「コロナ3年目」2022年度もバス業界は苦境が続いています。これまで大手私鉄が交通を担っていた大都市郊外でも路線バスの維持が課題になりそうな一方で、将来を見据えた動きも進んでいます。
「コロナ3年目」を迎え、感染者数は依然として高止まりしています。しかし飲食店の営業自粛は終了するなどしており、例えば政府による「安全宣言」のような明確な節目がないまま、「ポストコロナ」に移行しつつあるようにも思えます。「リベンジ旅行」といった熱狂はなく、徐々に旅行や出張、オフィスへの出勤の再開が進みそうにみえる2022年度、バス業界にはどのような課題と未来が待っているのでしょうか。
現在、路線バスの輸送人員は平年の7~8割、高速バスでは4~5割に留まっています。安全宣言などの節目がないなら、将来的には回復するにしても、そのテンポは遅いでしょう。一方、雇用調整助成金の特例措置など公的な支援策は、いつか終了するはずです。
おまけに、燃料(軽油)代が高騰しています。過去5年で約4割上昇していた上、ロシアによるウクライナ侵攻や円安がさらに追い打ちをかけました。バス業界は、輸送人員低迷、支援策終了、燃料費高騰という「三重苦」の状態にあると言えます。
路線バスは通勤の在り方の変化が今後を大きく左右する。写真はイメージ(画像:photolibrary)。
事業別に見てみましょう。
路線バスは、大都市部では安定した利益を生み出してきた一方、地方部では、常態化した赤字を公的な補助金で埋めてきました。その狭間にあって気になるのは、大都市の郊外です。郊外地区の主なプレーヤーは大手私鉄系事業者で、バス事業自体が利益を生むとともに、鉄道のフィーダー輸送の役割を担ってきました。
「私鉄さんにお任せ」が崩れる大都市近郊地方部で、手探りしながらも自治体が地域交通に責任を認識し、補助金を出す方も受け取る方もそのノウハウが蓄積されてきたのと対照的に、大都市郊外では、自治体も地域住民も「私鉄さんにお任せ」という雰囲気です。当の私鉄グループも「沿線の交通は任せろ」という意気込みでしたが、多くの路線で赤字が定着すると、そうもいきません。
黒字経営を前提としていた路線の赤字化が進む大都市郊外で、路線バス網をどう維持するかが今後の課題になりそうです。大都市郊外は、高度成長期からバブル期にかけ人口が急増した分、高齢化も急速に進むからなおさらです。

空港連絡の高速バスは航空需要にも左右される(中島洋平撮影)。
次に高速バス分野の需要回復は「まだら模様」です。高速バスは従来、「地方の人の大都市への足」として成長しました。地方から大都市へ、出張や都市部でのショッピング、コンサートなど様々な目的の流動が、また逆方向では帰省利用もあり、年間を通して安定した需要がありました。
その中では、帰省需要が先行して回復しています。コンサートやテーマパークへの移動も、制限緩和により回復するでしょう。そういった個人需要に比べ、ビジネス出張は完全には回復しない恐れがあります。片道200km以下の、高頻度運行する昼行路線は出張の利用が多かっただけに心配です。
逆に需要を十分に取り込めていなかった大都市発の観光客ですが、日帰り可能な、1か所完結型の観光地への路線が比較的好調です。御殿場などのアウトレットモールや東京ディズニーリゾートへ、津田沼や相模大野といった郊外から直行する新路線が相次いでいます。22年秋には、関越道花園IC(埼玉県深谷市)の前にアウトレットモールが、また愛知県長久手市に「スタジオジブリ」のテーマパークが開業予定で、新路線が期待されます。
依然厳しい貸切バス しかし安定した需要も貸切バスの分野は、短期的には春の遠足、修学旅行シーズンにいったん需要が戻るものの、中長期的には厳しい将来が予測されます。
筆者が「社会的な旅行」と呼ぶ、企業や町内会などの慰安旅行の需要減少は、コロナ禍でより加速したと考えられます。観光地を総花的に巡る旅行会社のバスツアーも、シニア層の出控えにより市場縮小が加速しそうです。将来、インバウンドが回復しても、団体ツアーからFIT(個人自由旅行)へのシフトが進み、貸切バスの出番は少ないでしょう。
厳しい中ですが、通販サイトの配送センター従業員の通勤送迎バスや、高級ツアー専用の豪華バスといった分野の受注は安定しています。いずれも発注側の企業や一流旅行会社からの信頼が重要な分野です。そういう強みを持たない貸切バス事業者では、コロナ対策の公的な支援策終了によって、経営破たんが続く恐れがあります。
思わぬゲームチェンジャー? 「日野自の不正」がもたらす影響

日野の大型観光バス・セレガ。メーカー不正の問題を受け出荷停止となっている(画像:日野自動車)。
なお、日野自動車によるエンジン燃費測定試験の不正が2022年3月に判明し、同社およびいすゞ自動車ブランドの高速、貸切バス大型車の出荷が停止しています。直近では、幸か不幸かコロナ禍により新車の需要が減るとともに中古バスの在庫に余裕があり、影響は最小限に留まっています。しかし、問題が長期化すると、同タイプの車両製造は国産では三菱ふそうトラック・バス1社に限定され、供給量が制約されることが懸念されます。
ディーゼルエンジンに関する不正が原因ということもあり、長期的には「EVシフトを加速させそうだ」という関係者の見通しが聞かれます。
課題の多いバス業界ですが、将来を見据えた動きは、コロナ禍でも変わらずに進んでいます。
東京の新バスターミナル開業本年9月、東京駅前に新しい高速バスターミナル「バスターミナル東京八重洲」が開業し、2028年度までに国内最大規模に拡大予定のほか、全国でバスターミナル新設プロジェクトが相次いでいます。これまで多くの事業者が大都市部で停留所不足に泣かされてきただけに、新路線や後発参入のチャンスだと言えます。
大型二種免許「19歳から」に乗務員に関することでは、本年5月、事業用バスの運転に必要な大型二種免許の受験要件が緩和されます。最低でも21歳にならないと受験できなかったものが、一定の条件が付きますが19歳から受験できるようになります。
昨今深刻になっている乗務員不足、その背景の一つが、高校や専門学校の新卒者を採用しても、乗務員としてデビューするまで時間がかかることでした。この要件緩和で、鉄道などと同様、新卒採用後に乗務員として養成する動きが定着することが考えられます。

乗務員採用の動きが再開。22年3月、東京バス協会が「運転体験会」を開催(画像:バスドライバーnavi)。
※ ※ ※
さらに現在、自動運転技術の確立に向け各地で実車を用いた実証実験が行われています。スマホの配車アプリを活用した、路線バスとタクシーの中間に位置するオンデマンドバスのような新しいモビリティも同様です。
コロナ禍という未曽有の危機を乗り越えるには、輝かしい技術に象徴される長期的な視点と、足元の現実的な課題の解決を両立させることが求められています。