山陽電車の大塩駅にて、上りの特急で行われていた「ドアカット」が解消されます。この駅が長らく短いホームのままで営業を続けていた背景には、塩田の町としての歴史と、巨大リゾート計画に絡んだ駅移転構想がありました。

橋上駅化で“どうにか”ホーム延伸

 山陽電気鉄道(以下、山陽電車)大塩駅の名物でもあった「ドアカット」が解消されます。この駅の上りホームは長さが5両分しかないことから、6両編成の特急が停車すると後ろ1両がホームからはみ出てしまい、その車両のみドアを閉めたままにしていたのですが、2022年2月19日(土)からホーム延伸部の一部供用が始まり、はみ出しが解消されました。首都圏・東海圏などではまだ珍しくないドアカットですが、関西の主要駅では、この大塩駅ホーム延長の完成をもって過去のものとなります。

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大塩駅上りホームに直通特急が停車した状態(ホーム延伸部供用前)。後ろ1両がホームからはみ出てドアカット扱い(宮武和多哉撮影)。

 5両分のホームを1両分延伸、そう聞くとたやすいように思えますが、大塩駅は両側を県道と生活道路に挟まれ、かつ駅構内には上りホームと下りホームをつなぐ構内踏切もあり、延伸できなったのです。構内踏切が端部にかかっていた上りホームは、5両分の確保さえギリギリでした。

 もともと山陽電車は長らく最大でも4両編成だったのですが、山陽姫路駅と阪神の梅田駅を結ぶ「直通特急」が1998(平成10)年に運行を開始するにあたり、大塩駅でドアカットの必要が生じるようになりました。特急・直通特急の停車駅で同様にドアカットを行っていた飾磨駅や、阪神の三宮駅(現・神戸三宮駅)は2011(平成23)年までに全て改善され、対応を要するのは、この大塩駅のみとなっていました。

 もう一つ、駅の改良が進んだ理由がバリアフリーへの対応です。大塩駅の利用者は1日約4000人。国土交通省が2011(平成23)年に「利用者3000人以上の駅は原則全駅でバリアフリー整備」という方針を策定し、大塩駅での対応が急がれることとなりました。

車いすなどの利用者にとってバリアとなる構内踏切を解消するため、2018年から駅の橋上化工事に着手し、ホームを延伸。こうしてドアカットを解消したのです。

 ただ、大塩駅で一連の改良が遅れたのは「まったく違う場所に移転しようとしていた」ためとも言われています。実現すればドアカット・バリアフリーが改善されるだけでなく、「年間400万人が利用する一大リゾート地」までセットだったという計画がありました。

巨大リゾート計画のなかに位置付けられていた駅移転

 1923(大正12)年に「神戸姫路電気鉄道」の駅として開業した大塩駅の南側には塩田が広がり、周辺には何棟もの“塩倉庫”が集積していたといいます。この地は電車で三宮まで60分弱、姫路まで10分強と利便性が良いこともあって、174haもの塩田跡地と、大塩駅の駅移転などもセットになった「姫路市大塩・的形臨海部開発計画」が公表されました、

 そしてバブル経済に向かうなか、計画はどんどん肥大化し、1990(平成元)年に公表された資料では、先行開業した「姫路シーサイドゴルフコース」をはじめとしてショッピングモール、姫路市立水族館(移転)、大学、ホテルにマンション群など、人口3万人を擁する都市計画に。その中で山陽電車も300mほど南側(現在のトーホーストア大塩店近辺)に駅や駅前用地が用意されたほか、同様に移転が計画されていた飾磨車庫も、駅西側を流れる天川(あまかわ)右岸の土地が割り当てられる予定だったといいます。

 しかし、開発計画のうち実現したのはゴルフ場、大学(現在の姫路大学キャンパス)などごくわずか。水族館も現在の手柄地区から動くことはありませんでした。1350億円(2025年大阪万博の建設費並み)もの予算で、阪神甲子園球場の年間来客数に匹敵する400万人もの観光客を当て込んでいたこの計画には、バブル期らしい無謀さも感じられます。なおこの構想は、「経済条件の変化」を理由として、2019年に構想が正式に断念されています。

「後ろ1両ドア開きません」関西最後のドアカット解消 大塩駅 遅れた背景にリゾート計画
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長らく存在した構内踏切も改良工事により廃止された(宮武和多哉撮影)。

 周囲の開発そのものが進まないなか、大塩駅の移転も長らく棚ざらし状態になり、姫路市議会でも年1回ほど駅移転の話が出ていたようですが、その度に「用地確保済み、あとは(山陽)電鉄の申し出次第」という定形文のようなやりとりが続いていたようです。大塩駅の改良が長らく事業化に至らなかったのも、この開発構想が影響していたのではないでしょうか。

実現しなかった駅移転 そこに道路が来る?

 大塩駅の南側には、移転が計画されていた用地につながる細長い土地が、いまでも「山陽電鉄社有地」として残っています。しかし近年は分譲住宅への転用が進んでおり、いずれはその名残が消滅するかもしれません。また広大な用地は日当たりの良さを生かし、県内有数のメガソーラー発電所として、違う形で地域に貢献しています。

 そしていま、海沿いの塩田跡地は、加古川バイパスから姫路市広畑地区を東西に結ぶ高規格道路「播磨臨海地域道路」の用地として注目を浴びています。40km近くにおよぶ道路計画のうち、高砂市~姫路市飾磨(飾磨バイパス入口)は2016(平成28)年に「整備を優先すべき区間」とされ、調査が進んでいます。この計画線上でまとまった土地が空いているのは大塩地区だけ。もしここに出入口が整備されれば、山に囲まれている上に道の細さなどから渋滞も多い大塩地区のアクセスは一変することでしょう。

「後ろ1両ドア開きません」関西最後のドアカット解消 大塩駅 遅れた背景にリゾート計画
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新設された大塩駅南口。送迎車などのバスロータリーを整備中(宮武和多哉撮影)。

 この播磨臨海地域道路は、国道2号バイパス(加古川バイパス・姫路バイパスなど)のさらにバイパスとしての機能を持ちます。

国道2号バイパスは1日2~3万台のトラックが走行し、渋滞も多く、また建設から50年が経過していることから大幅な改修は避けられず、新しいルートの建設が急がれています。山陽道・中国道などの高速道路網からは大きく外れている播磨地区の臨界部で、塩田跡地があらたな大動脈として生まれ変わるのか注目されます。

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