「無人運航船」の実証実験が相次ぎ行われ、成功しています。離島を結ぶ小型船から、多くの人と荷物を運ぶ大型フェリーまで様々。

その実現は、日本の課題解決のみならず、世界にインパクトを与えそうです。

1月~3月「無人運航」実証実験相次ぐ

 人の手に頼ることなく海上を自動で航行する船が実現する日が近づいてきました。日本財団は2025年までに無人運航船を実用化することを目標に掲げ、約88億円の事業費を投じて無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」に取り組んでいます。プロジェクトのフェーズ1として、まずは世界で初めて既存航路で無人航行を実現するため、幅広い企業が集まった5つのコンソーシアムによる実証実験が2022年3月まで行われます。

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苫小牧~大洗間を無人運航した「さんふらわあ しれとこ」(画像:商船三井)。

 1月から2月にかけては小型観光船「シーフレンドZero」や大型フェリーの「それいゆ」「さんふらわあ しれとこ」、内航コンテナ船の「みかげ」を使用した実験が行われました。

 それぞれの実験では、針路上で交差する可能性がある他の船や障害物を船上に搭載されたコンピューターが検知して避ける「自動避航」や、人の手による繊細な操船が必要な出入港の自動化といったことを、実際に運航する海域などで検証しています。

 特に「それいゆ」での実験では、全長222mの大型船が自動運航モードで、最速26ノット(約50km/h)もの高速で海上を駆け抜けるという前代未聞の試みが行われました。

 船の種類や運行距離、海域の条件も異なるそれぞれの実証実験を見てみましょう。

小型観光船「シーフレンドZERO」(神奈川県横須賀市猿島)

 2022年1月11日に新三笠桟橋~猿島間(1.7km)で実証実験を行ったのは、大手商社の丸紅を代表とするコンソーシアム「無人運航船@猿島」です。

「YOKOSUKA軍港めぐり」などを手掛けるトライアングルの小型観光船「シーフレンドZERO」(19総トン)に、三井E&S造船が開発を進めている自律操船技術を適用。離着桟や航行、避航といった一連の動作を全て操舵室前の自律化ユニットが自動で行えるようにしました。

 船上には三井E&S造船の統合操船装置(MMS)や、自動運航システムを支えるセンサーとして画像解析で小型船を検出するカメラ3台、GNSS(衛星測位システム)、AIS(船舶自動識別装置)などを搭載したほか、実証実験ではさらに離着桟センサーとLiDAR(レーザーレーダー)も設置しています。

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シーフレンドZERO(深水千翔撮影)。

「シーフレンドZERO」は報道関係者らが見守る中、操舵室のスロットルを自動で動かして新三笠桟橋を離桟。航行中に障害物検知システムが邪魔になりそうな他の船を検知すると、AI(人工知能)の分析を基に自律操船システムが針路を変更し、船を避けて猿島へと航行を継続しました。

 目的地が近づくと自船の位置や速度、周囲の風向・風速を把握しながら減速し、スラスターを使って着桟。人を乗せた状態で、無事に自動での運航を終えました。

大型フェリー「それいゆ」(北九州市新門司・伊予灘)

 1月17日には三菱重工業グループの三菱造船と新日本海フェリーのコンソーシアムが、大型フェリー「それいゆ」(全長222m、1万5515総トン)を使用した無人運航を北九州市新門司から伊予灘の海域で行いました。

 全長200m超の大型フェリーが最速26ノットの高速運転を無人で行うのは世界で初めてです。船の方向を転換する回頭や後進といった高度な操船も自動で行い入出港しました。

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新門司周辺海域で無人運航を行った東京九州フェリー「それいゆ」(画像:日本財団)。

「それいゆ」には赤外線カメラにより夜間でも他船の検出が可能な物標画像解析システムや、自動避航機能を含む自動操船システム「SUPER BRIDGE-X」、自動化が困難な回頭や後進を伴う高度な自動離着岸操船システムなどを搭載。また、無人運航において大きな課題となる故障予測の技術として、電動機状態監視など機関部の監視強化技術も開発し、効果の検証を進めています。

 さらに機関室の遠隔監視や高度なサイバーセキュリティーシステムは、今後の船舶の自動化、無人運航化の進展に向けて、より安全で効率的な海上輸送の実現に向けた大きな一歩となることが期待されています。

 なお、「それいゆ」は2021年7月に横須賀~新門司を結ぶ「東京九州フェリー」の船として運航していますが、その当初から無人運航実証のためのデータの蓄積を行っていました。

内航コンテナ船「みかげ」(福井県敦賀港~鳥取県境港)

 1月24日から25日にかけては、商船三井を代表企業とするコンソーシアムが、世界初となる営業コンテナ船による無人運航を成功させました。使用した船舶は井本商運が運航する内航コンテナ船「みかげ」で、福井県敦賀港から鳥取県境港まで約270kmの区間を無人で航行しています。

「みかげ」には、他の船を検出するセンサーとして使用しているAIS(船舶自動識別装置)とレーダーに加え、可視光カメラと夜間対応の赤外線カメラを搭載しています。さらにAI学習による他船検出システムが、他船の動きに基づき衝突を避ける自律操船システムと連動し、自動運航を実現しました。船上ではAR(拡張現実)技術を活用し、船上からの映像に各種情報を画面上に重ね合わせて表示するシステムも使用しています。

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みかげの無人運航実験ではドローンも活用された(画像:日本財団)。

 さらに、通常なら船員が総動員で行っている着岸作業の船員負担を軽減するため、船を岸壁に係留するロープをたぐりよせるヒービングラインを無人のドローンで運ぶ実験も行いました。

「みかげ」が境港港で接岸準備に入ると、A.L.I.Technologiesが独自に開発した自律飛行ドローンが、ロープをつかんだ状態で船上から飛び立ち、港側の係留柱へセット、そのうえで係船を実施しています。その後、ドローンは係留ロープを切り離し再び同船に戻ってきました。

大型フェリー「さんふらわあ しれとこ」(北海道苫小牧港―茨城県大洗港)

 商船三井が参画するコンソーシアムは、商船三井フェリーが運航する大型フェリー「さんふらわあ しれとこ」(1万1410総トン)を使用した実証実験も行っています。

 同船は2月6日から7日にかけて、北海道苫小牧から茨城県大洗まで約750kmの距離を、約18時間かけて無人で航行しました。これだけの長距離、長時間を自動で運航するのも世界で初めてのことです。

 また、無人運航船の実用化にあたっては、陸上での監視も必要なため、AR技術を活用し、船上からの映像に各種情報を重畳表示したARナビゲーションシステムの開発も行われました。

無人運航船プロジェクトで一体何が変わるのか

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猿島の実証実験時の会見で。左から2番目が日本財団の海野光行常務理事(深水千翔撮影)。

 日本財団の海野光行常務理事は「船の無人化、自動化は社会課題の解決策の一つになる」と話しています。

 現在、内航海運では50歳以上の船員が50%以上と高齢化が進み、物流を維持するため早急な対策が求められています。さらに約400か所ある有人離島を結ぶ離島航路についても、1日あたり朝夕の 2便のみといった航路が数多くあり、便数不足でも船員のなり手がなく増発も困難という深刻な状況に陥っています。

 こうした中、日本財団は無人運航船を開発することによって、船舶の柔軟な運用が可能になり貨物・旅客ともに高頻度の運航が実現するとしています。

「世界初」 まだまだ続く実証実験

 小型貨物では、宅配便など小口輸送における海上輸送の拡大が見込まれ、自動運転トラックやドローンと連携した無人輸送の進展も期待できます。離島航路ではダイヤを組みやすくなり、住民の足としてより活用されるようになるだけでなく、観光客がすぐ船に乗って移動できる環境を整備することで、海上旅客利用者の増加にもつなげられます。

 また、海難事故の原因の約7割から8割がヒューマンエラーといわれており、これまで船員が担っていた見張りの役割を機械が肩代わりし、将来的には自動化することで、事故の減少につなげようという試みも進められています。

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「それいゆ」に搭載された離着岸自動操船システムモニター(左)と操船状況モニター(画像:三菱造船)。

 海野常務理事は「無人運航船の普及を通じ、日本に物流革命を起こすとともに、海運国日本の実力を世界に示す。日本の物流、海事業界の活性化につなげていきたい」と語っていました。

 今後は2月26日から3月1日にかけて日本郵船グループの日本海洋科学を代表企業とするコンソーシアム「DFFAS(Designing the Future of Full Autonomous Ship)」が東京湾~伊勢湾間でコンテナ船「すざく」を使用した実証実験を、3月14日にITBookホールディングスを代表企業とするコンソーシアムが群馬県の八ッ場あがつま湖(八ッ場ダム)で水陸両用船「山鳥天狗号」を使用した実証実験を行います。前者は東京湾という多くの船が行きかう“輻輳海域”で、後者は水陸で連続した自動運航(運転)を行うもので、いずれも世界初の試みです。

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