライター)は考えます。「アイオワ」の主砲弾は3万mでは落下角度35度で落ちてきますが、副砲塔に35度で砲弾が当たっても、砲塔を破壊するだけで、弾薬庫に弾は入りません。副砲塔の支柱の根元に主砲弾が命中した場合のみ、弱点となりますが、同様な防御配置をした日本重巡は弾薬庫への注水で誘爆は起きていませんので、問題はないと考えます。
むしろ「大和」の弱点は第1および第3主砲塔の手前です。
結論として、「大和」対「アイオワ」は、「大和」に軍配が上がると筆者は考えます。
※一部修正しました(2月13日12時15分)。