とっくの昔に廃れた木造の帆船を貨物船として新たに建造し、商船として再び活躍させるプロジェクトがコスタリカで進んでいます。その背景には、いまだからこその需要が存在。
大航海時代さながらの貨物船を現代に復活させ、商船として運航させるプロジェクトが進んでいます。
コスタリカに拠点を置くスタートアップ、SAILCARGO(セイルカーゴ)は2022年中に、3本のマストと14枚の帆を持つ全長46mの木造貨物船「Ceiba」を就航させる予定です。まずはコスタリカとカナダを結ぶ航路に投入し、さらにペルー、ガラパゴス諸島、アラスカなどへも航路を拡大します。第1船だけでなく、需要の増加に伴って2隻目の建造も計画中です。
SAILCARGOが建造する木造貨物帆船「Ceiba」のイメージ(画像:SAILCARGO)。
新造の木造船「Ceiba」は、20世紀初頭の北欧で活躍していた貨物スクーナー(帆船の一種)から着想を得つつ、安全性、スピード、貨物積載量を確保するために現代的な要素を取り入れて設計されています。
主な素材はコスタリカ産の熱帯広葉樹。建造にあたっては、乾ドックやクレーンなどで構成される近代的な造船設備は使わず、古い技術と新しい技術を組み合わせながら工事を進めてきました。細かい部品はアゼとノミを使って手作業で仕上げ、重いフレームの配置でさえ、滑車と人力によって行われています。
一方で作業の効率化のため、電動ノコギリやトラクターなどの機械を使用しているほか、建造工程は3Dコンピューターモデルを用いながら検討したものに従って計画されています。建造に用いる機械のなかには、1900年代にカナダの造船所で使われていた大型の回転式船舶用ノコギリもあり、小型バイクのエンジンと組み合わせて木材の加工に使用しています。
「Ceiba」のキール(船底の部材)は2019年1月に敷設され、フレームは2020年12月に組み上がりました。2021年10月の作業写真を確認すると、甲板の下に設ける梁(ビーム)の設置工事が着々と進行している様子が見てとれます。
積み荷も大航海時代っぽい!?「Ceiba」は20フィートコンテナ9個分に相当する250トンの貨物を積載できます。総トン数は299トン。日本では小型の内航船で見ることができるサイズです。
船内にはリチウムイオンバッテリーを搭載し、航行時は帆走をメインとしつつ、港内や風が弱いときは補助の電気エンジンで航行します。船内のバッテリーは甲板上に置かれたソーラーパネルか、航行中に生じる2軸の可変ピッチプロペラの回生エネルギーを利用して充電します。
帆走時の最高速力は12ノット(約22.2km/h)ですが、スケジュールに余裕を持たせ安全に航行するため、平均航海速力は4ノット(約7.4km/h)を想定しています。沿岸だけではなく外洋航行も想定しており、たとえばコスタリカ~カナダ航路の場合、往路はハワイを経由してカナダまで北上し、復路はカリフォルニアを経由してコスタリカまで戻るルートを取ります。

SAILCARGOの造船所。近代的な造船設備はない(画像:SAILCARGO)。
主な積み荷は、コーヒー豆、カカオ、ターメリック、アボカド、大麦など。SAILCARGOは付加価値の高い自然食品について、CO2(二酸化炭素)を排出しないゼロエミッション輸送の主要分野と位置づけており、環境意識が高いメーカーや小売業者、輸出経験のない小規模農家などをターゲットにサービスを提供していくとしています。
すでに2021年11月にはカナダのフェアトレード輸入業者であるカフェ・ウィリアム(Cafe William)と提携しており、同社の焙煎工場向けコーヒー豆輸送にも使用されるとのことです。
今だからこそ生まれたエミッションフリー船SAILCARGOが木造帆船の建造に取り組む背景には、海運が直面しているGHG(温室効果ガス)の排出削減という大きな課題があります。
貿易の90%を支えている国際海運は年間約8億トンものCO2を排出しており、世界全体で占める割合は約2.2%とドイツ1国分の排出量に匹敵します。IMO(国際海事機関)では2050年までにGHG総排出量を2008年比で50%以上削減することを掲げる、「GHG削減戦略」を2018年4月に採択しており、船会社や造船所は省エネ効率を高めた環境に優しい船舶や、水素やアンモニアといったカーボンフリー燃料エンジンの開発を進めています。
環境への対応は荷主にとっても同様です。流通行程全体で環境負荷を低減すべく、よりクリーンな輸送手段を選ぶ動きが活発化するなか、海運業界は環境対応の“競争”で荷主から選ばれる必要があるのです。そうしたなかでSAILCARGOは、風力と再生可能エネルギーのみで航行する貨物船で、クリーンな海上輸送の価値を証明する構えです。将来は、より大きな船型を開発し船隊の拡大を図っていきます。
1番船の「Ceiba」には補助エンジンの動力源としてバッテリーが搭載されますが、今後は水素燃料電池や藻類バイオ燃料の搭載も視野に入れています。さらに布のような柔軟性を持つ太陽電池であるソーラーファブリック製の帆を使うことも考えています。
SAILCARGOは日本に進出する機会を探っています。
同社のダニエル・ドゲット(Danielle Doggett)CEO(最高経営責任者)は取材に対し「日本は当社が協力するのに理想的な国です」との見解を示しました。
「日本は強力な島国であり、海が日常生活の主要な部分を占めています。私たちは、日本の豊かな海運の歴史を継承し、クリーンな海運で明るい未来を創造するために協力したいと思っています」(SAIRCARGO ダニエル・ドゲットCEO)
さらに「日本が提供する比類のない文化的にユニークな製品は、その製品にふさわしい方法で出荷する価値があります」と述べ、木造貨物スクーナー船のような「エミッションフリー海運を利用することで、価値ある製品が、CO2の排出なしに市場に届くプラットフォームを提供することができます」とアピールしています。